おばさんの顔に生気が蘇ってきたように見えた。目がシャキンとして、僕らがここの部屋に来た時は焦点が定まらない目で、遠くの方を見ていたのが、今は自分がどこで何をすべきかをはっきりと分かっている目に見える。
おばさんは、加奈ちゃんに
『加奈、ありがとう。お母さん、やっと長いトンネルから抜けることが出来たみたいよ。
もう、心配ないわ。
もう、お母さんは力を苦しめたりしないわ。
遠くから見ていても、加奈の家がすぐの分かるように、いつでも明るく笑い声のある以前のような家にするね。
お母さんは、全ての扉に鍵をかけていたから、加奈が会いに来てくれたのも気がつかなかったのね。もう、そんなことはないから大丈夫、力にお兄ちゃんに謝らなくては、明るくなったお兄ちゃんにも会いに来て上げてね。お兄ちゃんが一番、加奈に会いたいだろうから、あなた達は本当に仲の良い兄妹だったもの。そう、力が加奈を庇ってくれていたんだ。お母さん、弱かったのよね、強くならなくては、加奈や力に負けないように』って、
『お母さん、また会いに来るね。加奈、そろそろ帰らなくてはいけないから。お父さんにも、加奈が夢の中でありがとうって言っていたって伝えておいてね。もう、悲しまないでね。お母さん』って、加奈ちゃんが笑顔で言うと、おばさんもニッコリ笑顔で、二人はもう一度抱き合った。加奈ちゃんは、すっとおばさんの腕の中を通り抜けるように、いつの間にか消えていた。
おばさんは、自分の手のひらをじっと眺めながら、
『加奈、大丈夫よ、お母さんは』って、つぶやいた。そのおばさんの体から、煙のようなものがすーっと出ていったような気がした。
僕が、ふーんって言う顔をしていたら、みんなもふーんって言う顔をしていた。
『今のは、何』って、愛ちゃんが
『もしかして、モンスター
』って、リッちゃん
『ありえるかも』って、みんなでうなずく
加奈ちゃんとおばさんが、夢の中で再開していた時間は、一時間くらいだと思う。おばさんは目を覚ます、
『加奈、夢だったの。いいえ、夢じゃないわ。私は、この手で加奈を抱いたの。話をしたの、はっきりと覚えている。まだ、加奈の感触が残っているもの。力に私は、謝らなければいけない。お父さんにも、みんなに心配をかけていたんだわ』って言って、おばさんはベッドから体を起こして立ち上がりながら、
『私は、今まで何をしていたのかしら』って、ベッドの横のサイドテーブルの上の薬の山を見ながら、独り言を言った。そう、力ちゃんのお母さんは、この何年間を薬に頼っていたんだ。でも、加奈ちゃんと夢の中での再会のほうが、薬なんかよりもはるかに効きそうだ。
おばさんは、キッチンに行き冷蔵庫を開け、あるもので食事の支度にかかった。お米をとぎ、ご飯を炊く、お味噌汁を作る、もう何年もしていなかった。ご飯が炊き上がって、ありあわせのものでよういが出来たころ、おじさんが帰ってきた。
おじさんは、いつもチャイムを鳴らす、もしかしたらおばさんが元気な顔で、自分を迎えてくれるのではないかと思いつつ、いつも期待は裏切られ、一人でドアを開け一人で鍵をかける。もう、それにも慣れてしまっている、そんなおじさんにとって、今日の自分の家から流れ出ている空気が、今朝、自分が会社にでる時と全く違うことに戸惑って、チャイムにかけた手が押せずにいる。
おじさんは、心の中の自分の動揺に
『いかん、いかん、期待しちゃ、いかん』って、そして、チャイムにかけた手に力を入れる。
『ただいま』って、いつものように返って来る返事がないつもりで小さな声で誰に言うでもなく言うと、
温かい食事の匂いとともに
『お帰りなさい』っと言う、懐かしい、これもへんな言い方だけどおばさんの声に、迎えられた。
おじさんが、ぼーっと立っていると、おばさんはもう一度
『お帰りなさい』って、そしてこれも何年かぶりに、二階の力ちゃんの部屋をノックして
『力、食事の用意が出来たわよ。お父さんも帰ってきたから、食事にしましょう』って、
力ちゃんは、おばさんが食事の支度を始めた時から、泣いていた。だって、自分の部屋にいてもおばさんが、何をしているのかが分かったから、嬉しくて。
そして、おばさんと別れた加奈ちゃんが、力ちゃんにも会いに来てくれたから、加奈ちゃんと力ちゃんは、何も話さなかったみたいだ。でも、何も話さなくても、この二人の兄妹には通じるものがあるらしい。
力ちゃん、おばさん、おじさんの三人は、何事もなかったかのように、ずっと以前のいつも通りの顔で
『いただきます』と言って、遅い夕食を
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