家の中に入ると、窓からの事の成り行きを見ていた女の子が、恐る恐る部屋から出てきた。その子は、ボス猫さんの横で泣いている愛ちゃんのところに来て、
『さあ、部屋の中に、猫さんの傷の手当をしましょ』って言いながら、ボス猫さんのことを抱き上げて、もう一度
『さあ、猫さんも』って、僕にも声を掛けた。
僕と愛ちゃんは、その言葉に答える代わりに女の子の後に続いて、部屋の中に入った。部屋の中は、ゲーム機の外で見たのと、ピンクのムカデさんから聞いたのと同じに、大人はみんな気を失っている。女の子は、愛ちゃんに
『そこのクッションを取ってくれる』って、ソファーを目で指した。愛ちゃんは、泣きながら女の子に言われるまま、クッションを床に置くと、女の子は抱きかかえていたボス猫さんをそこに寝かせて、部屋を出て行った。2、3分すると、救急箱を持って戻ってきた。そして、ボス猫さんに
『少し、消毒薬が沁みるけれど、我慢してね』って、優しく言うと、傷口を消毒し始めた。ボス猫さんは、消毒液が傷口に沁みるのをじっと我慢しているうちに気を失った。消毒は終った、傷は弾が貫通していて穴が開いているように見える。女の子は、その傷口を見ながらこれからどうすると良いのか、困った顔をしている。とにかく、薬をって傷薬を探しているので、僕が
『あの僕のペンダントを開けて、中の涙を一滴傷口につけて、包帯を巻いておくといいよ』って、僕が言うと
『うん、分かった、このペンダントね。猫さんたちは、天界から来たの。私たちのことを、元の世界に帰してくれるの』って、聞いてきた。
『そうだよ。お迎えに来たんだよ。君は、モンスターのリーダーを知っている』って、聞くと、その子は、ボス猫さんに包帯を巻いていた手を止めて、壁の一点をじっと見つめて、何か考えている。そして、気を取り戻したように、またボス猫さんの包帯を巻き始めた、ゆっくりと丁寧に。
『お姉さん、包帯を巻くの上手いのね』って、愛ちゃんがその場の空気を変えようと、モンスターと全く関係のなことを言った。女の子は、少し微笑んで
『私、大きくなったら看護師になりたいの』って、
愛ちゃんのポケットに、ずっと隠れていた蝶ちょさんが、もぞもぞしながら出て女の子の肩に止まった。
『蝶ちょさん、元気になったのね』って、女の子が言うと、蝶ちょさんは、自分は今はこうして生きていられるけれど、女の子が元の世界に戻る時には、ゲーム機に入ったときと同じにハンカチに包まれて帰るのよって。そして、自分は女の子に土にかえしてもらうのよって言った。女の子は、悲しそうな顔をしてしまった。
『それが、自然なのよ。私は、たまたま赤い花粉で少し、ほんの少し早くに星になっちゃうけれど。あー、でも、今こうしているから、同じね。私の寿命は、元々そんなに長くはないから。私にとっては、あなたに会えたことは、とても幸せだったの。だって、私の体に付いていた花粉を、きれいに取ってくれて、私を埋めてくれようとしていたんですもの。私たちは、なかなかそんな風にしてもらうことがないから、すごく嬉しかったの、本当よ。だから、あなたが、元の世界に帰る時に私を、あのハンカチに包んで連れて帰って、そして今度は、誰れにも邪魔されずに、私を土に返して』って、蝶ちょさんは、女の子の言った。
女の子は、目にいっぱい涙をためて
『そうなの、蝶ちょさんは、ここでだけなの、生きていられるのは。だったら、ここに残っていたら、生きていることが出来んじゃないの』って、
『ここは、私の世界じゃないから、ここに残ることは、ゲーム機の中の秩序を壊すことになるから。言ったでしょ、私はあなたと一緒に帰りたいの』って
『ゲーム機の中の秩序を壊すことになる。そうよね、あの人たち』って、言ってから、女の子はまたしばらく考え込んでいる。
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