~後編~


 蓮は島に到着と同時にマシーンを陸用へ変形させ、そのまま城内へ突っ込んで行った。
その様子を見たアスベルは城の上へと上昇し、最上階へ降り立った。
「蓮ちゃんが正面から突っ込むなら……アタシはこっちから、と……」
降り立った塔から下を見下ろして城の間取りを大体把握すると、扉を開けて階段を降り始める。
「さぁ、出て来て御覧なさい、フジマちゃん……お仕置きの時間よ?」
まだ見ぬ敵に語りかけるようにして鞭を取り出して構える。

 と、そこへ一匹の猫が現れた。
「あら可愛い、こっちへいらっしゃい? ルールルルルr……ってそれは狐」
などと一人ボケ突っ込みをしていた次の瞬間、猫の皮が裂け巨大化するとアスベルに喰らい付こうと襲い掛ってきた。
一瞬怯んだものの、冷静に自慢の鞭を振るい、あっという間にそれを仕留めた。
「ごめんなさいね猫ちゃん……。許さないわよフジマちゃん、こんな可愛い猫ちゃんの命まで弄ぶなんて」
そう漏らすと、白銀の瞳が冷たい炎を宿したかのように見えた。


 エンジン音を響かせて正面から堂々突入して行った蓮は、大広間の中央で一旦停車していた。
マシーンから降り、注意深く辺りを見渡す。古ぼけた大広間は天井が高く壁画も施されており、大聖堂のような雰囲気を醸し出して居た。




 ふとエンジン音に混じって何か聞こえた気がしたのか、蓮は手早くエンジンを切った。
静まり返る大広間に、コツコツと靴音だけが鳴り響く……。
歩みを止めると、世界から音が消えたかのような静寂が波紋のように広がった。

 再び歩き出そうとしたその時、不意に感じた何者かの視線に一気に緊張の糸が張り詰める。
「誰だ、フジマか?」
問いかけに対し返って来たのはスピーカーからの声だった。
『流石だ、流石だよ! “白い悪魔”とはよく言ったものだ。ハハハ……、私の母を撃ち抜いたあの早業、いやぁ、実に素晴らしい!』
「黙れ変態、さっさと出て来い」
蓮はやや呆れたような口調で言った。
すると、今度は別の位置から声がした。
「変態ではない……私は、神だ」
呼びかけに応じたフジマが奥の間から姿を現した。蓮はアッサリ姿を現したフジマにやや拍子抜けした。
「素直だなオイ。何が神だ、お前は精々……化け物だろ」
「化け物? それはまた物騒な、フフフ……ところで、君の能力の秘密を見てみたいものだ、一度解剖させてはくれないか? 金は払う」
「黙れ変態」
蓮はそう言いつつ銃を構え、長々と会話をする気は無いと言った様子で躊躇なく引き金を引いた。
響き渡る銃声と共にフジマの鈍い声が漏れる。
老婆の時と同様、弾丸は眉間に命中したらしく、フジマの眉間からは血が……。

「……?」
しかし、何か違和感を感じた蓮が後方へ飛んで間合いを取った次の瞬間、フジマの腕がグンと伸び、先程まで居た場所を切り裂こうと鋭い爪が空を斬った。
「何だ?!」
異常に伸びたように見えた腕に、顔を歪める蓮。
「おや、外したか。中々素早い。ハハハ、残念だが……そんな玩具では私を殺す事など出来はしない。 
骨もカスタマイズしてあるのでね銃弾は効かないのだよ。この腕の骨に至っては伸縮するように改良してあって、皮膚はそれに対応出来るだけの……」
まるで子供が母親に努力を報告するかのような話はまだ途中だったであろうが、長話を聞く筈もない蓮は次の攻撃へ移る。
「そっか。じゃ……こっち」
持っていた魔銃を取り出して有無を言わさず発射した。魔銃から放たれた弾丸は一直線に青白い閃光を放ち、標的へ命中した辺りで爆発と共に黒煙を上げた。
 しかし、ギリギリで攻撃をかわして居たフジマはまるで蜘蛛のように天井に張り付いていた。見れば手足全てが鍵爪のように変形している。
「攻撃が直線的過ぎだよ、性格と同じだ。それでは当たらないのだよ、フフフ……」
不気味に笑いながら黒煙の中に蓮の姿を探すフジマ。
「それはどうかな……」
フジマが気付くが早いか、爆風を利用して高く飛翔した蓮が僅差でフジマの脚1本を斬り飛ばした。
「ウァアアアアアア!!」
苦痛の叫び声を上げて落下したフジマは、そのまま床に叩きつけられた。

