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挿話 時の門の彼方より

 

 「すべてはE21から始まった。その地球は1970年代前期に接続されたんだが、当時は東西冷戦の真っただ中で、俺達の地球以上にあわや第3次世界大戦かという瀬戸際に追い込まれていた世界だったんだよ」
 高富博士は八乙女との接触で知ることとなったイファッド出現に至る経緯を話し始める。
 「2000年代のE15と1990年代のE17、E19が間接的に介入して、先進地球世界由来の高度技術を主要各国に供与したことで緊張は緩和されたが、一方で先進地球世界政府や企業に取り入り、それらの技術を非合法に獲得しようと企む悪意ある者達が跋扈することにもなったというわけだ。そうした行為が際立ったのがかの国だ。歴史的にも大国からの圧迫が絶えず、そうした中で奇形的に序列意識と被害者意識と劣等感を内包した結果が生み出した周辺諸国に対する根拠のない優越意識と歪んだ自尊心と価値観がかの国にある野望と妄想を抱かせた」
 あからさまな嫌悪と怒りを浮かべた顔で高富は言った。
 「これにはまあ、俺達の地球世界であの連中がそうした振る舞いをしていたように、俺達の国にも責任はあるんだと思うよ。今さらの話だが、奴らを甘やかしすぎた。あなただったそう思うだろう?」
 「ああ、まったくだ増長させてしまったね」
 話を向けられた佐川は全く同意するという顔で頷く。
 「我々の地球でも、あの連中は好き放題だったからね。結局は日本とアメリカが愛想を尽かして突き放したのを契機に世界中から村八分にされて半ば自滅という末路を辿ったが・・・最後の最後まで自分達は悪くない被害者なのにどうして誰も尊んでくれないのの一点張りだった理解不能の残念な連中だったが・・・エドル出現の元凶になったあの男は、言ってみればかの国の忘れ形見というか鬼子みたいなものだったんだから」
 「そしてあの国に、いらぬ情けをかけた」
 「まったくだ。あの国に情けをかけるとろくなことが起こらないというのになあ」
 「まあ、現在は華連邦領土内で人食い習慣のある本当の鬼になっちまってるけどな」
 侮蔑を露わにして高富がせせら笑う。
 その差別的態度に嫌悪を現す者は皆無だ。
 かの国は、その出身者がエドル出現の元凶だという事実を知らされていないにもかかわらず、それほどまでに日本国のみならず世界のすべてから怨嗟と嫌悪の対象とされていたのだ。
 「まあ、そんな連中だ」
 高富博士は言い捨てた。
 「連中は考えた・・・全く考えないでいてくれた方が世のため人のためなんだがな・・・というよりは、かの地球における自分達の地位に不満を抱き続けていた。こっちの奴らと同じだよ。私達はこんなに優秀なのに世界から正当な評価を受けていない。昔から自分達は大国の思惑に翻弄されて、疎外されて邪険にされて我ら民族の真の実力を示せていない。世界中の悪意が私達の優秀性を妬んで邪魔をしてくる。本来なら私達は世界中から愛され尊ばれて当然の民族なのに!・・・ってな。そんな時だよ首飾りの世界がかの地球に接続されたのは。まあ、単純すぎる考えって言うか中二病のガキんちょが脳内妄想でオラオラキメてるようなもんだが、連中はそこに活路を見出したってわけだ」
 「だが、どうやって縮退施設を・・・」
 納得がいかないという顔の佐川に高富がわかり切ったことだと答えてみせる。
 「佐川さん、連中が俺達の地球でもやらかしていたことだよ。賄賂にハニトラに脅迫にってさ。おまけに集団で押し寄せての恫喝だ。E21は接続直後、早々に情報インフラが整備され始めた。まあ、今は懐かしきインターネットってやつだが、俺達の地球でも…っていうか日本でもそうだったじゃないか」
 「ああ」
 そこまで言われて佐川は頷く。
