テンシュテットの「ロマンティック」 | geezenstacの森

geezenstacの森

音楽に映画たまに美術、そして読書三昧のブログです

テンシュテットの「ロマンティック」

 

 

曲目

ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」 (ハース版)

1. Bewegt, nicht zu schnell    20:42

2. Andante quasi allegretto    17:08

3. Scherzo (Bewegt) - Trio (Nicht zu schnell, keinesfalls schleppend)    10:16

4. Finale. Bewegt, doch nicht zu schnell    22:22

 

指揮/クラウス・テンシュテット

演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団

 

録音/1981/12/3,15,16 フィルハーモニー・ザール

P:ジョン・ウィラン

E:ジョン・カーランダー

 

EMI 0844382-5

 

 

 クラウス・テンシュテットは東独の指揮者(1926年メルセベルク生まれ)だったので、早くから頭角はあらわしつつも、冷戦下「西側」へのデビューが遅れました。しかし、豊穣なボリューム感をもった音楽性には独自の良さがあります。80年代にめきめきと頭角を現してきました。マーラーに比べてブルックナーはそれほど録音を残していませんが、この「ロマンティック」はけだし名演と思います。ただ、世間的にはこの演奏は思ったほど認知されていません。先にも書きましたがここでもベルリンフィルを相手に指揮をしています。あまり仲が良くなかったということ故の評価の低さなのでしょうか。例えば、2000年に発行されたレコ芸の「リーダーズ・チョイス」でもベルリンフィル物にはカラヤン(75)やムーティ(85)は登場していてもこのテンシュテットの演奏はベスト20位には入っていません。不思議なものです。下は演奏時間の比較です。

 

ブルックナー/交響曲第4番「ロマンティック」

第1楽章 

第2楽章

 第3楽章

 第4楽章

 合計

カラヤン/ベルリンPO 1975/04

0:18:14

0:14:27

0:10:43

0:20:28

63:52:00

テンシュテット/ベルリンPO 1981/12

0:20:42

0:17:08

0:10:16

0:22:22

70:28:00

ムーティ/ベルリンPO  1985/09

0:20:05

0:15:55

0:10:37

0:22:54

69:31:00

ヴァント/ベルリンPO  1998/01

0:19:09

0:15:58

0:11:14

0:21:50

68:11:00

ヨッフム/ドレスデンSO  1975/12

0:17:40

0:16:37

0:10:02

0:20:20

64:39:00

ワルター/コロムビアSO  1960/02

0:18:41

0:15:42

0:11:01

0:20:51

66:15:00

ベーム/ウィーンフィル 1973/11

0:20:14

0:15:28

0:14:02

0:21:03

70:47:00

 

 原始雲の響きの第1楽章は上の比較でもわかるようにベームより遅いテンポでゆっくりと慎重に主題を提示していきます。これは再現部などの主題提示でも同様です。全体のペースはそのままですが、はじめのクライマックス形成後は、若干テンポを動かし変化させています。こういううまさはさすがベルリンフィルの響きと言えます。ここでのEMIの録音はあまり低音部に重心を置かない響きで全体の色調は金管を十分に吹かせることにより明るさが伴っています。そういう意味では深みがやや不足しているともいえるでしょう。

 

 

 第2楽章は低弦を前面に重い出だしは第1楽章同様です。全体にテンポは一定で遅いままで、その足取りは暗き影が差し込むがごときです。緩徐楽章の魅力的なメロディは前述の“音量と色調の同期”によって奏でられ、独奏楽器はここのプレーヤーの力量が光ります。

 

 

 第3楽章は主題の呈示はキレが良く、ベルリン・フィルの金管陣の優秀さを聴くことができます。速めのテンポでぐいぐい進行します。メリハリが効いていてパンチがあり、とても気持ちが良いです。

展開部も表情を一変するというより、呈示部の延長のような音楽で、味が濃く、情熱的です。

再現部は、私はもう少し流れる演奏の方が好きですが、とにかくオーケストラのサウンドが圧倒的で、これはこれで素晴らしいと思います。

 

 

 終楽章も第1楽章を踏襲しながら、テンポ上昇、音量増加によって、ブルックナーの壮大なアーチを音響空間に出現させる。その後の静謐回帰のあとのフィナーレへの道程はテンシュテット流の大胆さが顕著。カラヤン/ベルリン・フィルの同番演奏ではありえないが、一部では金管楽器の思い切った咆哮や弦楽器のせり上がっていくような音も聴くことができる。

 

 

 当初は、フルトヴェングラー、クレンペラーに続く古式ゆかしい指揮者と思っていましたが、聴き込むうちになんとも素晴らしい音づくりは彼独自のものと感じるようになりました。音の流れ方が自然で、解釈に押しつけがましさや「けれんみ」が全くありません。その一方で時に、柔らかく、なんとも豊かな音の奔流が聴衆を大きく包み込みます。そのカタルシスには形容しがたい魅力があります。ブルックナーの第4番は、こうしたサウンド・イメージにぴったりですし、ベルリン・フィルとの相性も良いと思います。数多の名演のある第4番ですが、小生は最も好きな演奏の一つです。