生成AIで2023年を席巻した一年、一番話題の人だったOpen AIのCEO(をクビになってまた戻ってきた)サム・アルトマンが推薦する書籍10冊をご紹介します。
彼がX(Twitter)などで紹介したものを集めました。
確かにこういうの読んでるだろうな、というものから、えっ?意外!なものまで、興味深いです。
1. スーパーインテリジェンス 超絶AIと人類の命運 ニック・ボストロム

AIが自分自身で改良して成長し、人間を超える知性となることをシンギュラリティと言って、それがいつ起きるのかが議論されています。
この本は、そのシンギュラリティが起きた場合に実際にどんなことが起きるかを検証したもの。
AIの安全性を力説しにここ日本にもやってきたアルトマン氏、こういった本を読んで「リスク」を指摘されたときの理論武装をしているのでしょう。
ちなみに、スタートアップによるイノベーションで他国に立ち遅れつつある日本を、経産省・官邸リードで、AIで一気に巻き返そうとする動きがあるのをご存じですか?
イタリアが初期にOpen AIを規制したり、AIに対する規制が厳しい国も出てきているヨーロッパに対して、自由に使える方向で巻き返そう、という事。
私が勤めている会社では、最近Chat GPTの自社版をマイクロソフト社と契約して、社員が自由にGPTを使えるようになりました。
法人契約をすると、世界中からGPTが収集するビッグデータは使えるものの、社員が社員のアカウントを使ってインプットした情報は、社外には出ないというサービスです。
これを提供するために、MS社は巨額をOpen AI社に投じていたのですね。
ちなみにその社内GPTを使うと、ブログ記事などはさっと書けます。
が!日本語のクオリティは英語にくらべるとてんでお話になりません。
やはり、ここでも日本はどんどん遅れをとるんじゃないかな~というのが私の所感。
2.『夢遊病者たち1・2 第一次世界大戦はいかにして始まったか』クリストファー・クラーク


やー勉強してますねアルトマン氏...。
総戦死者数が一千万人に上る第一次世界大戦。
きっかけはヨーロッパの端にあるボスニアのオーストリアによる併合と、セルビアによるアルバニア攻撃。何やら現代に通じるような雰囲気がしません?
「夢遊病者」というタイトルの由来は、当時の欧州の指導者はまるで
「夢遊病のように」苛烈な戦争に突入していった、という著者の考えを表しています。
大局を見ていれば、「これはやばいことになる」と分かったはずなのに、当時の指導者は目の前の紛争一つ一つを局所的にしか見ていなかった。
結果的に、出来事がつながり、どんどん自体が大きくなり、世界大戦へと発展。
アルトマン氏がこれを読んでいることの興味深いところは、やはり今の時代背景にあります。
ウクライナ戦争に続いてパレスチナ問題。
この二つの出来事は、現在はまだ第三次世界大戦には到っていません。
しかし、その経済的影響は世界中に波及しています。
第一次世界大戦の火種となったのも、ヨーロッパの小国において、経済的困窮から生じる不満が抑えられなくなったこと。
AIはまた、ロシアなどによるSNSを使ったフェイクニュースやプロパガンダ投稿の量産にも使われることの危険性が指摘されています。アルトマン氏がそういった現実を見据えながら備えているのかと思うと、ちょっと怖い。
3.『ファスト&スロー(上下) あなたの意思はどのように決まるか?』ダニエル・カーネマン


今の時代、すべての情報の速度はとてつもなく早い。
TikTokをスワイプする速度も速いし、ビジネスの動きもとにかく早ければ早いほどいいとされる。
でも、そのペースに常に急かされていると、バーンアウトしちゃいます。
私は、通勤の電車の中では会社携帯をみないようにしています。
電車の中で、メールの最初の数行を読んだだけで、早とちりして間違ったレスポンスのメールを送ってしまった経験からの反省があるから。
メールは、会社について、席にすわって、落ち着いてから書くことにしています。
息つく暇も暇もないペースで進んでいると、自分の心の芯までがその超絶ペースに汚染されてしまう。
すると、プライベートでもいつも焦っちゃう。
行動も乱暴になるし、家族にもイライラしやすくなる。
人の心って、ゆっくりペースも必要です。
それが続くと、ビジネスでも焦って間違った判断を下してしまうことにもなりかねない。
勿論、とっさの行動が求められることもあります。
横断歩道を歩いていたら、急にタクシーがバックしてきた時など。命を守るために瞬時に行動しなくてはならない。
要するに、いつ「速さ」のスイッチをオンにし、
いつ「遅さ」のスイッチをオンにするのか?
そのタイミングを適切にすることで、効率を良くしつつ、自分の心理的安全性を維持することができる。
常に速さを求められているアルトマン社長が「遅さ」の重要性をリマインドする必要があるんだろうな、と何となく納得です。
4.『アインシュタイン その生涯と宇宙』(上下)ウォルター・アイザクソン


