4月に入った。僕は、リッちゃんに幾つかのお願いをすることにした。「一つは、お父さんとお母さんのことだ。これは、お父さんとお母さんだって、いつも仲良しと言うわけではない。ケンカだってする、そうした時は何気なく、間に入って
へらへらってして、その場の空気を和らげること。お父さんとお母さんにとっては、僕らは子供と一緒だから、解るだろう僕が言いたいこと。上手くやってほしい。そこは、すごく大事だからね。まぁ、今までも、僕ら二人でしてきたことだけど、僕がいなくなったら、リッちゃんが一人でしなくてはいけないことになるから、大変だと思うけど、頑張って。」って僕が言うとリッちゃんは、「分かっている」って一言、真剣な顔で答える。お父さんとお母さんが険悪な状態になると、二人ともなかなか折れないから、原因がくだらない事でも。会話のない、重苦しい空気のお家になってしまう。僕とリッちゃんはそんな時、必ず会話の糸口を作っていた。どうしても、二人が話をしなければいけないようなことをするんだ。一番よく使うのが、僕とリッちゃんがお父さんの両サイドに座って、おやつをおねだりするんだ。そうするとお父さんは、「お母さんに取ってもらいな」って言うから、お母さんは「お父さんにもらいなさい」って、リッちゃんにおやつの入っている入れ物を銜えさせる。「まったく、狭いお部屋でこの二人はよくやるよ」って、僕らは思っていた。最悪は、しょうがないから僕かリッちゃんが頑張って、おならをする。これは、絶対にうける、二人とも必ず顔を見合わせて笑う。お父さんもお母さんも、僕たちをかえして会話をしていた。「これが、僕らの一番の仕事だね」って、ケンカのあった日にリッちゃんとよく話していた。「二つ目は、お母さんのこと、僕がいなくなったら、ひどく落ち込むと思う。表面的には、平気な顔をしていると思うけど、なかなか立ち直れないと思う。どうして、1年前に僕が病気になった時にもっと早くに気が付かなかったかって、きっと自分のことを責めると思うんだ。でも、お母さんのせいではないし、だから、リッちゃん、お母さんをうんと慰めてあげて。そばについていてあげて、それだけでいいから。僕はお母さんのことが心配なんだ。僕が生まれてから、ずーっと、一緒に居たから、分かるだろう。リッちゃん」って言うと、リッちゃんは、黙ってうなずいた。そして、しばらくしてから「大丈夫だよ。元ちゃん、お母さんのことは心配しないで、僕がお母さんのそばにいるから。僕が元ちゃんの代わりになるから。お父さんもいるし、大丈夫だよ」って、リッちゃんは僕の目をじっと見ながら、目にいっぱい涙を浮かべて、一生懸命泣きそうになるのを堪えながら言った。目にいっぱい涙を浮かべたリッちゃんの目を見ている、僕の目にもいっぱい涙が浮かんでいた。僕らはお互いに、その日それ以上その話の続きするのを止めた。僕から、話し始めたことだけど、胸がいっぱいになって、続けられなくなったんだ。それに、お母さんたちがもうそろそろ帰って来る時間だし、今の僕らを見たら、何かあったのかと思うだろうから。僕とリッちゃんは、いつもののんきな顔に戻すのに少し時間が掛かった。そして、二人でソファーの上で背中を合わせて出来るだけ、自然に寝ることにした。僕らは、お母さんたちがそーっとお部屋に入ってきたので、帰ってきたのに気が付かなかった。お父さんとお母さんは、僕らの寝ているところを少しの間見ていたらしい。でも、僕もリッちゃんも全然気付かずに、寝ているので僕らは、二人に驚かせれた。同時に背中を「ポン、ポン」ってたたかれたんだ。僕もリッちゃんも、「ピックン」ってして、リッちゃんはビックリして起き上がって吠えるし、僕はりっちゃんの勢いでソファーから落ちそうになるし、まぁ、そのおかげで、さっきまでのシリアスな僕らの空気が一変したから、良かったと言えば、良かったんだけれど。4月に入ってから、僕はなんだか浮き足立ってしまった。少し前までは、すごい勢いの炎だった蝋燭が、少しつづ勢いが落ちている。これって、きっと僕の新しい世界への扉が、少しつづ開き始めているんだと思う。僕の中では、色々なものが新しい世界へ行くために準備が始まっている。僕は、準備に時間が掛かると言っているんだけど、僕の言葉は、まだ新しい世界では通じないらしく、どんどん進んで行くんだ。僕の体の中は、いろんな音で、まるで工事現場みたいなんだ。でも、その音は誰にも聞こえないんだ。僕も、この音は自分の体の中で起きているのに、時々しか聞こえないんだ。だた、それが日に日に、間隔が狭まってきているんだ。
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