トランペット関連の漫画を探していたら、高校の吹奏楽部を描いた「青春エール」を見つけたので、読んでみた。「高校生の男女が、それぞれ野球と吹奏楽の全国大会(甲子園と普門館)を目指し、お互いに励まし合いながら困難を乗り越えていく」というのがあらすじだ。作者である河原和音は自身もトランペットを演奏した経験があるようで、音楽に関する細かい描写がうまく描けている。

 

 この物語のポイントは、主人公であるつばさが、どちらかというと飲み込みが遅いタイプで、音楽推薦で高校に入学してきたような経験者とのギャップがずっと埋まらないまま、それでも努力を続けていくことである。劣等感を抱えたまま集団に所属するということは、多くの人が経験していると思う。そんな状況で、少しずつ上に昇っていくつばさの強さに共感するというのが物語の駆動力だ。つばさを励ますのが大介の役回りだが、ときにつばさが大介を励ますこともあり、二人はお互いに支えながら、目標をまっすぐ見つめて進み続ける。

 

 最初の方にトランペットの発音などの苦労について描かれており、まさにこれが僕が読みたかった内容だったが、「飲み込みが遅い」はずのつばさはかなりのスピードでこれをクリアして、初めて1ヶ月くらいで「下のGから上のGまで音が出て、簡単なメロディだったら吹くことができ、スタジアムで野球応援をできる」レベルに達する。もちろんその後も、高音、音程、速いパッセージなどに苦労はするが、徐々に楽器習得から人間関係のドラマにシフトしていく。怪我、レギュラーメンバーの選抜、嫉妬、恋愛という問題が、繰り返し出てきて、それを主人公の二人が真正面から克服していく。

 

 人間ドラマが中心で、音楽について語られる場面は少ないが、それでも合奏の快感はうまく表現されている。これは「青春エール」への批判というよりは音楽教育の限界なんだと思うが、これを読んだ人が「音楽というのは技術を学んでいくこと」と考えてしまわないかが気になる。音楽は「楽しむもの」や「感情を表現するもの」であり、それを行うために技術を身につけるのであって、技術を身につけることを目的にしてしまうと貧しくなる。音楽を始めたら、コンクールの入賞を目指すのも素晴らしいことだと思うが、その過程で音楽の滋養を十分に吸収してもらいたい。