マイルス・デイヴィスの自伝はまだ読み終えていないのだが、この流れのなかで「Miles Ahead/マイルス・デイヴィス 空白の5年間」という映画を見た。2015年の公開当時は、ドン・チードルがマイルスを演じることがどうしても嫌で敬遠しており、今回が初見となる。マイルスはあまりにもクールなので、ドン・チードルがそれを表現できるはずがないと思ったのだ。実際に見てみると僕の想像どおりで、ドン・チードルからはマイルスの威厳をまったく感じれなかった。

 

 マイルス・デイヴィスは75年から80年まで健康的な理由で引退しており、この映画では、その間の数日のできごとをフィクションとして描いている。離婚した妻のフランシスへの執着や過去のレコーディングのシーンなどが、フラッシュバックとして挿入されている。チードルがやりたかったのは、マイルスの人間としての強さを表現することだろう。そのため、コロンビア・レコードの重役とレコーディング・テープの奪い合いをし、その結果、その重役のボディガードと殺し合いになるというストーリーを作り出した。それなりに丁寧に作られた映画だったが、想像を超えるようなものは何もなかった。

 

 ミュージシャンの伝記は難しい。最近見たり読んだりした「マエストロ:その音楽と愛と」(バーンスタインの伝記映画)も、「マイケル・ブレッカー伝」(DU BOOKS/disk union)も面白いと思えなかった。理由はわかっている。僕はミュージシャンの伝記に「音楽の考察」を求めてしまうのだけど、ほとんどの伝記は「いつ誰と演奏した」とか「どういう恋愛をした」とか「ドラッグをやった」とかいう、そのミュージシャンの表層的な活動を追ってしまうからだ。その意味で好きだったのは、リー・コニッツの自伝(「Lee Konitz: Conversations on the Improviser’s Art」)である。この本では「即興とは何か」ということが掘り下げられていて、フレーズを記憶し、それを並べ替えて演奏することが批判されている。ジャズの即興演奏をする人にとっては、かなり面白い内容のはずだ。翻訳もされている(絶版しているためプレミア価格で取引されている)。