お恥ずかしながら、一番好きだ、と公言しておきながら長編小説にはなかなか手を出しあぐねており、サクサクと読みやすいエッセイや短編ばかり読んでいたのである。
あらすじは…
おバカな男子高校生の主人公、クラスメートの女の子がヒロイン。
二人はともに、自分には何かができる、凡庸な周りのクラスメートとは違うんだ。と思い生きている。
そんな高校生の二人にできること、アイデンティティの確立は何か。
映画、音楽、読書、全てにおいて周りとは違う、人気にとらわれず、ひたすらにむさぼるように吸収し、知識をため込んでいくことだった。
ある日、偶然名画座で出会った二人は秘密の気持ちを共有できたことから縁がつながっていく。
知識を披露し合い、議論を交わし、主人公はヒロインに気持ちひかれていくことに気づく。
しかし、ヒロインは女優になる夢を見つけ、学校を辞めてしまう。
そんな彼女に最後まで告白することができないまま、「君に必ず追いついてみせる」なんてライバル宣言をした主人公は数少ない友人と共にノイズバンドを結成し、「自分にできる何か」をみつけようと躍起になる。
死に物狂いで「何か」を探す二人は、気づいてしまったのだ。
「自分には、何もない。五体満足なだけの子供なんだ」と。
そんな中、ヒロインは自分がもっとも忌み嫌っていた「人気アイドル」の青年と恋に落ち、体を重ねる喜びを覚えてしまう。
さらに、ひょんなことからすっぱ抜かれた彼女のゴシップが世間を騒がせることとなり、主人公は…
というのが本作のストーリー。
すごくすごく心当たりがないのに、心当たりがあるような気がする。そんなものすごいエネルギーを感じさせてくれる小説でした。
この小説の一番すごいところは、現実の残酷さをまざまざと見せてくれること。
奇跡とか、運命とかそんな都合のいい話なんかはない。
間抜けなドタバタ騒動が重なり、奇妙な偶然が連続し、二人の間はどうなるのか。結末の最後の一ページまで先が読めない。
この年になって、僕自身が感じている。「誰かが何かを手に入れたから、もう一方の誰かは何かを失っていく」そんな現実がこの小説には描かれているように思えた。
「都合のいい奇跡なんか起きない」
「神様なんかいない」
退廃的なようにも思えるけれど、ひとつの諦めのようだけれども、決して絶望じゃあない。
救いがないってことは、自分自身の力でどうにかするしかない、必要なのは開き直りだけなんだ。なんて楽観的にもなれる、不思議な物語。
恋に、音楽に、映画にと青春に青春を繰り広げる主人公たちの姿は、なんだかよくわからないけれど、何かがやりたかったあの頃の僕にフィードバックされていくような感じがして、ちょっと照れくさいような、懐かしいような気がする内容でした。
あの頃の僕は、結局何かができるわけでもなかった。
今の僕は、普通の人生を普通の幸せを目標にする大人になった。
ただ、ちょっと普通じゃない趣味をもっていて、それがとびきり素敵な財産になっているのは間違いない。
あの頃に何かができると信じて飛び出していき、今でも何かを成し得ることを目指し生きている多くの友人たちを尊敬する。
けれども、ただ尊敬してるだけじゃ悔しいから、僕はそんな飛び出していったみんなに「追いつきましたよ」と自慢できるくらい胸を張れるように今の人生を毎日一生懸命頑張っていきたい。
どうしたらそんな風になれるかはわからない。結局、普通の人生になっても僕の「何かできるはず」病はあの頃のままなのかもしれない。