 滞空状態から一気に片付けようとフジマの心臓目掛けて降下を始めた時、背後から声がした。
「蓮ちゃん避けて!!」
その声に対し、反射的に態勢を変えた蓮はフジマから離れた位置に着地した。


――スパーンッ! ――


 激しい鞭の音が大広間の空間を切り裂く。
振り向いた蓮の視界に飛び込んで来たのは、自分が斬り落とした筈のフジマの左脚を壁に叩き付けているアスベルの姿だった。
「脚だけでも動くみたいよ? 気をつけて!」
「どうなってんだよ……」
蓮は顔を歪ませた。……と、一瞬の隙を衝かれた蓮が伸びてきたフジマの手に突き飛ばされ、そのまま壁に激突した所を押さえ込まれてしまった。
「……クッ!!」
逃れようと足掻いてみても、フジマは物凄い力で微動だにしない。
「“白い悪魔”もこれで終わりだ。最後に良いことを教えてあげよう。私の身体の各所には人工の知能と心臓が埋め込んであるのだよ。
それ故、身体のパーツが各々生きている訳だ。解るかね? 生物型兵器の研究は此処まで進んだのだよ、それ故、脚を斬ったくらいでは私は死なないのだよ、ハハハハハ!!」
フジマは勝ち誇ったように高笑いしてみせた。

「なるほど……でも細胞は生身ね?」
アスベルの冷静な声色を不審に感じたのか、フジマは慌てたように振り向いた。
「脚は死んだわよ? ご愁傷様ね。さ、蓮ちゃんからその汚い手を離して貰うわよ?」
見るとアスベルの背後にはフジマの左脚。多量に出血し、黒っぽく変色した状態で床に転がっていた。
「ほほう……、君は確か、“隻眼の毒蛇”だったか……毒を使うとは御見それしたよ」
「アナタ本当にお喋りな男ね……」
そう言ってアスベルはフジマに向かって激しく鞭を撃ち付けた。

 フジマは攻撃を避ける為、パッと蓮から手を離すと素早く身を翻して鞭から逃れた。
「ちょこまかしやがって」
解放された蓮がすかさず背後に回り込み、移動の際の遠心力も加えた蹴りを後頭部へ食らわせた。
次いで、バランスを崩すフジマをアスベルの鞭が捕らえた。
「蓮ちゃん殺っちゃって!!」
アスベルの合図でトドメに掛ろうとしたその時、鞭の下からフジマの両手が伸び、素早くアスベルを捕らえた。
「クソッ!!」
攻撃態勢だった蓮は、怒鳴るように言ってから態勢を立て直すと、フジマの両腕を斬り飛ばした。
「学ばないなぁ……」
フジマの言葉と同時に落とした両腕が蓮目掛けて飛び掛かる。

「アナタもね……」
いつの間にか背後に回ったアスベルがフジマを羽交い絞めにし、耳元で囁く。
「人工知能に指令を送るマザーコンピューターを仕留めれば恐らく終わりでしょう? アナタの心臓は、その役割も担っている筈……」
「い、一体何をッ、例えそうだとしても、私の心臓は別の場所に隔離してあるのだ!! 貴様らに手出しは出来ん!!」
アスベルの鋭い分析に対し、追い詰められたかのようにフジマが言い放った時、蓮に襲い掛かっていた両腕がフジマを守ろうと本体に引き返して行く。
「それはどうかしら……、恐らくもう蓮ちゃんにもバレてるわよ? “白い悪魔”……彼が何故そう呼ばれて居るのか、知らないの?」
一連の動きを見逃さなかったアスベルは、動きを封じたまま視線を蓮へ向けた。

 アスベルの目から全てを察した蓮が再び攻撃態勢に入る。
「そこか……」
アスベル同様指令塔を探っていた蓮が、剣先をフジマの左胸心臓部分へ向ける。
「違った……、貴様の心臓は、こっちだったな」
そう言って剣先を右胸へ向け直した。
「な、何をバカな!!」
「聞こえるんだよ、心音が……そこからな」
蓮は静かにそう言うと、射抜くような鋭い視線をフジマの心臓に向けた。
「く……、フハハハハ……、それで勝ったつもりかね? 甘い、甘い!! ハハハハハ!!」
フジマは猟奇的な高笑いを上げたかと思うと、低い唸り声を漏らしつつ自分を掴むアスベルの腕を体内へと取り込み始めた。
底なし沼へ引き摺り込まれるかのように、アスベルの身体は見る間にフジマの身体に埋まって行く……
「クッ!! 化け物……、蓮ちゃん、早く殺っちゃって!!」
アスベルは嫌悪感に顔を歪ませると力一杯叫んだ。
「駄目だ、お前の手が邪魔だ!! 退かせ!!」
「抜けないの!! いいから早く!!」
アスベルの言葉に照準を合わせようと試みるが、やはり踏み切れずに再び叫ぶ。
「……、ッ手を退けろ!!」
躊躇いから動けずに居る蓮に対し、アスベルが嗾けるように禁句を言い放った。
「いいから斬りなさい!! 白雪姫!!」
それは、蓮が研究員達から呼ばれていた名であり、蓮が最も忌み嫌う呼び名であった。
「煩ぇ!! ……畜生ーーーッ!!」
意を決した蓮が切り込んだ刹那……
「それで良いのよ……」
アスベルはそう言って微笑みを浮かべたように見えた……

