隣には彼の寝顔があった。

こうして見ると、年相応の
女子に見えてしまう。

失礼だと思っていても、
そう映って仕方ないのだ。

ただ、彼がいなければ
私は異空間に取り残されたままだったろう。

(文字通り剣なのね、あなたは。)

そんなことをひたと思う。

「よかったぁ無事で〜」

もう今にも泣き出しそうな顔で
抱きついてくるおじさん。

鬱陶しい、と突き放すことは
できそうになかった。

「どうもきな臭くなってきたらしい。」

そういうことを言うのはギアシュだ。

「突然現れたヴィシュアの妹そっくりさん、
それに加えお前達2人が異世界へ翔んだ。」

どうもただ事ではない。

その認識は私達3人の中で一致している。

「それで、一体なんで翔ばされたんだい?」

おじさんとしては管轄下で
大問題が起こってるわけだし…

「さぁ?ただ、お互い何らかの形で
『試されて』いたみたい。」

おじさんが首を傾げる?

「何を試す必要があったのか…でも
そのおかげで力を付けてきたみたいだね」

さすが、保護者なだけある。

「ええ、法力武器の意外な可能性を
見せつけられた気分だわ。」

「曲げたり、捻ったりねぇ…理論的に
不可能ではないけど、『人間』なら無理だね」

それは私が神であるから可能だった。
そう捉えてよいのだろうか…

そもそも、法力武器だけで戦っては
いたものの、場合によっては
アーティファクトまで出さなくては
勝てなかったかもしれない。

それだけ相手が異質だったのだ。
世の摂理を軽くねじ曲げるほどには。

「もしかしたら、神狩りの剣かもしれない。」

ふと、おじさんがそう呟いた。

「『神狩りの剣』?あれは
『人間』を依り代には使わないはず…」

「僕としてもよくはわからない、
けどもしも…」

もしも彼がーリアネル=グランアーツが
確定的に『器』として存在したなら。

「彼らの母は堕天使だからね。」

「ん?堕天使?アイツって経歴が
理解出来ないほどめちゃくちゃなんだな…」

ギアシュは初めて聞いた、という
顔をしている。

「…確かあなた達って士官学校の
小等部後半から親しいのよね?
何も聞いてないの?」

黒騎士は頭を掻きながら答える。

「聞くべきことは聞いた、ただ
お互いに立ち入ったことを聞くのは
よろしくないと判断している。」

「…そういうものなの?」

「ああ、友人だからといって
相手の事情に首を
突っ込んでいいわけじゃない」

私にはよく理解出来ないが、
そういうものなのだろう。

「俺は聞かれれば答える、だが
あいつはそうしなかったし、俺は
そこまで聞きたいとは思わない。」

そういうものか…

「失礼、私にはそういった
関係の知り合いはいないんだ…」

「責めるために言ったわけでもない。」

たったその一言ではあるが、
声音は落ち着かせようとしている。

「…ありがとう」

「それで?アイツの母が堕天使ならなんだ?
父親は凄腕暗殺者だが『人間』なんだろう?」

おじさんがうなずく。

「その通りだよ、いやぁ、でも
彼の父親にはひと泡ふかされたことが…」

「…あー、あとで聞いてあげるから…」

「ふむ…じゃあ簡潔に言おうか。」

「堕天使か天使かは差異が
あまりないんだけども、大きな差が
1つあってね…」

私たちは1字1句違えぬように耳を澄ます。

「生まれてくる子供に大きな差が出るのさ。
天使から生まれる子にあまり特殊な
力は備わらないんだけど、堕天使は
有り得ないほど後天的になにかしらの能力が
備わってしまうのさ。」

それは、世界を脅かすほどに。

「でも堕天使が生んだ子供なんて
たくさんいる。だから理由はひとつじゃ
ないんだろ?先生。」

やれやれといった様子で、
おじさんは説明を続ける。

「そうだよ…彼らの母は
ただの堕天使じゃないんだ。」

「彼女は本来依り代になるべく生まれた
『器』でしかなかった。
『神狩りの剣』となるためのね」

「…?おかしくないか?堕天使は
天使が羽根を失い地に堕ちた者を指すだろう?」

「そのとおり、認識は間違っていない。
だけど実際、彼女は『器』であり、
結果として堕天使になっている。」

「…魂が乗り込んだのね、『神狩りの剣』と
なるべくして造られた『器』に。」

おじさんは頷いた。

黒騎士は唖然とするばかりだ…

「さすが『死神』だね…
その忌々しい力をどこかへ放れればいいのに…」

「私はもう平気、おじさんが気にすることは
なにもないよ」

おじさんは少し黙ってしまったが、
すぐ話を続ける。

「じゃあ、『彼』も『観測』たんだね」

私は頷く。

「『彼』は全てを切り裂く刃。
『聖人』でもあり、『煌めきの希剣』…」

「…まったく、『神』をも切り捨てる
『人の意思』か…」

「『私たち』が創り出したものじゃない、
あの剣は未来を切り拓かんとする
人の意思で生まれた剣…」

「…どういうことだ?」

「文字通り『彼』は『聖剣』なのよ、
あなたたち人にとっては。」

私たちでも逆らうことはできない。

彼はこの世界の命運全てを決めてしまうのだ。

「かつての友人と同じ…か、『彼』は
僕達をどうするんだろうね?」