フライング・ロータスは、ヒップホップのプロデューサーに分類した方がしっくりくるが、それでもその音楽にはジャズの影響を色濃く聞くことができる。「21世紀のジャズの可能性」として聞いてもらいたいアーティストの一人だ。

 

 このアルバムは「死」をテーマにしたコンセプト・アルバムで、40秒に及ぶドローンの上に、鐘などの様々な音が響くという、仏教的な世界観で始まる。それに続いてドラムンベースのような過剰に速いビートが流れる。ビバップもそうであったが、「過剰な速さ」というのは常に先進性を感じさせる。機械を想像させるからだろう。音響的には、ベースドラムの音に異常に低い倍音が含まれていて、そのためベースドラムが鳴ると、その度に音像が歪む。最初はそれを安っぽく感じたが、次第にそれが快感になってきた。エフェクターも存分に使われている。生楽器の音に不自然なほどのエフェクターをかけるというのは、2010年代の流行だったかもしれない。PCで音楽を編集するようになった影響だ。

 

 このアルバムがジャズ・フュージョンに分類されることがあるのは、ほとんどの楽曲がインストゥルメンタルなことと、ハービー・ハンコックとカマシ・ワシントンというジャズ・ミュージシャンが参加しているためであろう。特にカマシ・ワシントンのサックスは印象的だ。ハービー・ハンコックは「Tesla」と「Moment of Hesitation」の2曲でエレクトリック・ピアノを弾いている。どちらもコードを即興的に弾いたものだが、一部、ベースとぴったり合っている箇所があったので、完全なフリーではなく、打ち合わせをしながら録音を進めたのだろう。

 

 ジャズ・ミュージシャン以外にも、ケンドリック・ラマーやスヌープ・ドッグなど豪華なミュージシャンが参加している。ケンドリック・ラマーがフィーチャーされている「Never Catch Me」はグラミー賞(Best Dance Recording)にノミネートされ、話題になった。むちゃくちゃカッコいいPVがYouTubeにアップされているので、ぜひ見てもらいたい。もちろん音楽のクオリティも高く、ケンドリック・ラマーの名盤「To Pimp a Butterfly」に入っていても違和感がないくらいである。

 

 最後に、フライング・ロータスの盟友ともいえるサンダーキャットについて書いて終わりにしたい。このアルバムを一聴してわかるのは、ベースがほとんどの楽曲の骨格を作っていることだ。またクレジットを見ると、サンダーキャット(スティーブン・フルーナー)は6曲で共同作曲者として挙げられている。もちろんフライング・ロータスのヴィジョンがあってこそできたアルバムではあるが、それを実現するのにサンダーキャットが欠かせなかった。50%はサンダーキャットのアルバムであるとも言えるかもしれない。ジャズを血肉化した上で、ヒップホップやポップスを愛するサンダーキャットがいたからこそ、このアルバムは生まれた。サンダーキャットは「To Pimp a Butterfly」にも全面参加して、ケンドリック・ラマーを支えている。