僕は、神経を集中させた、そして自分が一人で真っ暗な山の中にいるんだと想像してみた。そして、浮かんだことを一つ一つ、言葉にしてみようと思った。

『ハスキーさん、僕には、ハスキーさんが経験した恐怖を同じように感じることは出来ないと思う。僕は、想像でしか言えないもの。でも聞いて』

僕は、目を閉じて

『山の中なんか、きっと歩いたことなかったと思う。だから、しばらくは身動きが出来なかったと思う。僕なら、固まってしまって動けないと思う。そして自分が今、どういう状況なのか把握するのに時間が掛かったと思う。無性に喉が渇きそう、泣きたい、泣いている。心細い、そんなんじゃないよね、僕なら、パニックになって、パニックになって、ごめんなさい。続けられない。ごめんなさい』僕は、話そう、自分が思ったことを、と思ったのに胸は詰ってしまい、何も言えなくなって不覚にも泣いてしまった。僕の後ろで、アッちゃんも空君も愛ちゃんも、自分たちで想像して泣いている。

そんな僕らを見て、ハスキーさんは、

『元気さんって言いましたね。あなたもあなたのお仲間も、想像してみんな泣いているんだね。あなた方は、優しい人たちなんだね。じゃ、私が自分で話そう。それまでより、いい暮らしならすぐに慣れるよ、まぁ、私じゃなくてもそうだろうが。確かに、動けなかった、足元を見ると小さな虫が私の毛をつたわって上がって来るんだよ。体にその小さな虫はつくんだよ、私にしてみると、それだけでパニックだよ。私は、自分に落ち着け、お前はチャンピオン犬なんだって言い聞かせたよ。馬鹿げているだろう、そんな時に何がチャンピオンだ。私は、そこに一人にされて5分もしないうちに、大きな体で大きな声で泣いていたよ。助けてって、ワァオーってね、泣いたよ。少しして、私は気が付いた、大きな声で泣いたことが間違いだったことに、私の周りには、ナイフとフォークホークとナイフを両手に持った、大小さまざまな名前もわからない動物や虫でいっぱいになっていたよ。私は、真っ暗な山の中がどんなものかわかるかと聞いたが、私は経験していないんだよ。私は、山の中で一夜も明かすことがなかったんだよ。私にとっては、随分長い時間だったように感じるが、生きて山の中にいたのはせいぜい20分くらいのものだと思う。私は、ホークとナイフを持ったやつらに、生きたまま食べられたんだよ。体を食いちぎられるのは、痛みは最初だけで、後は麻痺してくるからまだいい、何が恐ろしかったかって、目目だよ、閉じればいいものを何故か恐ろしさのために、私は閉じることが出来なくて、目を開いたまま食いちぎられたんだよ。私は、半狂乱になってしまったよ。いっそ気が狂うといいのに、そうしたら何もかも忘れられただろうに。多分、私を食べたやつらにしてみると、何の悪気もないと思う、彼らは弱肉強食の世界で生きているんだから。私が私である証は、最終的に骨だけになってしまった、丁寧に鳥までお出ましになっていた。私は、灰になることなく土にかえたった、自然の摂理としてはいいのかもしれないが。私は、意識がなくなりかけたときに、ふと思ったんだ。私がこんな死に方をするということは、もしかすると私の子供たちは、いったいどうなっているんだろう。私は、飼い主の言うがままに、子供を作ってきた。私は、大変なことをしてしまったのではないか。私の子供たちも、もしかしたら私と同じような目に、遭っているのではないか。私は、何て愚かなことをしてきてしまったんだろう。そう思い始めたら、恐ろしさの恐ろしさが違ってきたんだ。私の子供たちは、大丈夫だろうか、私のように無残に蝋燭の炎を消されていないだろうか。私は、それをずっと思い悩みながら、天界に着いたんだ。しかし、どうしても天界の入り口から先に進むことが出来なくて、うろうろしていた時に地上を見てしまったんだ。私の飼い主は、今度はミニチュアダックスを繁殖させていたよ。私は、許せなくなった、私は自分をコントロール出来なくなってしまったんだ』ここまで、ハスキーさんは言うと、ふっとため息をついた。


                   続きはまた天使