朝がた――

ユキが咳き込みだしたので
携帯していたトローチを
渡しました。

市販しているとはいえ
薬なので味が独特であり、

取りつくろったような
不自然なフルーツの風味もあるので
私は苦手ですが――

ユキは気にならないようで
咳が止まったこともあって
大変喜ばれました。

ユキに何事もなくて
一安心です。

今日みたいな日は
まだまだ油断なりませんね。

キミも気をつけて下さい。

ところで――

この様子をどこで見ていたのか、

私が一人になった時
目の前でわざとらしい咳をして
飴をねだる妹がいました。

いえ、夕凪姉ではなく妹です――。

普段なら虹子やさくらが
やってきそうなおねだりですが、

今日は――観月でした。

少し――意外です。

観月なら飴くらい、

策を弄さずに
素直にねだってきそうですから。

その後の行動も奇妙でした。

本物の咳ではないと判断したので
薬用の飴ではなく、

ポーチに入っていた
いちごみるくをあげたのですが
よほど美味しく感じたのか、

感極まった様子で――

抱きついてきました。

ありがとなのじゃv

と叫びながら――。

観月の熱量を一身に受けたことにより、

当然私の意識はそこで
途切れました。

……

ありえません。

真璃がそばにいなかったとはいえ、

あの観月が――。

しかし今思うと
観月の様子はおかしかったような
気がします。

抱きつく直前、

目が――

夜の動物のように光ったように
見えましたし、

咳こむときのコンコンという声が――

まるで童話やキャラクター化された
キツネのもののようでした。

これはもしかして――

狐憑き、
というものでしょうか――?

ときおりキュウビ、という
キツネらしきものの名前を
呼んでいますし――。

……

ふふふ。

いえ、冗談ですv

観月はおそらく台所で
朝のキミたちに出された
奈良漬けの残りでも
食べてしまったのでしょう。

ええ、端的にいえば
酔っていたのでしょう。

あの子はどうやら、

アルコールを含む
薬物への感度が高いようですね。

薬用トローチを
渡さなくてよかった――。

キミも薬を飲むときや、
食べたことのないものを口にする時は
気をつけて下さい。

ええ――

狐憑きの件は
あくまで冗談です。

正直なところ――

声や目の光については
納得のいく回答は出ていませんが、

急に民俗学分野の伝承をもとに
物ごと判断するような――

急激なパラダイムシフトが
私に起こったわけではないので
安心して下さい。

それに私だって――

時折冗談で誰かをけむにまいて
困らせたくなることもありますv

特に今日のように、

文字通り
狐につままれた日は――。

フフフv

-あとがき-
べびプリ日記風SS
冬は手放せません