空君が生まれ育った町は、僕やリッちゃん、アッちゃんが育った町からそう遠くないところだ。ここもネオンがいっぱい、僕らの町よりももっとすごい大都会だ。これじゃ、交通事故も絶えないだろうな。それになんだか人もうじゃうじゃしている、もう九時を過ぎているのに、大人だけではなく子供も、携帯でメールを打ちながら歩いている子が、自転車にぶつかりそうではなくて、ぶつかって行きそうだ。
『アッ、危ない』って、みんなで叫んだら、聞こえたわけではないだろうけれど、その子は気がついて慌ててよけた、すれ違いざまに自転車に乗っていた人が、大声で
『ばかやろう、メールなんか打ちながら歩いているんじゃねーよ』って言う、怒鳴り声が僕らにも聞こえた。
僕ら全員は、自転車の人に対して
『ごもっとも、けど、あなたのイヤホンも危ないのでは』って、この人には、後ろから来た車の気配が、なかなか分からなかったみたいで、車を運転している人が
『馬鹿やろー、クラクションが聞こえないのか』って、怒鳴って通り過ぎていった。
でも、メールを打っている子も、イヤホンを使って音楽らしきものを聴いて自転車に乗っている人も、決して自分達に非はないという顔をして、それらを止める気はなさそうだ。なんだか、悲しい世界だ。
車を運転している人も、携帯で話をしながら運転している、僕らの記憶が間違っていなければ、交通違反になるんだよな![]()
それに、お酒を飲むお店からでてきた人が、ちょっとよろけながら車に乗り込み運転を始めた。
空君は、鬼のような顔をして
『何も変わっていない。酒酔い運転の人がいっぱいいる。何事も無かったかのように車を運転している、自分だけは大丈夫なんてありえないのに。僕は、僕は、そんな人たちに轢き殺されたんだ。僕は、悔しい』って、空君は唇を噛んで涙を堪えているのが、空君の姿を見ていなくても、みんなに伝わってきた。
僕らは、そんなふうに動いている町を見ながら、力ちゃんの家に向かう。途中、空君にとって一番辛い場所を、通らなければいけない、事故現場だ。
その場所の近くに来たら、空君が泣いているのが分かる。みんなにその涙が伝わってくる。
そして、事故現場から
『空、何で一人だけ死んでしまったんだよ。一人生き残った僕は、もういっぱい、いっぱいだよ。おばさんを見るのも、辛いよ。おばさんが、優しいから余計に辛いよ』って言いながら、事故が起きた道路の端の方に白いカーネーションを一本置き、その前で一人跪き、話しかけている少年が見えた。
『力ちゃん』って空君の声
そうか、あの少年が力ちゃんなんだ。空君は事故に遭ったままだから、八年前の七歳だけど、力ちゃんは十五歳になっているんだ。体なんか随分と大きい、きっと何かスポーツをしているんだろう、以前は空君とサッカーをしていたんだ。今は、どうなんだろう。本当は、空君も力ちゃんと同じくらいに、なっていたはずなんだ。
空君が
『あの子が、力ちゃんだよ。力ちゃん、やっぱり苦しんでいる。聞こえたでしょ、さっき、力ちゃんが言っていたの。力ちゃんは、多分、引越しでもしない限り、毎日あの場所を通って学校へ通っているんだ。学校だけじゃい、駅に行く時もあの横断歩道を通らなければいけない。なにしろ、僕と力ちゃんの家から、あの横断歩道は、中心なんだ、どうしても通らなければ、よほど遠回りをするのなら違う道はあるけれど。僕は今すごく複雑なんだけれど、力ちゃんが苦しんでいるのは僕も辛いけれど、僕のことを忘れずにいてくれたことすごく嬉しい。少しだけ、もう力ちゃんは僕のことなんか、忘れてしまったんではって思っていたから。それと、力ちゃん、僕のお母さんに会ってくれているんだ』って、空君が、泣きながら
僕たちと、力ちゃんの距離は段々近づいていく、何か気にしているようには見えるけれど、どうやら力ちゃんには、僕らは見えていないらしい。
『良かった』って、みんな胸をなでおろす。と、突然、愛ちゃんが
『ねぇ、見た、見た、みんな見た。今、力ちゃんの頭の上をモアとした雲みたいなものが浮いていたの。なんなの』って、
『見た』、『見たよ』、『あれも、モンスターなの』、『力ちゃんに、何かしようとしているのかな』、『力ちゃん、モンスターになっているの』って、ごちゃごちゃに言葉が飛び交った。
続きはまた![]()