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「私の子」久世空気
夕陽が目に入り、私は目覚めた。三歳の息子をお昼寝させているうちに自分も寝てしまったらしい。ベランダへのガラス戸も開けっ放しで不用心だった。ここが三階でも注意すべきだと何度も夫に言われていたのに。
テレビもつけっぱなしだ。ちょうど息子が大好きな子供向けの番組がやっていた。
『どっちかな~? どっちかな~? 赤いリンゴはどっちかな~?』
そう唄いながら緑色の犬の着ぐるみが踊る。両手を上げてお尻を左右に振り、次に両手を頭の上で同じように振る。ピンクの猫の着ぐるみが色とりどりの果物の中から赤いリンゴを見つけ出し、同じようにフリフリしながら持ち上げる。
『あ・た・り~』
単純な踊りとポップなキャラクターが人気で息子世代にはやっている。息子もテレビを見ながらキャッキャと笑いながら踊っている。だからそろそろ息子も起きるだろうと隣に目をやった。夏場のお布団代わりにしている青いバスタオル。そこからマシュマロのような両足が突き出ている。そしてその反対側のバスタオルの裾からも同じように足が二本、突き出していた。
私は何度も瞬きをし、頭を振る。それでも見えるものは同じだ。片側から足が出ているのなら、当然反対側からは頭が見えているはずなのに。
『どっちかな~? どっちかな~?』
テレビから歌が聞こえる。本当の息子はどっち? 私にはそう問われているように聞こえた。いや、そんなはずはない。きっと私が寝ぼけているのだ。
『どっちかな~? どっちかな~?』
バスタオルから引っ張り出したら息子が出てくるはずだ。そっと両方から出ている足に、両手で触れてみた。どちらも同じ体温、同じ感触。どちらかが頭だと自分に言い聞かせてもやっぱりどっちも足だ。
『どっちかな~? どっちかな~?』
母親ならできるはずだ。何度も夫や親から言われたセリフ。息子が言葉をなかなか覚えないのは私が悪いのだと。母親が愛情をもって接すれば必ずしゃべると責められた。返す言葉がなかった。私は息子が大切で大事だ。それでも一生懸命作った食事をぺっと吐かれたとき、夜中に泣き出し夫に舌打ちされた時は、そんな感情を忘れている。二四時間ずっと息子を愛しているなんて自信は私にはない。
『どっちかな~? どっちかな~?』
私は母親としての自分を疑いながらもその勘に頼るしかなかった。私は右側から突き出ている足をつかむと一気に引き出した。
足の先に胴、そして手があり首から上はちゃんと息子の顔があった。寝ぼけているのか小さな口であくびをする。そして目が合うと、にっこりと笑った。私は息子を掻き抱いた。
顔を寄せて正面から息子を見る。嬉しそうに手足をバタつかせ、「まーま」と舌足らずに私を呼ぶ。息子。私の息子。きっとさっき見たものは幻覚か、夢の続きだ。そう思ったとき、息子の口がはっきりと言葉を吐いた。
「は・ず・れ~」
【終わり】
リレーホラー二回目です。小説をブログにあげるのをどうしようか悩んだ結果一番楽な方法になりました。ま、いっか。
次のテーマは「歌」です。
更新は2週間後くらいになる予定です。ではでは。