冷やし中華をすすっていると、背後席から非常に特徴のあるカタカナ発音のタイ語で味噌らーめんを注文する声がきこえるので、どこかで聞いた声だなと思えば、日ごろから、
「ワタクシよりタイ語が上手な日本人は何人いますか? いたら名前をあげてくださいよ」
と言ってはばからない日本人サンだった。
しかし、「ミソの大盛り」が通じない。
客「ミソ・ヤイ」
店「は? ミッソーのなんですか? 太麺のことですか?」
客「メ・チャイ」(否定形の野卑な発音)
の三行問答が数度繰り返されて、その日本人サンがだんだんとキレはじめてる空気が僕たちの背中にも伝わってくる。
こういうのに、映画「戦場にかける橋」でも有名な「クワイ川(ヤイ)」をカタカナ発音させるとタイ語では「デッカイお●●ち●●んち●ん」の意味になって場は意味もなく盛り上がるんだろうけれど、いままでは「ヤイ」でも通じていたものなのか、やがて、
「おまえは耳が悪いのか? どこの田舎からバンコクに出稼ぎにきたんだ?」
的なニュアンスの言葉が出てきたので、僕たちは、
「そういうときは、ヤイ(大きい)じゃなくて、ピセー(特別)って言えばいいんだよ。メニューにもそう書いてあるだろ」
とクレイマーが山をおりる道 をつくってあげて、何事もなかったように冷やし中華に向きなおったのだけれど、背後席の凍りついた空気はいかんともしがたいものがあった。
もっとも、こういうのは、クレイマーというよりも、異文化異言語への最低限の礼節もわきまえない、単なる思い上がった●●バ●カなだけなのかも知れませんが。
ふだんは職場の女性社員をホステスさんと取り違えているかのような、ニコニコ顔ネコなで声でタイ人と接していても、自分の思い通りにならないことがあると途端に(A新聞系思想者などが刷り込みたがるイメージの)大日本帝国陸軍の兵隊サン以下の高圧野郎に変身できるのが、このレベルの「タイ大好きです」サンたちの一種の身上なのかな。
タイ語を話せる自分のことが誇らしくて仕方がない、という時期は僕には一度もありませんでした。