 「我々の日本もそうだったね。そうした行為で行政から報道関係までが連中の影響下に置かれかけていたことは事実だ。それを阻止したのが初歩的なパソコン通信の頃からレジスタンス的に活動していたネットの住人達だったというのも紛れもない事実だ。彼らはやがて・・・当初は社会的害悪に等しい扱いを受けていたが後に市民権を獲得した・・・電子掲示板に、過去に連中がやらかしたありとあらゆる悪行の記録を書き込み、その事実が一般市民にも浸透を始めた・・・あの頃が戦後日本最大の危機だったかもしれないね。連中の本性が世間に知れるきっかけを作ったのがそうした情報インフラだったから」
 「まあ、それで連中も焦ったんだろうよ。とりあえずいろんな悪事が知れ渡って怒り数倍になった日本が本気で報復を始めたら全てがおじゃんだ。情けない話だけどさ。日本っていう国は取りあえずは謝ったり愛想笑いで厄介ごとをかわそうとするんだが崖っぷちに立たされると手の平返して逆切れしちゃうお国柄だから、それを知ってるあの連中としては、まあ青くなるしかないよなあ」
 高富博士が悪魔めいた笑みを浮かべる。
 まるで母国のそうした二面性が自身の血にも流れているからなとばかりにだ。
 「そういった事情もあって連中も必死になったわけだ・・・もっと別なことに必死になればいいのにな・・・それで連中は対外的には新たな大規模造船施設を整備するって名目で沿岸部を造成し始めた。最初は周辺国も、ああまた連中何かやってるわ程度の関心しか示さなかったんだが、その裏では先進地球世界の企業にありとあらゆる貢物をしつつだな。まあ大企業の重役さんとか政府のお偉いさんとかの恥ずかしい写真やら何やらで各個撃破し、あちらの公共事業に食い込んで縮退施設のデータをかっぱらい。自分達の手に余る設備や装置は地球間での密輸で手に入れて、やっぱり賄賂といかがわしい接待で引っ張り込んだ先進地球世界の技術者の手を借りて、そんでもってとうとう造っちゃったわけだよ・・・まったく呆れちまうぜ・・・っていうか感心しちゃうよ」
 「たけどね高富さん。そりゃあ自前でどこかの地球に接続して俺達は未来から来たぜ支配者だぜみたく振舞ってみたところで、連中は大した基幹技術もないし素材技術もないじゃないか。そりゃあ最大射程で1930年代に接続できたとしても、当時の大日本帝国の敵にもなれないと思うぞ。いかに兵器技術に優越があるにしても、そいつの維持管理を確実にできる連中じゃないのは明らかじゃないか。周辺国は確かに犠牲を強いられるだろうが、最終的に連中を待ち受けているのは緩やかな失血死だ」
 「俺もそう思う」
 侮蔑を含んだ眼差しで高富博士は同意の意を示す。
 「だがね、佐川さん。連中の狡賢さは折り紙付きだ。連中は自国の領内で新たな地球と接続することで市場の開拓をするってな売り込みで先進地球世界の一部企業を懐柔したし、日米ヨの商社だって魅力的過ぎる話に頬も緩んだってわけだよ。奴らは自分達が独力で新たな地球での覇権を確立することの困難を自覚していた。だからお決まりの権謀術数で軍事的にも技術的にも支援の手を差し伸べざるを得ないよう、ことを進めた。政府にしろ企業にしろ、究極的には個々の個人で形成された組織なんだから、そこで権勢をふるう立場にある者を篭絡できればあとはなし崩しだ。卑劣極まりない術策ではあるが、奴らはそれに長けていた。国家規模での反地球的勢力みたいなもんだ。地上げ屋に目をつけられた家主みたいなもんだ。お宅のお嬢さんは、お宅のお孫さんはで脅されてみなよ。もっとも、その頃の世論は、我が国においては左派が強かったから、連中が差別だなんだで騒ぎ立てれば政府だろうが企業だろうが怖気づくしかないって空気が蔓延していたらしいから、縮退施設の不正輸出も間接的な兵器技術の援助も、あるいはそれらのための資金援助も、技術支援も、あの国の連中は好き勝手にやれたかもしれないってわけだよ。まったく。アホらしいにもほどがある」
 「・・・ああ、たしかE21に接続していたのは1991年のE19に1979年のE23で、二つのゲートとも大西洋にあったんだっけ?そいつはまあ、諸地球連合側の欧米勢力の覇権がものを言ったということなんだろうが、かの国はその連中の神経を逆なでするような真似をしてただじゃすまなかったような気もするんだがね。1980年台のアメリカ大統領と言えばロナルド・レーガンだ。超タカ派じゃないか。ふざけた真似をしているアジアの小国なんぞ吹き飛ばせくらいの鼻息で殴り込みをかけるなんてことはなかったのかな」
