ツィマーマン/ラトルのブラームス | geezenstacの森

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ツィマーマン/ラトル

ブラームス/ ピアノ協奏曲 第1番

 

曲目/ブラームス: ピアノ協奏曲 第1番 ニ短調 作品15

1. 第1楽章: Maestoso   23:27

2. 第2楽章: Adagio   15:45

3.  第3楽章: Rondo: Allegro non troppo   12:09


ピアノ/クリスティアン・ツィマーマン
指揮/サイモン・ラトル

演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

録音/2003/09/07,2004/12/10 スコアリング・ホール、フィルハーモニー ベルリン

P:アーレント・ブローマン

E:ウルリヒ・フェッチ

EP:マリオン・ティーム

DG 4782221


 

 手元にあるCDは2013年に発売された「ベルリンフィル・グレートレコーディング」という8枚組のセットに含まれているものです。この演奏は、2006年度のレコードアカデミー賞の銅賞を受賞しています。まあ、名盤と言えそうですが、発売までに2年を要しています。録音データを見ると2003年に最初のセッションがもたれながら1年後に再セッションがもたれています。何か深刻な禍瑕でもあったのでしょうか?実はこの間の2004年5月にはベルリンフィル恒例のヨーロッパコンサートでこの曲が演奏されています。その時のピアノはダニエル・バレンボイムでアテネで開催されています。此は、ユーロアーツからDVDで発売されていますからこちらを所有しています。

 

 

 もちろん、かたやスタジオでのセッション、かたや野外劇場での実況とシチュエーションは大幅に異なり、会場の制約もあってか、ここでは第一、第二ヴァイオリンを左手に並べた通常配置を採っていますが(ツィマーマン盤では第二ヴァイオリンを右手に配した両翼型配置)、強大なパワーとデリケートな細部表現とが共存した見事な演奏は変わりません、低弦の圧倒的な威力、とどろき渡るティンパニの力強さ、第3楽章における胸のすくような機動力の目覚しさ、木管群を中心として味わい深い独奏もあれば、要所要所であふれるような旋律表現の鮮やかさも聴かせてくれるという、ほとんどパーフェクトといいたいその演奏は、ライヴであることを考えれば音質の良さも含めて驚異的です。

下の映像でこの演奏を確認することができます。

 

 

 この演奏に満足したのかラトルは半年後にこのツィンマーマンとの演奏に追加収録を行なっています。詳しいレコーディングデータでは第1第2楽章が2003/09/7、第3楽章だけが2004/12/10の録音となっています。セッションはフィルハーモニーのスコアリング・ホールで行われていますから、比較的編集しやすかったと思われます。日本では2005年11月に先行発売されています。不思議なのはこの当時、サイモン・ラトルはEMIの専属であったため、それまで一枚もDGからラトル/ベルリンフィルの録音は発売されていませんでした。そう、この録音はツィマーマンがメインで、ラトルはあくまでその伴奏をするという位置付けでした。DGとしては是が非でもこのアルバムを売りたくて必死だったのでしょう。DVDの方はユーロアーツの発売ですがちゃんと「Sir Simon Rattle appears of coutesy EMI classics」という断り書きが掲載されていますが、この手持ちのCDにはそういう表記は一切ありません。録音データもいい加減になっており、再発ということでカットされているのでしょう。

 

 さて、クリスチャン・ツィマーマン(1956-)が弾くブラームスのピアノ協奏曲第2番ニ短調。この盤はツィマーマン20年ぶりの再録音(前録音は1983年バーンスタイン&VPO、こちらも所有していますからいずれ取り上げようと思います)ということと、ラトルがベルリンフィルのシェフに就いた直後の録音ということもあって期待した一枚です。で、日本ではセールス的にレコードアカデミーを受賞していますが、海外的にはどうだったのでしょう。この当時、ツィンマーマン47歳、ラトル48歳という年齢です。

ちなみに、ツィンマーマン盤とこの演奏の演奏時間は以下のようになっています。
Ⅰ:23:33 Ⅱ:14:57 Ⅲ:14:54 Total:53:24(バレンボイム)
Ⅰ:23:27 Ⅱ:15:45 Ⅲ:12:09 Total:51:21(ツィマーマン)
Ⅰ:25:01 Ⅱ:16:41  Ⅲ:13:34 Total:55:16(ツィマーマン/バーンスタイン)

 

 トータルの演奏時間はセッションの方が速くなっています。何度聴いてもブラームスらしさに溢れた渋いコンチェルトです。ところで、ツィマーマンは1984年にバーンスタイン指揮でこの作品を録音して、評判を呼んでいますが、ライナーノートに記されたインタビューでツィメルマンは「録音とはすべて一瞬の記録」といかにも彼らしい思慮深い発言のあと、実はレコーディング用に選んだ楽器が交通事故で届かず、まったく予定外のピアノを弾かされたこと、映像収録も兼ねたセッションだったため照明や吸音材等に取り巻かれていたことなど、そのレコーディングが悔いの残るものであったことを明かしていました。ですからこの曲の再録音には並々ならぬ意気込みを持って臨んでいたのでしょう。レコーディングに厳しく、再録音をあまりおこなわないツィメルマンとしては珍しい約20年ぶりのこの録音では、作品の正しいテンポを考えるために80種以上ものレコードに耳を傾けるなど、いつも以上の入念な準備を経て演奏に臨んだというだけあって、素晴らしい成果が示されています。

 

 第1楽章を通じて展開される厳格な響きと繰り返されるトゥッティのトリルは、亡くなったシューマンへ恩義と、残されたクララへの恋慕との入り混じったものとされる。作曲当時弱冠23歳の思いのたけが複雑な音楽となって表出している感じがします。交響曲として構想されたということでスケール感があります。ただ、バレンボイムの演奏を知っているだけにこの冒頭のティンパニの打ち込みも重心の低さからいうとちょっと物足りないものがあります。セッションの場所がそれほど大きなスペースでないせいかもしれません。やはり、大ホールの音響空間との違いがあるのでしょう。どうも、バレンボイムと比較してしまいますが個人的には音の捉え方はライブの方が音場が広くもっとスケール感があります。

 

 

 

 ツィマーマンの神経こまやかな表現力は、静謐な第2楽章でより明瞭に聴くことができますが、ここでも毅然とした雄々しさを常にたたえているところが、穏やかな慰安に包まれます。この楽章はラトルの細心をきわめたサポートにも注目で、複雑な味わいを秘めた木管楽器の響きなど筆舌に尽くせません。ただ、テンポはあくまでツィマーマンのテンポで押し切っています。

 

 

 第3楽章は多分この録音の白眉でしょう。ピアノ、オケともに切れ味バツグン。作曲当時26歳だったブラームスの覇気をダイレクトに体現したかのような躍動感が秀逸、カデンツァに相当するピアノ・ソロも、その輝きといいしなやかさといい文句なしです。フィナーレ直前にあらわれるヴァイオリンの主題が左右に飛び交う効果は対向配置の賜物でしょう。後年のブラームスの協奏曲にみられるラプソディックなフレーズに転じ、中盤バロックフーガ風の展開もみせつつも厳しさの底流は変わりません。