特定秘密保護法の罠 | 『月刊日本』編集部ブログ

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 本誌1月号 は12月22日から店頭で販売しております。

 

 今月号では「特定秘密保護法の罠」という一大特集を組み、侃侃諤諤の議論を巻き起こした特定秘密保護法について議論しました。

 

 作家の佐藤優氏は、日本版NSC・特定秘密保護法は「戦争ができる普通の国」へ国家体制を変革するものだと指摘しています。これは事実上の憲法9条改正です。安倍政権は憲法9条を改正するのではなく、法案によって骨抜きにするという手法をとったのです。ナチスは全権委任法によって事実上ワイマール憲法を廃止しましたが、まさにこの手口に学んだわけです。

 

 なぜ政府、というよりも官僚は「戦争ができる普通の国」を目指すのでしょうか。佐藤氏は、その背景に新帝国主義に対する官僚の危機感があると指摘します。現代は新帝国主義の時代で、各国が自らの生存、利権拡大のためにしのぎを削っています。その生存競争の中で日本が生き残るためには、日本国家自体を帝国主義的に再編しなければならない――これが官僚の危機感です。

 

 日本は、国民の総意ではなく、官僚の危機感によって「戦争ができる普通の国」へ舵を切っています。これは「国家の主人は誰か」という問題でもあります。佐藤氏は、特定秘密保護法は「官僚が国会議員から秘密を保護する法律」であり、「国家の運命を左右する大事な情報を渡して国家を誤らせてはいけない、これが官僚の発想です」と述べています。

 

 しかし官僚主導には問題があります。「最悪の状況を考えた時、すなわち、戦争の結果、日本国家が滅亡するという事態を考えた時、その結果がだれによってもたらされたか、其処が最終的に問題になるのです。日本が滅びるとして、それが偏差値秀才の官僚たちが浅知恵で良かれと思って行動した結果、日本が滅びるのか。それとも、選挙の結果、自分たちの代表が決定した果てに滅びるのか。頭が良いと思い込んでいる偏差値エリートによって滅亡するとしたら、日本国民は死んでも死にきれません。しかし自分たちが選挙で送り出した国会議員によって滅亡するならば、それは自分たちの愚かしさそのものを引き受けるということですから、まだましでしょう。今からでも遅くありません、政治家が国家の命運を決定するという意味で『普通の国』を目指さねばなりません。」

 

 「戦争ができる普通の国」を目指す背景には、官僚の危機感だけではなく、アメリカの思惑もあるようです。政治評論家の森田実氏は、日本の再軍備がアメリカの軍産複合体に利用される危険性を懸念しています。

 

軍産複合体は、アメリカの戦争によって利益を得てきました。しかしアメリカはシリアを空爆できないほど疲弊してしまい、戦争というビジネスチャンスを失ってしまった。そこで彼らはアメリカの代わりに日本に戦争をさせ、そこで新しいビジネスチャンスを作ろうとしています。森田氏は、このような流れに身を任せる安倍政権の本質を「従米軍国主義」だと指摘しています。

 

「いや、そうは言ってもテロ対策やスパイ防止は重要だから、特定秘密保護法は必要だ」という意見もあるでしょう。しかし元公安調査庁第二部長の菅沼光弘氏は、NSCや特定秘密保護法ではスパイもテロも防げないと主張しています。

 

 例えばテロ対策に関する資料が警視庁から大量に流出したことがありますが、警察は犯人を捕まえることができませんでした。情報を流出させた犯人を捕まえることもできずに、どうしてスパイを防止することができるのでしょうか。スパイを防止するためには、警察とは別の、防諜に特化した専門機関を作らなければなりません。アメリカではFBI、イギリスではMI5、ドイツでは憲法擁護庁といった防諜活動に従事しています。一方、日本では公安警察や公安調査庁、防衛省の情報保全隊がバラバラに活動しています。テロ対策やスパイ防止を裏付ける実力、つまり専門機関の捜査力が担保されない限り、どんな法律を作っても無意味だと、菅沼氏は述べています。

 

 その他にも沢山の論客が登場し、様々な切り口で「特定秘密保護法」について論じています。是非ご一読いただければと思います。(YS)