競売ナンバー49の叫び(トマス・ピンチョン)- 1966
二ヶ月ほどかけてゆっくりと読んでいったのだが、読み終えてなお、どんな話だったのか良くわからない。そこで、自分の頭を整理するつもりであらすじを追ってみることにする。 主人公はエディパ・マースというカリフォルニアに住む主婦だ。ラジオDJのムーチョと結婚して一緒に暮らしている。彼女が元恋人の富豪、ピアス・インヴェラルティから遺言執行人として指定されることから物語が始まる。 遺言執行人とは、インヴェラルティの持つ莫大な資産を、故人の遺言通りに分与する役回りだ。遺産の分与には法律的な知識が必要になるので、メツガーという法律家が共同執行人として指名されている。そこでまず、エディパはインヴェラルティが多くの不動産資産を持つサン・ナルシソに車で向かってメツガーと会うことにする。サン・ナルシソのモーテルでメツガーと会ったエディパは、そのまま不倫をしてしまう。 最初の異変は、ムーチョからの手紙だった。エディパとムーチョは週に二度ほど、通信として手紙を送りあっていたのだが、郵便局の広告スタンプにスペルミス(「POSTMASTER」とすべきところが「POTSMASTER」になっている)があった。その後、今度はザ・スコープというバーのトイレで「WASTE経由での連絡を」というメッセージとミュート付きのラッパの絵を見つける。また、同じバーで出会ったヨーヨーダイン社(インヴェラルティが株主であった軍事産業企業)の社員であるファローピアンからは、ヨーヨーダインの社員が社内の通信網をプライベートでも使っていることを聞く。すべてのことが、違法な郵便組織があることを示唆している(この小説が書かれた66年当時は、郵便は国の独占事業であった)。 エディパとメツガーは、国中にあるインヴェラルティの不動産の代理権委託の認可を待つ間、インヴェラルティが作った人工湖までドライブする。そこで、この人工湖にイタリアで戦死したGIの骨が沈められていることを知る。また、同じ骨がタバコのフィルターに加工されているらしい。「消えた兵士の骨を湖から引き上げて炭にする」というエピソードが挿入された演劇があると聞き、二人はそれ(「急使の悲劇」)を見に行く。17世紀の演劇で、2つの王国の争いが描かれている。その演劇のなかで、謀略によって国から追放された王子ニッコロはトゥルン&タクシスに雇われ郵便の配達を行っている。紆余曲折の末、ニッコロが復権することになるが、ニッコロは何者かに暗殺されてしまう。ニッコロが暗殺されるときに、それがトリステロからトゥルン&タクシスへの復讐であることが仄めかされる。 演劇を見終えた後、エディパはトリステロのことを聞くために演出家ドリブレットに会いにいく。そして17世紀のオリジナルの脚本にはトリステロに関する記述がないことを知る。 エディパはヒントを求めてヨーヨーダイン社の株主総会に行き、スタンリー・コーテックスと会う。そこでジョン・ネファスティスがマックスウェルの悪魔を実現化した装置を作ったことを知る。マックスウェルの悪魔とは、「熱い空気と冷たい空気を混ぜると、時間とともに温度が一定になる」という原則を逆にする(空気分子を熱いものと冷たいものに選り分ける)ことで永久機関を作れるという理論だ。ネファスティスの装置では、それを人間の意識を利用して実現しているという。 古書店で「急使の悲劇」を購入したエディパは「トリステロ」について書かれた一文がいくつかの版によって異なることを知る。この頃からエディパは身の回りで起こることのすべてにトリストロとの関連性を見つけるようになる。老人ホームで会ったおじいさんはゴールドラッシュ時代の郵便(ポニーエクスプレス)の話をし、WASTEのマークが入った指輪を持っている。インヴェラルティの遺産であるトゥルン&タクシスの切手にWASTEのマークを見つける、など。 夫であるムーチョや愛人であるメツガーとの距離が離れていき、エディパは孤独を感じ始める。戯曲の出版元に出向きトリステロについて調べ、ネファスティスの家に行ってマックスウェルの悪魔の装置を見るが、謎は深まるばかりで何も解決しない。そしていよいよ、見る人、会う人のすべてがトリステロの関係者に思えてくる。自分の精神の問題であることを疑ったエディパは、かかりつけの精神分析医であるヒラリウスの診療所に行く。すると、ヒラリウスは警察と銃撃戦をしているところだ。ドイツ人である自分がユングではなくフロイトを支持したことに対して抱えている罪悪感から、警察をイスラエルのテロリストと信じて戦っている。そして、その様子をムーチョが取材しにきている。何もかもがカオスだ。 メツガーは若い娘との逃避行に消え、古書店は火事となり、ドリブレットは入水自殺して、エディパはますます孤独を感じ、同時にトリステロへの恐怖を抱く。ナルシソ大学の英文科教授であるボーツに会いに行き、そこで戯曲の作者であるウォーフィンガーについて本を読んで調べる。エディパはコーエンからの情報をもとに文献でトリステロについて調べ続け、歴史上のトリステロとトゥルン&タクシスの断片情報を集めていくが、神聖ローマ帝国の分裂やフランス革命の裏に二つの組織の争いがあったなどという壮大な陰謀論に結びついてしまい、真相がまったくわからない。 ザ・スコープでファローピアンと再会して話すうちに、すべてがインヴェラリティの仕組んだ冗談だったのではないかという話になる。エディパはそれを否定して、情報源を明確にしてくことこそが大事だと告げる。その後、トリステロが発行したと思わしき偽造切手を見ることができ、「WASTE」が「We Await Silent Tristero’s Empire(われらが待つは無音のトリステロ帝国)」の略であったことがわかる。 エディパはすべてが真実である可能性も、またインヴェラルティの自分に対する悪戯である可能性も拒否し、自分自身の頭がおかしくなっただけだったらいいのにと考える。そんななか、インヴェラルティのコレクションであるトリステロの偽造切手がオークションに出されることになり、その切手に興味を示しているバイヤーがいることを知る。そしてそのバイヤーと会うために競売場に行くのだった。「競売ナンバー49の叫び」とは、エディパにとっての真実が明かされる瞬間であるのだ。競売が始まる場面で物語は終わる。 この小説は、歴史に纏わる推理小説と言えるのかもしれない。僕はフィクションのなかに歴史が織り込まれている小説が好きだ。それがフィクションの世界を大きく膨らませ、知的好奇心を刺激するからだ。この小説はその最たるものではあるのだが、あまりに高度すぎてまだ消化できていない。この小説を本当に楽しむには、自分自身でトゥルン&タクシスのことを調べるということをし、エディパに同化しようと努力しないといけないのかもしれない。前回読んだのは10年くらい前で、そのときよりは読めたと思うので、10年後くらいにまたトライしてみよう。