おで、室井。

昨日、アクト青山テアトロ・スタジョーネ夏~ヒロイン~を観てきました。
~ヒロイン~は、チェーホフの『熊』と『結婚申し込み』2作品の組み合わせ公演です。

ではさっそく、
劇評という形で感想を綴ってみたいと思います。
7月29日の公演順に並んでいます。
※ちなみに、これはあくまで僕の個人的意見・感想ですので、悪しからず。



◆チームB『熊』
中西さんと宇土さんの声量が全体的に小さく聞こえにくいところもあったが、おかげで客側が2人の話を集中して聞いていたため、話のスピードが丁度よく流れについていきやすかったため、物語が分かりやすかった。客を巻き込んで、一緒に共有している感じがしてよかった。物語のアクセントになったのは、やはり藤野さんだった。物語の盛り上がりの起爆剤となり、全体を引っ張っていた。シーンのメリハリ、物語のメリハリは藤野さんが作り出していた。それに上手く乗った形で、宇土はどんどん面白くなっていった。
中西さんは人物の枠組みから外れることなく一定の流れの中にいたため、最後の登場のインパクトが強く残った。このインパクトにより、もともと得意としていた老婆という役柄の幅を広め、アクセントを取り入れる効果を実感したのではないかと思う。
宇土さんは喉の不調という中で、ゆっくりはっきり台詞を喋っていたことに好感が持てた。何よりの成長と思えたのは、円形だった今回の難しい舞台の中を、前説も併せ、大きく、美しく、堂々と動き回っていたこと。独白の台詞の緩急をはっきりさせ、声の大小含めメリハリを持たせれば、より素敵だったろう。
藤野さんの台詞や思いには重みがある。実感がこもった存在感のある表現からは、新劇の色を強く感じる。が、決して重苦しいわけではない。その明瞭な声や滑舌で、これらの特徴を武器に変え、物語の大きな流れを作り出している。今回の作品のキーマンだった。彼女のたくさんある魅力中でも、僕がいつも感心するのは、その“観客の空気を読む力”である。常に観客の呼吸を感じ、その場の空気に合わせた表現の力加減が出来る役者は、世の役者の中でもほんの一握りしかいない。本当に見事である。


◆チームB『結婚申し込み』
潮さん・築野さん・小鳥遊さんの3人のキャラクターを、そのまま役に当てはめた作品作りだった。セリフや展開のスピードがやや早めで、客が置いてきぼりになる場面がいくつかあるものの、若く、勢いがあるエネルギッシュな演技に好感を持った。3人がそれぞれ自分のリズムで生きていたため個性が強調されていてよかったが、シーン毎のメリハリをはっきりつけ、物語の全体の流れを明確にすればより面白味が増すだろう。
潮さんはセリフの緩急に成長を感じた。一辺倒だった押しのセリフに引くことが加わり、セリフの展開がスムーズだった。加えて、声質の幅が広がれば、より魅力的な役者になるだろう。
築野さんの体を大きく使った感情表現が面白かった。ヒロイン的な柔らかい声や表情、雰囲気とのギャップはこれからも彼女の武器となるだろう。感情と声の幅を増やし、より強い武器としてほしい。
小鳥遊さんは持ち前のキャラクターがより一層魅力的になる方法を見つけたようだ。線の細い声や体の使い方を、物語の時間軸とマイペースをどう噛み合わせるかが、今後の課題だろう。


◆チームA『熊』
渋谷さんと宇土さんは非常に安定感のある芝居をしていた。互いに懸命にぶつかっていたためテンポは緩みがちだったが、メリハリの部分は岩崎が上手く支えていた。3人とも真面目な役者できちっと役割をこなしていたが、部分的にタガを外したり乗ったりすることが出来れば、より互いを高め合える3人だとも感じた。
渋谷さんのしおらしさとヒステリックな感情のギャップに驚いた。ヒステリーを怒りという力強い表現に変換できれば、よりそのギャップが浮き立ち、演技に幅が出るだろう。
宇土さんはマチネとソワレではっきり人物を演じ分けていた点を評価したい。どちらもテンションを維持し、高いパフォーマンスを披露していたが、声量だけみればソワレの方がよかった。これからの課題は、前述した通り。
岩崎さんがこれほど見事に老婆を演じれるとは思ってもみなかった。新たな彼女の可能性を見た。セリフの技術や間、役割をこなす能力はさすがに高い。が、役の枠から飛び出すような、岩崎ならではの魅力に溢れイキイキとした老婆が観てみたいと感じた。


◆チームA『結婚申し込み』
独特な菅野さんの個性を活かし、福井さんが物語のアクセントをつけ、菊地さんが流れを作っていた。3人がそれぞれの役割をきちんと全うしていたため、物語の展開が明確だった。が、丁寧だった分だけ、個々の勢いが足りなく感じた。集中と解放のうち集中をもう少し取り入れれば、よりメリハリのある物語になるだろう。
菅野さんの懸命な演技に好感を持った。自己のリズムが強く、まだ相手との会話で盛り上がる部分が弱く感じる。細かな表現もいいが、大きな体を活かしたダイナミックな表現がほしい。
福井さんはとても安定感があった。緩急のある演技は、メリハリがあって全体のリズムがよかった。全体の流れを意識したためか、福井個人の表現に大胆さが足りなく感じた。豊かな表情にインパクトがあり、効果的だった。
菊地さんは場面を落ち着かせ、進める舵取りが見事だった。柔らかい表現を軸にメリハリをつけ、2人を上手くアシストしていた。が、2人に比べキャラクターが薄く感じたので、たっぷり時間を使って自分のリズムを強調すれば、より全体の中で活きるだろう。


全体を通して、とても良い公演でした。
いろいろ勉強になりました。
ありがとうございます。


公演に関わったみなさん、
本当にお疲れさまでした!

みなさんの今回の努力が、
次に繋がりますように☆