お母さんが帰ったら、それまで頑張っていた緊張の糸が切れて、どっと疲れが出た。お母さんのTシャツにうつ伏せになったまま、しばらくそうしている。心臓の音が耳の近くに聞こえる。ゆっくりと、深呼吸をして息を整える。そう言えば、お母さんがよく言っていた、「元ちゃんの鼻の穴は、そんなに小さいのに鼻息はすごい
鼾も、隣に寝ていると、時々ビックリするよ」「お母さんと元ちゃんだけなのに、人の鼾みたいで隣に誰か居るのかと思って見ると、元ちゃんなんだから」って、これは、お父さんが来る前の話なんだ。
猫も、しっかりと深呼吸っていうのが出来るんだ。やっと、気分が良くなってきた、貧血なのかな?アッちゃんは、どうしているかな「アッちゃん、聞こえる?」 「うん、聞こえているよ。さっき、陽子ちゃんが、僕の体をマッサージしながら、二人とも苦しいのに大変だよね。ごめんね、何にもしてあげられなくて」って泣いていた
「お母さんや、陽子ちゃんのせいじゃないのに」 「お母さん、僕のところでは泣かずに頑張っていたから、アッちゃんのところで泣いちゃったんだ。僕に、心配させたくなかったんだ。アッちゃん、点滴は終ったの」 「うん、でもまだあるみたいだ、看護婦さんが今、点滴の袋を持ってきた。もう、慣れちゃった、どうせ手も動かせないから」 「そんな、悲しいこと言うなよ。もう一度歩くんだろ、立つんだろ」 「あぁ、そうだ、僕には、まだしなければいけないことがあるんだった。看護婦さん、顔を拭いてくれないかな。あっ、拭いてくれた」 「えっ、アッちゃんってどうやって、看護婦さんに顔を拭いてってお願いしたの
」 「んー、なんて言うか、頭を少し動かして目
をね、パチパチさせるんだ。一度そうしたら、拭いてくれたからそれからはそうしているんだ」 「ネェ、さっき、お母さんが、今日は天気が良いよって言っていたんだけれど、僕のところからは、お外が見えないんだけれど、アッちゃんのところからは見えるの」 「見えるのは空だけ、窓の位置が高いから、それと僕は床にエアーマットを敷いているから。確かに、空は青いよ
天気良さそうだ」 「外に行きたいね。まぁ、僕の場合は外を眺めるだけだけど。良いだろうな、入院して三日しか経っていないのに、ずーっと外の景色を、見ていないような気がする」 「そうだね、僕は元ちゃんより一日先に、入院しているけどやっぱりそんな気がする。ここ一ヶ月は、散歩もしていないし、この季節はいいんだよ、色々なお花も咲いているし、風も気持ちがいいし、空気も美味しい」 「お母さんの花粉症も少し落ち着くし」 「へー、陽子ちゃんは花粉症なんだ」 「うん、お父さんもね」 「僕は、夏が苦手なんだ」 「夏が苦手なの、あっ、リッちゃんも夏はハーハー言ってバテている」 「暑いのも嫌なんだけど、僕、
花火が駄目なんだ、爆竹とか。耳をふさいでも、あの音が駄目なんだ。だから、この季節はいろんな意味で好きなんだ」 「僕もリッちゃんも、
花火は平気、想像だけでも、楽しい」「アッちゃん、僕少し疲れてきた、休むね」 「あーぁ、元ちゃん大丈夫」 「うん、少し休めばね。また、後で話がしたい」僕は、疲れたのもあったけれど、楽しい思いの中で本当に眠りたいと思ったんだ。今なら、お母さんの腕の中で、お父さんが横にいて、お父さんの膝にはリッちゃんの大きな顔が、そんな三日前までの僕のいつもに戻れそうな気がしたんだ。
続きはまた