カサドシュのラヴェルと
スタインバーグのボレロ
曲目/
Membran 233425-16
先に取り上げたルービンシュタインのブラームスと同じボックスセットに含まれるものです。今回はロペール・カサドシュのラヴェルの左手のためのピアノ協奏曲がメインのアルバムです。このボックスセット録音データが良い加減なのが玉に瑕です。
Ravel: Piano Concerto In D For The Left Hand (Lento - Andante - Allegro) 17:02
録音:1947/01/22 フィラデルフィア、アカデミー・オブ・ミュージック
Ravel: La Valse 11:26
Ravel: Bolero 15:30
ウィリアム・スタインバーグ/ピッツバーグ響といえば、1960年前後米COMMAND録音(スタインバーグのベートーヴェン交響曲全集のステレオ録音はこのコマンドにあります)の金属的サウンドの先入観がありますが、米キャピトルの録音では少々印象が変わりました。直截なるストレート系表現はそのままですが、アンサンブルの精度が高く、このオーケストラの実力を見直したものです。「春の祭典」(1954年)なんか、モノラルながら信じられぬほどの豪快かつ精緻な演奏だったと記憶しています。彼のRavel には「逝ける女王のためのパヴァーヌ」もあったはずだから、できればサービスして欲しかったところです。初期ステレオ録音だったと記憶します。が、ここではモノラル収録なのは、おそらくLP板起こしの都合でしょうかねぇ。
スタインバーグは独逸系の人だし、飾りと色気の少ない表現を旨としているから、お仏蘭西の音楽には似合わないかもね。ほんわか雰囲気ではなく、きっちり細部迄描き込んで正確生真面目な、やや面白味のない演奏と類推しておりました。「ラ・ヴァルス」はウィンナ・ワルツのパロディとしてのユーモアと優雅、”無遠慮なるぶちこわし”が同居する難曲。これが思わぬほど粋で、オーケストラの響きはやや金属的だけれど、精一杯歌ってけっこうセクシーだし、”無遠慮なるぶちこわし”には文句はない。もう少し、”揺れ”、”ため”、”間”があっても良いとは思うが、それなりの遊び心はちゃんとあって悪くありません。
ボレロも中庸のテンポ、オーケストラの各パートは正確な技巧とリズム感で、基本的にはさっぱりとした表現となります。木管にはちゃんと色気がある。世評は知らぬが、この時期のピッツバーグ交響楽団は上手いですね。いくぶんクールで、例えばミュンシュみたいな生理的モウレツなる興奮は期待できないか。それでもクライマックスに向け熱を帯びて、やや走り気味に乱れてまいりました~が、絶頂の盛り上がりには今一歩といったところでしょうか。
作曲者と親交のあったカサドシュだけに、そこに込められた豊かなニュアンスには強い説得力があり、美しい音色がとても魅力的です。音質はモノラルとしては最上の部類で鑑賞には支障ありません。必要かつ充分多彩な旋律と和声に充たされ、華やかユーモラスな世界が広がっております。カサドシュにはきらきらと暖かい気品があって、ふくよかで柔らかい音色、技巧はスムースだけれど、要らぬ鋭角なキレを強調していません。得も言われぬ色気が漂います。オーマンディの伴奏上手はこの時期(48歳)からはっきりしていて、ソロにぴたりと付けるアンサンブルの妙技+ゴージャスなる響きは文句なくお見事でした。
カサドシュは晩年このオーマンディ/フィラデルフィア管弦楽団とこの左手のためのピアノ協奏曲を1960/12/14/15に再録音しています。