ウェザー・リポートは、ジョー・ザヴィヌルとウェイン・ショーターの双頭バンドとしてスタートした。フリーや新主流派(モードを取り入れ、ビバップの和声から少し離れた曲を演奏したハービー・ハンコックやウェイン・ショーターの音楽を指す)といった60年代のムーブメントに対して、次の可能性を探るべく結成されたバンドである。そして、そのスタイルが完成したのが「Heavy Weather」と言えるだろう。ザヴィヌルはシンセサイザーを使ってシンフォニックなサウンドを演奏するようになり、そんなコンテキストのなかでウェイン・ショーターの即興はより自由を感じさせるものになった。そして、そこに画竜点睛としてジャコ・パストリアスのベースが加わった。

 

 ウェインとジャコという不世出の演奏家を二人も擁したバンドだったので、どうしてもスタジオ・レコーディングには物足りない面も出てくる。最もわかりやすいのは、「Heavy Weather」をライブ・アルバムの「8:30」と聞き比べることだ。例えば「Teen Town」はジャコが自分のテクニックをショーケースするために作った曲だが、「Heavy Weather」では細かいアレンジを聞かせる曲になっていて、ジャコのフィール(感性)を十分に堪能できない。それに対して「8:30」ではテンポも上がり、ジャコは思う存分弾きまくっている。そしてその演奏は神がかりに凄い。チャーリー・パーカーにも通じる感覚だが、とても難しいことをいとも簡単にやっているので、聞いている側まで全能感が移入してしまうのだ。

 

 ヒット曲である「Birdland」は、「Heavy Weather」に軍配が上がる。この曲の面白さは、テレビのザッピングのように次々と曲が展開していきながらも、全体としては「ジャズという音楽を祝う」というコンセプトを貫いていることなのだが(ザヴィヌルがバードランドというジャズクラブでビバップを聴いた際の興奮を表現した曲だ)、ライブ演奏だと各セクションの違いをうまく表現しきれていない。

  

 Weather Reportはいまだに定期的に研究本が出版されるほどの人気バンドだ。その理由は、サヴィヌルとショーターという二人のミステリアスな音楽家に率いられていたためだ。彼らの作る音楽は魅力的だが、なぜ魅力的なのか理由を説明することができない。そこに、ジャコ・パストリアスというスターが加わり、シンプルに楽しさを伝える彼のベースに導かれるかたちで、ザヴィヌルやショーターの深い森に分け入っていく人が続出したのだろう。