ナチスの迫害を逃れてアメリカへと渡ったユダヤ人の天才物理学者、アインシュタイン。
「創造力は知識より重要である」と語ったアインシュタインの生涯に強い関心を持つアルトマン氏もまた、ユダヤ系です。
おりしも、彼が革命を起こした相対性理論と量子力学論の矛盾解決を目指す新理論が話題になったりしていますが...。
改めて読んでみたら面白そうです。
5.『ブリッツスケーリング』リード・ホフマン、クリス・イエ、ビル・ゲイツ序文
「ブリッツスケーリング」とは、書籍紹介によると;
「総力を挙げて成長に集中する電撃戦。
成長しながらチームや企業を運営するための戦略と技術のセットが、ブリッツスケーリングだ。
先が読めない環境で成長するには、効率なんて考えるより、とにかくスピードが重要だ。これまでは「リスクがありすぎる」「常識外れ」と言われるような方法も、必要なら採用する。ブリッツスケーリングという武器を手にした者だけが、不確実性の困難を切り抜け、圧倒的に成長して世界と未来を変えられる」
とのこと。
キャリア人材を対象としたSNSのリンクトインの創始者、リード・ホフマンがスタンフォードで行った講座をもとに書き起こされたもの。
Open AIがやっていることって、確かに「発生させながら判断し進める、それもすごい電撃戦でスケールを拡大する」という感じで、まさに「ブリッツスケーリング」。
ちなみに「スケーリング」はビジネスでよく使われる言葉で、規模の拡大、を意味します。
6.『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何をうみ出せるか』ピーター・ティール
ゼロから生み出すことによって、その市場を独占することができる、という内容の本。
たとえば、グーグルしかり、アマゾンしかり、テスラしかり、ネトフリしかり。
「自分が得意なことでやるのは当然だが、まずはやろうとしていることが未来においてどれほど価値があるかを考えよ。そして効率的にそれを売る方法を考えよ」と語るティールは、PayPal、OpenAI、Palantir共同創業者、Meta(Facebook)最初期投資家で、「ペイパルマフィア」と呼ばれるペイパル創業者の中でも、イーロン・マスクと関係が深く、「ドン」と呼ばれ、ドナルド・トランプ元政策顧問でもあり、「影の米大統領」の異名を持つ人物。
2024年大統領選はどうするのですかね?!
どうやら、「思ったよりクレイジーだった」ということでもう誰も資金援助しないんだそうです(Guardinan) 、ほっ?かな。
振り返ると、トランプ氏が大統領となったのには、当時のTwitterが大きく貢献していましたが、そのTwitterをこの人の盟友が買収し、どんなに大変な状況になってもこだわっているのには、何か深い理由があるのか?!とふと思いました(マスク氏が大統領選に出馬するとか...??)。
ちなみに、ビジネス界隈の裏話ですが、このティール氏、昨年から今年にかけてアルトマン氏と前後して東京を訪れていて、日本の政治家トップと相次いで会談をしていた、とのこと。
デジタルイノベーションでの遅れを挽回したい日本のリーダーと、自由な開発拠点を求めるティール氏らの利害関係が一致したのではと言われていますね。
いずれにせよ、各国の政治指導者と結構ダイレクトな関係を構築しているみたいですよ。やはり、彼のような人が立ち上げるビジネスは、規制によって大きく左右されますからね。
7.『無限の始まり:ひとはなぜ限りない可能性をもつのか』デイビッド・ドイチェ
ドイチェは、 オックスフォード大学の物理学教授、量子計算研究センターに所属する
量子計算理論のパイオニアにして、並行宇宙論の権威、多世界解釈の主唱者として知られる研究者。
宇宙は無限であり、よって人間の可能性も無限である、ということ。
宇宙人や神などのより高次の存在だって、可能性として大いにありうるよね、っていう事なのかと思うと、人としてこの世界に生を受けていることのすばらしさを感じます。
ちょっと前まではこんなに生成AIがクリック一つで使えるほど一般化するなんて誰も思っていなかったところに大きな変化を起こしたアルトマン氏ならではの推薦です。
8.『VCの教科書:VCとうまく付き合いたい起業家たちへー資金調達する前に知っておきたいこと』


これは、実用的な本なのでしょう。
9.『ウィニング 勝利の経営』ジャック・ウェルチ
言わずと知れた「20世紀最高の経営者」ウェルチ氏の著書。実はこれ、読んだことないのですが、本の内容をみますと、読んだ方がいいのかな?と思いました;
●優秀な人材とダメな人材を、どう扱ったらいいのか
●ライバル会社に勝つ・戦略・の選び方
●社内に率直なコミュニケーションを根づかせるには
●いつもは退屈な予算作りを、もっと楽しくする方法
●新規事業に挑戦するときのガイドライン
●昇進するためにやるべきこと、やってはいけないこと
●シックス・シグマはなぜ重要か
●M&Aの利点と落とし穴
●人に辞めてもらうときのポイント
●仕事と家庭のバランスをとる秘訣
意外ににも、「人間関係・人事」に関わる無いよおうが多いんですね、、、。
やはり、企業は「ひと」です。
そして個人的に、一番意外でありつつも納得したのが最後のこちら:
10.『夜と霧 ドイツ強制収容所の体験記録』


精神科医のビクター・フランクルが、自ら強制収容所に入れられ、半ば「死人同然」の状態をさまよいつつも、生きながらえることができたのは、一重に「尊厳」。
それを支えるのは、自分自身の中にある確固たる「コア」であり、それが生への想いを支えるのだ、極限状態に置かれた時に生死を分けるものは、それを持っているかどうかにかかっている、というのが、高校時代の課題図書としてこれを読んで感動した私の記憶です。
ユダヤ系であるアルトマン氏、これを含めて第一次世界大戦やアインシュタインの伝記など、現代を生きるユダヤ人としてのアイデンティティをしっかりと深耕していることがわかりますね。
人間史上最も残酷で暗い歴史であるユダヤ人虐殺。それが起こりうるものであることを常に意識している。それは、これほど短期間で社会を大きく変えるテクノロジーを普及させたアルトマン氏のような経営者にとって、非常に重要なことでもあるし、ほっとするところでもあります。












