バレンボイム/ベルリンフィルの軌跡 | geezenstacの森

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バレンボイム/ベルリンフィルの軌跡

 

曲目/ベートーヴェン

ピアノ協奏曲第1番ハ長調 op.15

1. Allegro Con Brio    15:37

2. Largo    12:19

3. Rondo: Allegro Scherzando    9:56

交響曲第7番イ長調 op.92
1. Poco Sostenuto, Vivace    12:11

2. Allegretto    9:06

3. Presto    7:43

4. Allegro Con Brio    7:34

 

指揮、ピアノ/ダニエル・バレンボイム

演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 

録音:1989/11/12  フィルハーモニー、ベルリン

P:ウィルヘルム・シェルム

E:マンフレッド・ホック

 

SONY 88875134072-3

 

 

 これはベルリンの壁開放記念コンサート・ライヴ。東ベルリンの人々のために無料で行われたこの特別コンサートではバレンボイムもベルリン・フィルもいつになく燃えており、特にティンパニが決まりまくる激しい第7交響曲では自由を得た人々を鼓舞するかのような勢いと高揚感が魅力的です。ジャケットもその歴史の一コマを切り取っています。これはその歴史的ドキュメントとも言えます。そんなことでこの日のコンサートは映像も残っています。

 

 バレンボイムはEMIにこのベルリンフィルと1985年にピアノ協奏曲全集を録音しています。そのため、ここではバレンボイムを借りたという形になっています。ところでこのジャケットで発売されたのは2015年になってからで、しかも単売はされていません。これはもともと「ベルリンフィル・グレートレコーディング」という10枚組のボックスセットに含まれている者だからです。

 

 もともとこのコンサートはビデオを収録することがメインであったようです。そんなこともあり、このCDの音質は十全ではありません。時代的にはCDの時代ではありますが、このソースはレコードでも発売されています。

 

 

 多分国内ではCDとともにレーザーディスクでも発売されています。そのレーザーディスクにはコンサートの全てが収録されていて、以下の曲目が収録されていました。

 

● ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第1番ハ長調 op.15
● モーツァルト:ピアノ・ソナタ第10番ハ長調 K.330~第2楽章(アンコール)
● 特典映像:インタビュー&「ベルリンの壁」の歴史(ドイツ語)
● ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調 op.92
● モーツァルト:歌劇『コジ・ファン・トゥッテ』序曲(アンコール)

 

レーザーディスクのジャケット、レコードと一緒です。間違えそうです。

 

 この1989年という年はカラヤンの亡くなった年です。つまり、この録音の4ヶ月前の7月に亡くなっています。また、アバドは1990年に着任していますからちょうど常任指揮者が不在の時期だったんですなぁ。ベルリンの壁は、1989年11月9日に、それまで東ドイツ市民の大量出国の事態にさらされていた東ドイツ政府が、その対応策として旅行及び国外移住の大幅な規制緩和の政令を「事実上の旅行自由化」と受け取れる表現で発表したことで、その日の夜にベルリンの壁にベルリン市民が殺到し混乱の中で国境検問所が開放され、翌11月10日にベルリンの壁の撤去作業が始まった出来事です。この時バレンボイムとベルリンフィルはレコーディングのため教会にいたそうですが、楽員たちはみなこの出来事に感動し、演奏会を開催することを決定したそうです。そして。東ドイツ市民を無料招待してこのコンサートが開催されています。演奏終了後に沸き起こる盛大な拍手はそれを物語っています。

 

 1989 年 11 月 12 日に開催されたいわゆる「壁崩壊コンサート」は、おそらく戦後ヨーロッパで最も感動的なコンサートです。壁が開かれてから3日目です。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は、ホールがオープンする直前に短いリハーサルのみを行い、急遽、東ドイツ国民だけを対象としたコンサートを行うことを決定した。身分証明書は入場券として有効です。朝5時から、人々はフィルハーモニーホールの前に並び、駐車場のトラビスで夜を過ごす人もいます。

 

 当日はSFB (自由ベルリン放送)はテレビで生放送しました。休憩中のインタビュー中、オーケストラの団長アレクサンダー・ヴェドウ氏はカメラの前で涙を流した。数え切れないほどの観客たちも涙を流しました。ホールの拍手は鳴りやまず、曲の後にアンコールが演奏されました。ダニエル・バレンボイムはこう回想しています。「11月10日金曜日、2人のオーケストラ指導者が私のところに来て、ベルリンの壁崩壊を記念するコンサートを指揮する気があるかと尋ねました。もちろん私はすぐに同意しました。そしてそれは忘れられない、ユニークなコンサートでした。その後、一人の女性が震える手で私に花を手渡し、若い男性が彼女の隣に立っていました。それは彼女の息子でした。赤ちゃんの頃、彼女の夫はベストを持って彼を連れて行きました。それ以来、彼女は子供に再び会うことはなかった。壁の崩壊により、彼らはついに一つになったのです。」

 

 こういう感動的な出来事があったのですが、今はこの録音の廃盤と共に歴史の中に埋もれています。我々の記憶の中ではこのソニーの録音よりも、当時の偉大な指揮者であったレナード・バーンスタインの東ドイツでの12月25日のクリスマスの日に行ったベートーヴェンの「第九」の演奏会でしょう。こちらも映像が残り、録音もDGGから発売され、いつしかこちらの方だけ歴史上のベルリンの壁崩壊のコンサートだと思われています。

 

 この歴史認識の齟齬はベルリンフィルとソニーが映像権をきっちり抑えているがためにYouTubeにアップされてもすぐ削除されてしまい、一般に認知されていないからでしょう。著作権の保護も大事ですが、こういう事実が歴史に埋もれないように時には著作権の放棄も必要なのではと感じざるを得ません。

 

 今ではベルリンフィルのデジタル・アーカイブでほんの一部ですがこの時の演奏を垣間見ることができます。それが下の映像です。バレンボイムの指揮するベートーヴェンの交響曲第7番の第4楽章の一部ですが、その熱演ぶりを感じ取ることができます。