ついに、出発の朝が、お爺ちゃんとさつきちゃんは、無言で朝ごはんを食べた。何か、話さなくてはって、きっと二人とも思ったと思うんだけれど、何か言うと心が揺らぎそうで。さつきちゃんは、もし、今、お爺ちゃんが行くのを止めて、ここで何でもいいから仕事を探してみるかっていうようなことを言ったら、出発を止めてしまいそうなくらいに、心が揺れていた。

お爺ちゃんからは、今日は見送りには行かないなって、言われていた。さつきちゃんも、その方が良いって思っていたので、

『うん、分かった。駅のホームが、お爺ちゃんとさつきの涙で洪水になるからね』と言うと、お爺ちゃんは

『ばか言え、出発の日は、頼まれた仕事が入っているんだ』って、

さつきちゃんは知っていた、その頼まれて仕事は、別にその日じゃなくてもいいのに、お爺ちゃんがその日にしたことを、その仕事をお爺ちゃんに頼んだおばさんから

『お爺ちゃんに、その日じゃなくてもいいからって、言っておいて』って、さつきちゃんは、言われたんだけれど、そのことをお爺ちゃんには言わずにいた。その上手くいえないけれど、『言わずが花』って、きっとこんな時の事なのかなって。

見送りには、ガンちゃん、たっちゃん、三人のおばさんたちが来てくれた。

たった半年のことなんだけれど、なんかこんなに賑々しき見送られると、絶対に泣くまいって思っていたんだけれど、自然に涙が出てくるものだって、さつきちゃんは思った。お爺ちゃんもきっとそうだったんだろう、家を出る時に

『じゃ、行って来るね。なんかあったら、会社の寮に電話してね、ここに電話番号を、書いておいたから。それとちゃんとご飯食べてよ、それと体の調子が悪くなったら、すぐに孝ちゃんちに行ってよ。おばさんとおじさんには、言っておいたから、えーと、タバコの火は気をつけてね。ガンちゃんやたっちゃんのおばさんたちにも頼んでおいたから、困ったら、それにガンちゃんとたっちゃんが、ちょこちょこ来てくれるって。それから』って、続きを言おうとしたら、お爺ちゃんが

『分かった、分かった。ほら、迎えに来られる前に外に出ていろ。爺ちゃんも行くから』って、そして、

『気をつけろよ、東京は怖い所だって言うから』って、本当は違うことをいいたそうに思えた。

二人で外に出たら、丁度、みんなも出てきた、お爺ちゃんがおばさんたちとガンちゃんとたっちゃんに、何か言おうとした見たいなんだけれど、黙って深く頭を下げただけだった。でも、その深く下げた頭の意味を、みんな理解してくれていて、明るく

『お爺ちゃん、さつきちゃんを送ってくるね。半年間なんてすぐだから』って

『もしかしたら、根を上げてすぐに帰ってくるかもしれない』って、ろくなことを言わない、たっちゃん

『ばーか』って、さつきちゃんが言っていると、近所の人たちが出てきて

『気をつけてね』って、言ってくれた。

お爺ちゃんに

『行って来るね』って言うと、手で早く行けって、合図だけ

そうして、さつきちゃんは、東京へ、この間、お父さんとは、会うことがなかった。


         つづく