シップウェイ/マーラー交響曲第5番 | geezenstacの森

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シップウェイ/マーラー交響曲第5番

 

マーラー
交響曲第5番嬰ハ短調

1.第1楽章 In gemessenem Schritt. Streng. Wie ein Kondukt.    13:10

2.第2楽章 Stürmisch bewegt. Mit grösster Vehemenz.    15:27

3.第3楽章 Kräftig, nicht zu schnell.    17:36

4.第4楽章 Adagietto. Sehr langsam.    12:25

5.第5楽章 Rondo-Finale. Allegro giocoso. Frisch.    14:40

 

指揮:フランク・シップウェイ
演奏:ロイヤルフィルハーモニー管弦楽団

録音:1996 ワトフォード・コロセウム

P:アラン・ピーターズ

E:リチャード・ミラード

 

 手持ちの「The Greatest Classical MASTERWORKS Vol.2」のなかで、もう一つ評価が高いのがこのフランク・シップウェイ指揮のマーラーの交響曲第5番です。ということでこちらも取り上げてみることにしました。画像は同じデザインでタイトルだけが差し替えになっているだけなので単品発売されているものを使いました。

 

 他のロイヤルフィルのこのシリーズの録音はCTIスタジオでもっぱら捲音されていますが、この一枚はワトフォード・コロセウムで録音されています。近年はこのホールでの録音も増えています。コロシアムは様々な映画のサウンドトラックの録音に使用され、BBCコンサート・オーケストラのコンサート(フライデー・ナイト・イズ・ミュージック・ナイトなど)も定期的に開催されています。以前のタウンホールの後継施設です。

 

ワトフォード・コロセウム

 

 ここで指揮をしてるイギリスの指揮者、フランク・シップウェイは、バルビローリに学び、カラヤンの助手を務め、ヨーロッパのオペラ・ハウスでも活躍してきました。ロイヤル・フィルとの共演においては成果を残しており、このマーラーも評価の高い演奏です。このボックスセットでも、ショスタコーヴィチの交響曲第10番も収録されています。 カラヤンとは違い、なりふり構わぬ叫喚が聴こえて来ます。その一方繊細な表現も素晴らしい。第4楽章アダージェットの霧の中から聴こえてくるような幻想的な美しさは、又カラヤンとは一味違う魅力的な世界です。 弱音から強音迄の振幅の大きさもマーラーに良く合っています。

 

 巷では結構評判のいい録音なんですが、発売されたタイミングと発売方法に難点があり、ほとんど世間に知られることなく駅売りのCDの中に抛りこまれてしまったので録音は良くてもB級クラシックとしての評価しか得られなかったのでしょう。フランク・シップウェイは1935年、バーミンガム生まれです。幼少期より父親にピアノを学び、ロンドンの王立音楽大学に進学してピアノを専攻しましたが、在学中に指揮法に興味を持つようになりました。マルケヴィチ、バルビローリに師事した後、カラヤンの助手も経験しています。

 

 1963年に南西エセックス交響楽団の音楽監督となり、同楽団がフォレスト・フィルハーモニー協会に名称変更した後も1991年まで音楽監督として在任した。1973年にはベルリン・ドイツ・オペラでロリン・マゼールの助手、1985年から1988年までDR放送交響楽団、1989年から1991年までベルギーのロイヤル・フランダース・フィルハーモニー管弦楽団の首席客演指揮者を歴任しています。イタリア国立放送交響楽団の初代首席指揮者を1994年から4年間つとめたほか、。1996年から1999年までベルギーBRT放送フィルハーモニー管弦楽団(現ブリュッセル・フィルハーモニック)、1999年よりザグレブ・フィルハーモニー管弦楽団で首席指揮者、芸術監督として活動していましたが、2014年8月5日、ウィルトシャーで交通事故に遭い、翌8月6日に死去しました。享年79歳でした。

 

どことなくカラヤンのイメージに似ているシップウェイ


 第1楽章冒頭の輝きのあるトランペットのソロは、素直にかっこいい響きです。この一連の録音は多分フリーのエンジニアを使っての録音なんでしょうが、ホールトーンをしっかりと捉え左右に広がるステレオ感の中にきっちりとマーラーサウンドを作り上げています。ロンドンの5大オーケストラの一翼を担っているだけあり、アンサンブルはよく整えられていて、バランスも良い演奏です。シップウェイも無理なテンポや表現で人を惹きつけようなどという山っ気は全くなく、あまり悲壮感を表に出さず、さりとて、一本調子にならない絶妙なバランスでマーラーの嗜好を描き出しています。

 第2楽章も序奏は派手にオーケストラを鳴らしますが乾いた響きででドロドロしないところが特徴です。その後に続く弦楽の響きの対比が見事で急と緩の対比を見事に描き出しています。こういう音響と曲の持つ情感をソナタ形式の音楽の中に見事に織り込んでいます。ここまでオーケストラを見事にコントロールしているシップウェイの力量にこの最初の2楽章を聴いただけで引き込まれてしまいます。

 第3楽章は何といってもロイヤルフィルの主席のジョン・バイムソンのスカッとするホルン。天を駆ける。やりすぎなほどのこの威勢は最高です。この素晴らしいホールで音を割らんばかりの最強音で朗々と鳴るホルンを聴くだけで爽快になります。打楽器群も鮮烈な響きで拾っています。

 第4楽章アダージョがまた絶品です。北欧の空気感に通ずるキーンと冷えた空気の中、抑えた弦がたおやかに進行していきます。この慎ましい情感の表出は天守テット/ロンドンフィルにも通じるものがあり英国のオーケストラの良さなんでしょうか。最後の盛り上がりから音は夢見るように儚く深淵の中に消えていきます。このオーケストラコントロールは見事です。ここではロイヤルフィルは金管ばかりでなく弦も素晴らしいことを認識させてくれます。

 終楽章は音を短く軽々と響かせて始まります。粘っこさはないのでスッキリとまとまっています。もともと精神分裂的な響きの重なりの中で、音楽が流麗な弦の流れの中を自在に響いていき、そこにストレートに響く金管と荒々しながらクリアーな打楽器が乗って気持のよいフィナーレに突き進みます。非常に分かりやすい演奏で葬送行進曲で始まる音楽が最後テンコセクの音楽にまで昇華されている様を感じ取ることができます。