ジョン・ルイス/ヨーロッパの窓 | geezenstacの森

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ジョン・ルイス

ヨーロッパの窓

 

A1   Midsömmer 9:40
A2   The Queen's Fancy 5:40
A3   Cortege 8:00
B1   Two Degrees East-Three Degrees West 6:25
B2   England's Carol 7:00
B3   Three Windows 7:00
ピアノ、指揮/ジョン・ルイス
ベース/パーシィ・ヒース
ドラムス/コニー・ケイ
バリトン・サックス/ロニー・ロス
フルート/ジェラルド・ウェイコプト
演奏/シュトットガルト交響楽団員
 
録音/1958/02/21-22 シュトットガルト
 
RCA Camden  RGP1093(M)(Victor LPM1742)
 

 

 ジョン・ルイスのファースト・ソロ・アルバムです。このレコードは1974年に発売さされた「ジャズ・スピリット1300」というシリーズで発売されたものの一枚です。本来はこちらの方が先に紹介した「ゴールデン・ストライカー」より先に入手していたものです。1958年の録音ですから、本来なら時代的にステレオで録音されていて良さそうなものですが、残念ながらこれはオリジナルからモノラル録音でした。編成はMJQマイナスワンというもので、ヴァイブのミルと・ジャクソンだけ参加していません。

 

 小生の購入記録では1974年12月23日に購入しています。この年は廉価盤プームがジャズ界にも普及して、丁度この頃マーキュリーからクリフォード・ブラウンのアルバムが大挙して発売されていますし、その前にはフォンタナからマックス・ローチやクインシー・ジョーンズ、オスカー・ピーターソンなどのアルバムも発売されていました。調べてみると、この年はクラシックやポップスのアルバムは別としてジャズのアルバムだけで、10月から3ヶ月間で34枚も購入しています。アルバイトをしていたとはいえ、収入のほとんどはレコードに費やしていたのが分ります。(^▽^;)

 

 前年の1957年にはMJQとして、「たそがれのヴェニス」を発表してMJQの新境地を披露したジョン・ルイスですが、その翌年の58年には、ミルト・ジャクソン抜きの3人でドイツに渡り、シュツットガルト交響楽団とともに録音されたのが、このジョン・ルイスのファースト・ソロ・アルバムです。MJQの進む方向を探るために新しい風を入れたかったのでは?と思わせる仕上がりです。彼にとってオーケストラは作曲の可能性を広げる膨大な音のパレットとなりました。MJQの個性を別枠で拡大したような新鮮なサウンドで、ストリングスを中心とした柔らかなオーケストラの上で各ソロイストたちがビックサウンドとは一味違うファンタジーな演奏を展開しています。

 

 

 レコードA面の冒頭を飾る「Midsummer」はガンサー・シェラーの編曲になる曲です。ジョン・ルイスが初めて収録曲「Midsummer」をレコーディングしたのは1955年で、The Modern Jazz Societyと呼ばれるグループとの共演でした。J.J.ジョンソンやスタン・ゲッツなどもメンバーに加わっていたグループですが、そのアレンジをベースにしたオーケストラ版といってもいいでしょう。ここでは、オーケムストラのメンバーからフルートのジェラルド・ウェイコプトとバリトン・サックスのロニー・ロスだけがクレジットされていますが、そういう楽器とMJQマイナスワンのソロが披露されています。ただし、ピアノ・ソロが入りません。曲が曲だけにメンデルスゾーンの「真夏の夜の夢」を彷彿とさせる幻想的な雰囲気を持っています。

 

イメージ 2

ジョン・ルイス

 

マトリックスNo. (RGP-1093Ⓜ-A)③

Matrix / Runout (Side B Label): (RGP-1093Ⓜ-B)③

Matrix / Runout (Both Labels): (ACM1-0794)

 

 オーケストラの編成をフルに活用した曲としては2曲目の「クィーンズ・ファンシィ」がにぎやかでいいのでしょうが、個人的にはA面では3曲目の「コテージ」が好きです。物悲しい旋律で始まりますが、それに乗ったフルートの哀愁を帯びた響きが何ともいえません。一転してドラムスが加わりここでも、フルートがリードしてソロを吹いていきます。転調した中盤以降は今度はバリトン・サックスがソロを引き継ぎます。このA面は2月の20日に収録されています。

 

 大学時代にこのアルバムを入手した時は、どちらかというとB面ばかり聴いていました。こちらは2月21日の収録です。こちらの面にはジョン・ルイスのピアノソロも加わります。そういうサウンドの変化が楽しめるアルバムになっています。冒頭の「2度東、3度西」は主題もミステリアスですが、それに乗って登場するジョン・ルイスのピアノも朴訥としていて、オーケストラの響きには不協和音も取り込まれていて推理小説のBGMにはぴったりの音楽に仕上がっています。このアルバム、制作年が「大運河」の翌年であるにもかかわらずモノラルでしか収録されていません。まあ、こういうこともあってか、あまり話題には上らなかったようです。

 

 さて、B面でも一番のお気に入りは2曲目の「イングランド・キャロル」です。このアルバムの中でも白眉といってもいい曲です。ストリングスの奏でるメロディはいかにも中世ヨーロッパを連想させる響きがあり、これもまたミステリアスな雰囲気を持っています。そこにサックスがハードボイルドタッチで颯爽と割り込んできます。まるでシャーロックホームズの登場を感じさせます。トライアングルの音色は教会の鐘を連想させますし、オーボエの響き、チェロのトレモロの響きなどすこぶるミステリアスな雰囲気を持っています。この曲は原曲が賛美歌の第2編128版「世の人を忘れるな」です。それを上手くアレンジして使っています。そして、この曲に違和感のない形で最後に「たそがれのヴェニス」のために書いた「3つの窓」を持って来ています。誠に上手いアルバム構成です。国内盤はCDでは未発売です。輸入盤は先の「The Modern Jazz Society」と録音した音源も含んだ2in1として発売されています。