 「それがだねえ佐川さん」
 高富博士は何とも言えんという無念を浮かべつつ答える。
 「E21じゃその前のカーター大統領が二期務めてる。先進地球世界から流入する市民意識の為せる業というやつだ。ポリコレでがんじがらめにされつつも、お決まりのセリフだけ口にしてればこの身は安泰みたいな空気が蔓延した中で平和主義融和主義の権化みたいなカーターさんが再選されたのはもはや必然。ただし、かの国は秘かに核開発やろうとしてバレちゃって覚えがよろしくなかったみたいだが、だからと言って空爆だのなんだので縮退施設を吹き飛ばすわけにもいかなくなった。あの施設の周辺は、当初新たな造船施設の整備だと言っていたんだが、いつの間にか先端技術研究のための学園都市みたくなっちゃってね。そこには多数の小中学校から高校大学、福祉施設が全国から集められて挙句の果てには縮退施設の中にまで保育園だのの児童施設が設けられたから・・・まあ、一万の単位で無垢な子供を犠牲にできるならやってみろなんてアピールされてごらんよ。とてもじゃないが手出しなんかできない」
 「だが、諸地球連合は何故その状況を看過したんだ?E0は?他にも縮退施設の機能を停止する手段はなかったのかね?爆撃以外に」
 「あったさもちろん」
 「じゃあ・・・どうして・・・」
 「忘れないでくれ佐川さん。あの国は、2030年代まではどの地球にも存在していたんだぞ。連中は先進地球世界では自分達の国が・・・もちろん自業自得なんだが・・・崩壊しているのを知って多地球間であれをやらかしたんだ。諸地球連合で未だ存続しているあの国同志が裏で手を組み、それぞれの地球のみじゃなく先進地球世界にも浸透し、どこかの地球を侵略するために、ぎりぎり縮退施設を違法建造可能な年代にあるE21に白羽の矢を立てたというわけだ。まあ、どこの時代に接続しようが佐川さん。あんたが言ったように国家としての基盤もいい加減なあの国がやって行けるはずはないけどね。それが複数で徒党を組んで侵略を決意したなら諸地球連合が欺かれるのも無理はない・・・・対象にされた地球には悲惨な未来しかなかったろうなあ」
 「ああ・・・」
 佐川は同意するしかなかった。
 高富の言う通りだ。
 あの連中は弱者には無敵だ。
 何でもかんでも自分達に都合の良い捏造話を想起し、それを伝染病のごとく伝播させる。
 そうやって他者を貶めることで自らの居場所を確保するしかできない石の下の地虫みたいな連中だ。
 芳醇な田畑に蔓延り根を食い散らしていく病害虫にも等しい存在だ。
 連中はそうした行為で他国の浸食を図る。
 しかし、稚拙ゆえ、一連の所業が暴かれて非難の対象となった暁には、お約束の論点ずらしで自分こそが被害者なんだと喚き散らす人としての矜持の欠片すらない連中だ。
 そんな奴らでも無い知恵が倍加すれば少しはまともな振る舞いができるようになるのかもしれないが連中のことだ。

 それとは真逆に、他の地球にかける迷惑も相乗的に大惨事だろう。
 「何だか目眩がしてくる」
 そう言って佐川は眉間を指でつまむ。
 「あんたにゃ気の毒だが、これからもっと悲惨な話をしなきゃならなくなるんだ」
 そう言ってから高富博士は。
 「マウント取るつもりは毛頭ないが、俺達はそれを疑似体験さながらに八乙女の仮想世界で目の当たりにしちゃったたんだからな」
 「ああ、確かに」
 佐川が頷く。
 確かに気の毒だ。
 「そして、この全地球全人類の裏切り者共がイファッドの門を開くというわけだ」
 佐川は小さく喘いだ。
 「そうだ」
 高富は言った。
 「イファッド・・・Invader From Another dimension・・・IFAD・・・別次元からの侵略者だ」

 

 

 

 

 

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