一年以上の長い連載になったサックスレッスンが一段落した。これからの数回は、現在のマイブームであるトランペットについて書いてみたい。

 

 サックスを演奏していて、トランペットに憧れることが何回かあった。持ち運びが楽そうで、定期的にメンテナンスに出す必要がなく、ミュートを使って気軽に家にでも練習できるといったようなことである。でもこれらは、「新しい楽器の習得」という膨大な時間を投資する活動を始める理由にはならなかった。

 

 さらにトランペットをやりたくない理由もあった。音を出すのが難しそうで、音域が狭く、すぐに唇が疲れてしまうといった演奏面の制限に関するものである。こんなことを漠然と考えて、トランペットには興味を持っていたが手は出さなかった。

 

 2023年3月にウィントン・マーサリスのサントリー・ホールでの公演を見に行った。この数年、ジャズのライブに行ってもあまり感動しなくなったのだが、ウィントンの演奏はただただ素晴らしかった。音色を聞いているだけで幸福感に包まれて、天国にいるような気持ちになった。歌心に溢れていて、すべてのフレーズに命が宿っていた。

 

 翌日からウィントンのCDや動画を聞いたり見たりする日が続いた。トランペットの入った音楽だけを聞く日々が続き、トランペットにしか表現できない音楽があることを強く感じた。

 

「自分も演奏してみたい」

 

 そう強く感じて、ヤマハの学生用のトランペット(YTR2330)とサイレントブラス(ヘッドホンで音を聞けるミュート)を購入した。

 

 実際に練習を始めてみると、予想以上に音を出すのが大変で、音階はおろか一音ずつを出すのにも苦労した。これでは即興の練習に入るまでに何年かかるかわからないと思い、一ヶ月くらいで止めて、サックスの練習に集中するようにした。

 

 2024年のゴールデンウィークに再び転機が訪れた。2020年の春からほぼ完全にリモートワークをしていたのだが、そろそろオフィスで仕事をしたいと感じて転職活動を始めた。転職活動をしながら、新しい仕事に集中できるようにプライベートの活動も整理し始めた。その一環として、楽器の練習を見直すことにした。この数年は、ソルフェージュ、ピアノとサックスの練習は毎日欠かさず行っていたが、一度、それらを完全に止めてみたのだ。

 

 止めてから2週間くらい経ったときに、白人の女性がベッドルームでポケットトランペットでのジャズを演奏する動画をYouTubeで見た。「いま僕がやりたいのはコレだ!」と思い立ち、一年間、眠っていたトランペットを押し入れから出した。