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東かがわ
三本松の人形劇場に戻ってきた。
ワニー是尾根が、電話で誰かと話している。
「なに、本当か? 何でそんなことに……。海外旅行、もとい、海外視察へ行く気満々だったじゃないか」
ワニは君に気づいた。
「あ、また来やがった。今、てめえに構ってる暇はないんだ。すぐ立ち去れ」
「あー、わしも一緒におるが」
「うっ、銀河総裁!」
「うー、ワニ君に、ちっと道案内してもらいたいんじゃがの。きみなら、県境でまだ封鎖されちょらん場所を知っじょるじゃろ」
「このドン是尾根様に向かって、道案内をしろだと? 馬鹿も休み休み……」
銀河総裁は、カルメラ焼きをワニに渡した。
「あー、これをやるけん、案内してくれんかのお」
「うちのママの大好物じゃないか! ……うーん、とにかくちょっと待ってくれ。今はそれどころじゃないんだ」
「何かあったんかいの?」
「県強付会の県議が1人死んだ」
「なんと!!」
「出張先で突然体調を崩して亡くなったらしい。死因はわかっていない」
銀河総裁はスマホを取り出し、電話をかけた。
「あー、もしもし。ちっとお尋ねします。県強付会のメンバーが1人亡くなったと聞いたんですが」
「“あの男”が私の所に来て陳情した」
「うー、あの男はわしの所にも来ましたけど、彼の陳情は、『彼らが改心するか、さもなくば失脚しますように』ですがの。命までめげとは言うとりません」
「ここまで県強付会のやり口に従ってきた奴らが、今さら改心することを期待するだけ無駄だ。
そして失脚させるなら、我々にとっては、奴らをめぐのが最も簡単だし、めいだらもう復活はない」
この言葉を耳にして、ワニー是尾根がおびえ出した。
「銀河総裁、い、いったい、誰と話してるんだ?」
銀河総裁はワニを無視して電話を続ける。
「うー、1人や2人をめいだところで、県議会では県強付会が圧倒的に優位ですきん、状況は変わらんと思いますがのお。
いや、あー、確かにあなた様のお力をもってすれば、議員をさらに何人も入れ替えることは可能でしょう。うー、でも野党が本気で頑張っちょらんきん、県強付会の議員が何人いなくなろうが、新しく県強付会の人間が補充されるだけですが。
あー、実際、前にも1人、ゲーム条例に賛成した議員が亡くなっとりますが、補選で県強付会の新人があっさり入っじょりますきん。
うー、もっと影響力のある手立てがあるんと違いますじゃろか?」
「もっと影響力のある人間をめいだ方がいいか」
「あー、そういう意味じゃのうてですな……。あくまでも、民主主義的手段によって、問題を解決せにゃなりません」
「権力者による有形無形の圧力。選挙制度のゲリマンダー化。情報操作。立候補者の不足。民主主義が形骸化する原因はいくらでもある。
例えばあの国にも大統領選はあるし、あの地域にも議会選挙はある。だが、あれらの国や地域で、民衆が基本的人権を持っているようには見えぬ。世界中、選挙を実施している全ての国で民衆が人権を手にしていると、果たして言い切れるだろうか?
そもそも我々は誰一人、選挙権も被選挙権も持っていない。民主主義による解決を図る方法がないではないか」
「うー、確かにおっしゃる通りです。けど、鬼退治の手段が、命のやりとりになってもうてはいかんと思うのです。
あー、選挙権や被選挙権を持つ人々に訴えることによって、香川県の民衆の中から勇者たちが現れ、そしてその勇者たちのもとで、民衆が立ち上がって県強付会を打倒し、『ゲーム条例』を廃止する。
そのような形に持っていくのが、いちばんええのと違いますじゃろか?
うー、国政選挙では、しばしば結果が変わっじょりまして、県強付会の思惑を民衆の力が上回ることもあります。ほだきん、地方議会でも県強付会に対抗する勇者たちさえ現れれば、民衆の力が発揮されるでしょう」
「勇者だと思われていた人間が、実は詐欺師だったなどということもよくある。その勇者たちが信頼に足る人物かどうか、見極める判断材料がそろうまで、民衆が彼らを支持するとは限らん。
そんなまどろっこしいことをしている間に、日本全国が香川県のようになったら、取り返しのつかないことになる。
さっき菊池寛が言ってたように、“イワキでもトノマでもサトナカでもない人間”が、あんな馬鹿馬鹿しい問題を起こして失脚してしまった。亜久浜アサイラムの羽鳩院長の暴走を、止める人間がいなくなったのだぞ!」
「うー、……とりあえず、今からわしは、民間人を1人、香川県から脱出させるところですきん、ちっとこま、待っててつかあさい。この人を無事に脱出させたら、たちまちそちらへ向かいますが。
あー、わしは粘り強く、選挙権・被選挙権を持つ人々の奮起を促したいと思います。まだまだ諦めちょりません」
「時間的猶予がない。規制推進派の者どもを、1人1人めいでいく方が手っ取り早い。影響力のある者から順にだ。まずは……、」
パリン!
2人の話を聞いて動揺したワニが、今もらったカルメラ焼きを、誤って割ってしまった。
「あー、カルメラがめげたか。県強付会と結託してゲームへのネガティブキャンペーンを展開したヘル新聞のトップじゃけん、しようがないのお」
「壊れたのはカルメラ焼きだ。カルメラ是尾根じゃない!
とにかく、うちのママと、弟のマイケルが、ゲームは害悪だって言ってたから、ゲームは害悪なんだよ!」
「お前らがそう思うんならそうなんだろう、お前らの中ではな」
「誰だ、おんどれは」
「うー、陰陽師の安倍晴明殿じゃ」
「確か晴明殿も、式神を使って、人を殺すことができたはずだ」
「いえ、人を殺すことはできません。生き返らせる方法を知りませんので。
昔、貴族の求めに応じて蛙を潰したことがありますが、あのときもいい気はしませんでした」
「な、何しに来た? 俺を脅そうってのか?」
「うー、そんなつもりはないけどの。ただ、どこか象徴的に干すところを作らんと、なめられるけんの」
「まだ封鎖されていない県境の場所を、鳴門大師から聞きました。そこへ連れていって頂きたいだけです」
「……わかったよ、連れてきゃいいんだろ。そのかわり、俺の命は助けてくれるんだろうな」
ワニー是尾根は、君たちを郊外の山地まで案内した。
「この山の上が県境だ。ただし、山頂付近にはまともな道路が通っていないから、ここを越えるのは難しいだろう」
「ここまで来れば、あとは大丈夫です。式神たちよ、ちゃんとついてきてるだろうな」
「はい、ここにおります」
「ひえっ、こいつらが式神か! 殺される!」
ワニー是尾根は逃げ出した。
「そんなつもりで式神を連れてきたわけではなかったのですが。まあよい、式神たち、頼んだぞ」
「アイアイサー!」
大山登山口駅
式神たちが、たちどころに山上まで、ケーブルカーを敷設した。
駅も搬器もちゃんと造られている。
「このケーブルカーに乗れば、山頂で待つ鳴門大師のもとまで行くことができます」
「あー、香川県にはオリーブがある。鳩もおる。いつかは、虹の架かる土地になるように、わしらは努力するが。
うー、君も落ち着いたら、県外からわしらに協力してくれたらありがたいけどのお。あー、できる範囲でええけんの。
ほんだらの」
君は銀河総裁らに見送られ、ケーブルカーに乗って山頂へ向かった。
大山山上駅
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※この作品はフィクションです。実在する人物・場所・団体等とは関係ありません。
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