聞きなれた看護婦さんの声がした、「こんにちは、どうしました、元ちゃん」って。4月の末にリッちゃんと一緒に来て、まだ間もないのにどうしたの。声には出していないけれど、「この間、元気だったけどはてなマーク」って言う、疑問が伝わってきそうだ。血液検査にも、まだ早いのにって言っているようだ。アッ、先に言っておくと、5月6日は日曜日なんだけれど、僕らが行っている病院は日曜日もやっているんだ。木曜日が休みなんだけれど、薬や面会はOKなんだ、あと、緊急も連絡を入れて先生がいたら、すぐ見てくれる、留守の時は何時ごろなら先生がいるかを聞いてになるんだけれど。とにかく、どうしたかを簡単に説明をして、診察を待つ。先客の患者さんが、診察を終るのを待つ。感じ方は違ったと思うけれど、診察を待っている時間は長く感じられた。お母さんは僕の入ったバスケットを、膝の上のおき、ふたの金網のます目から指を入れて、僕の頭を触っている。頭に、ポッンって温かいものを感じる、お母さんの涙だ。僕は、今度はちゃんとお母さんの顔を見て「お母さん、僕は大丈夫、痛くないし、苦しくないよ、ちょっと疲れているだけだよ。心配しなで」って、目いっぱい気を入れて伝えた。待合室で診察を待っている間、僕はここの待合室で会った、いろいろな患者さんのことを思い出した。そして、今ここのわんわんイヌさんの病棟には、アッちゃんが入院しているんだ。僕の鼻は、まだ生きているからアッちゃんの匂いを確認できた。看護婦さんが「元ちゃん、どうぞ」って、僕の名前を呼んだ。お母さんが、バスケットを抱えて診察室に入る。診察台に、バスケットから出した僕をそーっと置く。先生に、お母さんは説明している、思い当たるここ、二、三日のことを。ただ、見た目が変わっていない感じだったので、様子を見てしまって、食べる量が減った時点ですぐに連れてくるべきだったと言っている。僕は、「お母さんのせいじゃないよ。僕が気が付かれないようにしていたんだ」って、先生の方を見た。先生は、僕を見てすぐに「脱水症状が出ています」って、お母さんの頭の中では、以前に脱水症状を起こしたときは、点滴を打ってすぐに帰れたので、心の中で良かったってホッとしていた。でも、先生は看護婦さんに、血液検査の用意をしてと言っている。お母さんは、怪訝そうに「血液検査ですか」と聞く、先生は躊躇することなく即答で「そうです」と言う。僕は覚悟が出来ている、もう決して良い結果は出ないと、きっと入院することになるんだ。僕は、抵抗することもなく、横になって血液を採取される、結果が出るまでは十五分くらい掛かる。お母さんは、少し僕に一人で待っていてと言って、看護婦さんに僕を預けて、アッちゃんに会いに行った。お母さんの目に映った、アッちゃんはこの前見たときよりも、かなりやつれていた。でも、この前は薬で寝ていたんだけれど、今日は起きていて「アッちゃん、おばちゃんだよ」って、声を掛けるとお母さんの方に目目だけが反応した。お母さんが、アッちゃんの頭や体を撫でていると、僕を預けた看護婦さんではなく、違う看護婦さんが来て「アッちゃん、食欲は結構出てきたんですよ」って「私たちが、来ると目で追ったり、少し頭を動かしたり、ねぇ、アッちゃん」って、アッちゃんに声を掛けていた。看護婦さんには、お母さんが泣いているのが分かったから、それ以上は、ただ「アッちゃん、頑張っているよね」って。お母さんが、僕のところに戻って、少しすると「検査結果が出ました」って、看護婦さんに呼ばれた。結果は、僕の思っていたとおり、入院することになった。お母さんは、「えっ、入院ですかガーン」先生は、「今日は点滴をして様子を見て、明日もう一度検査をして結果によっては輸血をするかも知れません。前回のように拒否反応を起こさなければ、良いんですけれど」と言った。僕は、お母さんと先生が話をしている間、お母さんにしっかり抱っこされていた。何気なく、僕を抱いているお母さんの腕に、力が入ったような気がした。僕は、お母さんの体に強くしがみ付いた。この時、お母さんは僕を連れて帰ろうかと思ったらしい、きっとお母さんにも、僕の蝋燭の炎が見えたのかもしれない。僕は、入院したくないと抵抗したけど、お母さんが、「希望は捨てれない」と言った一言が、僕の抵抗している手を止めた。

                      続きはまた病院