 蓮は吸収され掛っているアスベルの腕共々フジマの心臓を斬り裂いた。
大広間一体にフジマの叫び声が響き渡る……


 フジマが息絶えると、取り込まれていたアスベルの身体も剥がれ、両者は二又に分かれるようにして崩れ落ちた。
「……アスベル!!」
蓮が慌てて駆け寄る。
「駄目よ蓮ちゃん、アタシの血は危険なの……近付いちゃ駄目……」
何とか状態を起こしたアスベルは、右手首辺りを抑えて顔を歪ませている。
手元からは真っ赤な血が止め処なく流れ出して居た。
「止血しないと……死ぬぞ」
蓮が処置をしようと手を伸ばしすと、アスベルはフラフラと立ち上がって後退した。
「毒があるのよ……、触ったら、蓮ちゃんが死んじゃうわ。そんな事になったらアタシも死んじゃうんだから」
アスベルはおどけたように笑って見せた。


 後悔の念に苛まれる蓮を尻目に、自力で腕を縛り上げ止血したアスベルだったが、大量の出血からか気を失い、その場に倒れてしまった。
蓮は自分が着ていた真っ白なレザージャケットを脱ぎ、負傷したアスベルの手を包むようにして縛ると、倒れたアスベルを背負って自宅へ急いだ。


 帰宅後、直ぐに妹弟の協力の下で応急処置を施した甲斐もあり、アスベルは一命を取り留めた。



「あら蓮ちゃん、ぐっもーにん♡」
意識を取り戻したアスベルが、視界に捕らえた蓮に声を掛ける。
その声に、ベッド脇で座ったまま寝ていた蓮も目を覚ました。
「何がグッモーニンだ。……気分、どう?」
「え? いつだって絶好調よ?」
「そうじゃなくて……、その、手……悪かっ……」
アスベルを直視出来ず、俯き加減に視線を泳がせながら言い掛けた蓮に意外な言葉が返って来た。
「カッコイイでしょ?」
「は?」
思わず顔を上げる蓮。
「……腕の1本や2本、惜しくないわよ? 蓮ちゃんの背中はアタシが守るわ。約束したじゃない」
そう言って微笑んだアスベルに対し、蓮はただ黙って頷いた。


 白と黒、見た目から正反対なこの二人だが、この一件以降互いに絶対的な信頼を抱くようになった。



 あれから数年ーー



  いつもと変わらぬ日常。

「暑いわねぇ、もうイヤになっちゃう、何でエアコン壊れてるのかしら」
経営する飲食店にて、掌を団扇代わりにしてパタパタさせて居るアスベル。
右手は黒い手袋を着けた義手。……と、不意に義手が吹っ飛んでしまった。
「って、あらあらヤダもう~……」
アスベルが慌てて拾いに行った先に丁度店にやって来た蓮が立っていた。
「何してんだ?」
やや苦笑いで義手を拾って渡す。
「うふふ、ロケットパーンチ♡みたいな」
「……」
何か言いたそうな顔で右手を見詰める蓮を見て、アスベルが先に口を開く。
「あら何? アタシの勲章に文句でも?」
受け取った義手を装着しつつ笑ってみせるアスベル。
「勲章か……。じゃ、飛ばすなよ」
つられて笑う蓮に、アスベルは少し恥ずかしげに拳をブンブン振り回す。
「ヤダもう!! 蓮ちゃんたら意地悪!!」
「喚くな、俺は生まれ付き意地悪だ」
「もう……素直じゃないんだから! あ、そうだわ蓮ちゃん、オムライス食べる?」
「勿論。それ食いに来ただけだし……」


『兄やん、アスベル、新しい依頼来たから地下室集合~』

「了解」





END



***



昔、ネットゲームで遊んでいた頃に

お互いに作ったキャラクターを使って私が物語にしたものです。


よって、アスベルのキャラデザインだけは友人R氏によるものです。



雪白 蓮の容姿は⬇︎こんな感じです。

(昔描いたもの)


***





月光文姫