1940年以前のジャズを演奏したくてトランペットの練習を始めた。目標にするべきイメージを探して映画や漫画を探すうちにコッポラの「コットンクラブ」のことを思い出し、DVDを買って見ることにした。1930年代のギャングの抗争を「コットンクラブ」という高級ナイトクラブを中心に、ミュージカル仕立てで描いた作品だ。

 

 リチャード・ギアは音楽愛好家としても有名で、「プリティ・ウーマン」でもピアノを披露している。今作ではピアノに加えてコルネットも演奏して、多才なところを見せつけた。リチャード・ギアの演技を「上手い」と考えるかは意見が分かれるところだろうが、僕は好きだ。彼自身の経験や感情をストレートに出す演技で、孤独や繊細さの表現がうまい。逆にいえば、常にリチャード・ギア自身を演じていて、役による違いはあまり見られない。その意味ではヒロインを務めるダイアン・レインも同じだ。ただ、この映画のダイアン・レインはとても可愛い。代表作である「ストリート・オブ・ファイヤー」よりもいいと思う。

 

 グレゴリー・ハインズのタップダンスも見どころの一つだ。80年代には「ホワイトナイツ」や「タップ」と、自身をテーマにした映画を作らせてしまうほどのスターだった。彼のタップダンスはテクニックも凄いし、何より感情がダイレクトに伝わってきて胸が締め付けられる。「コットンクラブ」のワンシーンで、グレゴリー・ハインズが演じるサンドマンが恋人と一緒に、地元のダンスホールを訪れるシーンがある。老人たちが順番にタップダンスを披露するのだが、これが素晴らしい。ダンスや音楽は「技術」ではなく「スタイル」であることを改めて教えてくれる。

 

「コットンクラブ」はエンディングで完全なミュージカルに変貌する。これに違和感を覚える観客は多いのではないかと思う。あまりにも都合のよいハッピーエンドであることも相まって、まるで夢のシーンのように見える。でも僕にとっては、これが懐かしい。僕の両親は演劇関係者だったので、小学生の頃からオンシアター自由劇場の演劇をたくさん見た。特に多く見たのが「もっと泣いてよフラッパー」で、学校帰りに劇場に行って見ていた。この時期のオンシアター自由劇場はブロードウェイの演出を多く取り入れていて、30年代のジャズを生演奏することも多かった。その影響で、小学生から高校生までずっとベニー・グッドマンが好きだった。その後、洋楽、バンドブーム、ロックンロール、パンク、フュージョン、コンテンポラリー・ジャズ、アヴァンギャルド、ヒップホップ、ビバップ、ネオソウルなどを経由して、アーリージャズ(ビバップ以前のジャズ)に原点回帰した気分だ。