レコード芸術 1969年11月号
今年のベートーヴェン生誕250年の記念イヤーは、全く盛り上がらないうちに終わってしまいそうですが、1970年の生誕200年の時は、レコード全盛時代ということもあり初めて大々的にベートーヴェン大全集が発売された時期でもあります。
この月の表紙はバックハウスが飾っていますが、彼はこの年の7月に亡くなっています。心臓発作を起こしたにもかかわらず、無理にコンサートを続けたことが心臓に負担をかけたようです。その最後の演奏会は、デッカによって録音され、『バックハウス:最後の演奏会』(Wilhelm Backhaus: Sein Letztes Konzert) としてのちにレコードが発売されました。なを、この「モーツァルトリサイタル」は追悼盤として発売されています。
さて、CBSを失った日本コロムビアはベートーヴェンとの関わりはこのヨーゼフ・クリップス/ロンドン交響楽団の交響曲全集でお茶を濁しています。まあ、6枚組6,000円という価格は当時では破格の交響曲全集でした。
デッカも似たようなもので、先に録音が終了していたバックハウス/イッセルシュテット/ウィーンフィルのピアノ協奏曲全集を前面に出し、それに続くイッセルシュテット/ウィーンフィルの交響曲全集、バックハウスのピアノソナタ全集、バリリ四重奏団の弦楽四重奏曲全集の4セットの発売だけでした。ただ、無茶苦茶な販促で、予約者にはまだ発売されていないベートーヴェン交響曲全集を抽選で100名にプレゼントすることを告知しています。さらに抽選に漏れても、バックハウスのカーネギーホールリサイタル(非売品)を漏れなくプレゼントするという大盤振る舞いです。
さて、大御所のグラモフェンは正統に、12巻全78枚のベートーヴェン大全集を投入しています。このベートーヴェンイヤーに合わせて、数々のプロジェクトを準備していた様が伺い知れます。第1回は11月15日の発売で、カラヤン/ベルリンフィルの第1回録音の交響曲全集、ピアノ協奏曲、ヴァイオリン協奏曲、そしてトリプルコンチェルトを要した協奏曲全集、そして、歌劇「フィデリオ」全曲を発売しています。価格は全12巻で118,000円と手頃に抑えられています。
対する老舗のEMIは87枚組全24巻のEMIグループの総力を挙げての全集をぶつけてきています。そのうち60枚はこの全集のために録音されたものという内容です。ただ、ピアノソナタ全集はイーヴ・ナットのモノラル録音が採用されているなどポリシーは一貫しません。しかもこの全集は17万4千円と破格の価格になっています。いゃあ強気でしたなぁ。で、発売はややフライイング気味にギレリス/セルのピアノ協奏曲全集が10月1日に発売されています。
対するアメリカ資本のRCAは全く我関せずと、豪華決定版「世界の名曲大全集」をぶち上げています。この企画RCAレーベル発売1周年記念ということですが、2枚組全20巻40枚のセットで60,000円というものでした。しかし、この全集は今まで中古盤でもお目にかかったことがありません。本当に売れたんでしょうかねぇ。
ビクターグループの今月の顔はジョルジュ・プレートルがえらばれていますが、もうカレンダーはついていません。
若きサヴァリッシュはもうこの時代メンデルスゾーンの「エリア」にチャレンジしていたんですなぁ。
11月号の目次です。
この年、メータがロスフィルとともに来日していて大変好評に迎えられていました。
そういう関連もあったのでしょうか世界の音楽ホールとしてアメリカを代表する「カーネギーホール、ロスのミュージック・パヴィリオン、ボストンの「シンフォニー・ホール」がグラビアで取り上げられています。
対する日本のホールとして、群馬の音楽センターが落成したのをう受けて取り上げられています。
さて、我が物顔をいくアメリカのCBSはこの号の広告のトップに「スィッチ・オン・バッハ」を持ってきています。確かにインパクトのあったアルバムで、小生はシンセサイザー・ミュージックに興味を持ちこのワルター・カーロス(ウィンディ・カーロス)や、パトリック・グリースン、もちろん冨田勲のものまで必死に集めたのを思い出します。
見開きでは1970年に初来日するセル/クリーヴランド管に合わせて、「セル/クリーヴランドの芸術」がまとめて発売されます。第2回発売の目玉はドヴォルザークの「新世界」と「モルダウ」のカップリングされたアルバムで、なんとサンプラーのLPがおまけに一枚ついているという大盤振る舞いのセットが発売されました。サンプラーといっても細切れではなく、ニュルンベルクのマイスタージンガー序曲とかヤナーチェクのシンフォニエッタから第1楽章とかバルトークの弦とチェレスタの協奏曲とか珍しい曲が聴けて狂喜したものです。これでセルという指揮者に興味を持ったのを覚えています。
こんなレコードの告知もありました。CDかはされたのでしょうか、1968年の大阪国際フェスティバルのライブでブラームスのヴァイオリンとチェロのための協奏曲とドヴォルザークのチェロ協奏曲が発売されています。秋山和義指揮日本フィルで、独奏ヴァイオリン海野義雄、チェロが堤剛という顔ぶれでした。
キングからはセブンシーズレーベル扱いで、「イェルク・デムスのシューマンピアノ曲大全集」が発売されています。地味なピアニストですが、いい仕事していますなぁ。
ヘンリー・ルイスとシルヴィオ・バルヴィーゾ
ルイ・フレモーとトマス・シッパース
この年、28歳のエッシェンバッハとプラハカルテットが来日しています。
国内録音が活発になり、グラモフォンは若杉弘と黒沼百合子と共演して石井浩のヴァイオリン協奏曲を録音しています。
この1969年は毎月ピンナップ写真が封入されていました。実はこの写真を見て、先日のギレリス/セルの「皇帝」を取り上げた次第です。