その日から、お婆ちゃんは、さつきちゃんに二度と母親のことを、話すことがなかった。

そして、その夜、さつきちゃんは、いつもどうりダイちゃんを抱えて、お婆ちゃんに抱かれながら、眠りに。高学年になってからは、以前ように夢の中にダイちゃんが出てきて、話をすることがほとんどなくなっていたんだけれど、その日は珍しく、ダイちゃんがさつきちゃんの夢の中に出てきた。きっと、さつきちゃんは、小さいころからの癖で、誰かに話したいことがある時、そして、それが誰にも話せないことの時、いつもダイちゃんに話していたので、その夜の夢の中に出てきてくれたんだと思う。

『さつき、後悔しないのか』って、さつきちゃんの腕の中から、ダイちゃんの声が聞こえてきた。

さつきちゃんは夢の中で、眠い目を擦りながら、腕の中で抱かれているダイちゃんに

『ああ、あの人に一生会えなくてもいいって、お婆ちゃんに宣言したこと』って、言うと

『ああ、そうだよ。お婆ちゃんは、なんとかして、さつきにお母さんを会わせたいって思っていたんだよ』って、ダイちゃん

『うん、知ってるよ。でもさ、あの人には、さつきじゃない子供がいるんだよ、二人も。本当は、怖いんだ、さつき。もしも、あの人に会いにいって、あんたなんか知らないって言われたら、どこの子って言われたら、さつき、きっと生きていられないよ』って、言うと

『そんなこと、言ったりしなのに』って、ダイちゃんが優しく言った。

『普通の親なら、そうかもしれないけれど、さつきには分かるんだ。あの人のことが、考えていることが、さつきを連れておじさんのところにいった時、おじさんに言ったんだ。

  『この子がいたら、邪魔なんです』って、

さつきは、あの人にとって邪魔な人間なんだ。邪魔な子なんだよ。あの時は、さつき、うんと小さい子供だったから、言っている意味が良く分からなかったけれど、毎年誕生日が来て、一つづ大きくなってきたら、その意味が分かるようになって来たから。また、同じ言葉を聞いたら、さつき、立ち直れなくなっちゃうよ。あの人は、さつきのことが嫌いなんだよ。多分、さつきは生まれてこなければ良かったんだよ。きっと、あの人にとってもお父さんにとっても』って、言うと

『さつきは生まれてきたこと、後悔しているの』って、ダイちゃんが

『ううん、後悔はしていないと思う。だって、お爺ちゃんとお婆ちゃん、孝ちゃんやガンちゃんやたっちゃん、それにダイちゃんにも、会えなくなったけど尚ちゃんとも、出会うことが出来たんだから。さつきが生まれなかったら、誰にも会えなかったんだから、良かったって思っているよ』って、言うと

『さつきにとって、出会えて良かったっていう人たちは、これからいっぱい出てくるよ。まあ、出会わなければ良かったっていう人もだけれど。ダイちゃんは、人間じゃないけれど、世の中に不必要な生き物は、いないはずだから、さつきの人生は、まだ始まったばかりだからね、今まで出会った人の何倍、何十倍、何百倍っていう人たちと、これから関わっていくんだから、良い人だけじゃなく、悪い人もいっぱいいるよ。裏切りとかもあると思うけどね。それって、この世の中に生まれてきた人たちって、ほぼ全員が経験することだと思うよ。でも、負けるなよ、さつき』って、それだけいうと、もう、ダイちゃんの声は聞こえなくなった。


             つづく