レコード芸術1967年11月号 | geezenstacの森

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レコード芸術1967年11月号
 
 
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 友人から「音楽のお歳暮」が送られてきました。音楽のといっても、お互いの趣味が似通っているので中々興味深いもののやり取りです。でて、今年の品々の中になんと「レコード芸術1967年11月号」が含まれていました。無茶苦茶懐かしい一冊です。当時中学一年生でしたが、中一コースと供にこのレコ芸を買っていました。多分同学年でこんな雑誌を買っていたのは一人だった気がします。この時代のレコ芸は話題のレコードのジャケットを表紙に使っていました。この表紙には記憶がありますが、中身はまったく記憶に残っていませんでした。それに付箋がついていました。

 

 この頃の月表は交響曲は村田武雄御大を筆頭に管弦楽曲は志鳥英八郎、協奏曲-佐川吉男、室内楽-大木正興、器楽曲-大宮真琴、声楽曲-畑中良輔、バッハ以前の音楽-皆川達夫などに加えて、普及盤として17センチLPのセクション、更にはポピュラーもジャズを筆頭にフォーク、シャンソン、ムードという分野を取り扱っていました。つまりは一般ポップス、ロックは扱っていなかったんですなぁ。しかし、巻末の新譜データにはこれらの新譜もきちんとリストアップされていました。多分、ジャズに興味を持ったのはこのポピューラーでの扱いで知っていったんでしょう。

 

 この頃は、新譜データはレーベル別になっていました。そんなことで、分類は、
グラモフォン、アルヒーフ
ロンドン、テレフンケン、セブンシーズ、ウェストミンスター
ビクター
コロムビアインターナショナル、CBSコロムビア、CBS日本録音
エンジェル
フィリップス、ビクターワールドグループ
デッカ

 

 という区分になっていました。この年はまだソニーは誕生していません。CBSソニーの誕生は1968年3月ですからその前夜という時期です。この11月号ではバーンスタインのマーラー交響曲第7番、オーマンディのベートーベン交響曲第3番、リリー・クラウスのモーツァルトピアノ協奏曲シリーズがCBSの原盤でまだ発売されています。なんでも注目は45回転の30センチLPがサウンド・ラボラトリーシリーズとして発売されているのです。付箋はその批評に付いていたのですが、本来の交響曲としての村田氏の評価は、

 

45回転で、ハイ・ファイのステレオ効果を狙った再録であるが、どうしたことかあまり音の状態が良くない。音の分離が鮮明でないし、響きに輝きが乏しい。この曲は、録音効果を生かすのに好都合であるだけに惜しい気がする。

 

 これに対して、録音時評というコーナーでは若林駿介氏が、同じレコードをとりあげて、

 

それほど新しい録音では無いが、45回転の新カッティングによって、素晴らしい効果を上げている。特にパイプオルガンの低音が迫力に富み、第1楽章後半は、壮大なオルガンの音に圧倒される。
 オーケストラの音は、シンバルの音が少し金属的な嫌いもあるが、音の切れも良いし、金管楽器もシャープに捉えられている。各楽器の定位、分離もともに良い。ピアノの扱いも適当であるし全体のバランスもごく自然である。

 

 同じレコードを扱ってまったく違う印象の批評になっているのです。村田氏は肝心の演奏に対する評価はまったく無く、録音に関する感想だけです。本来の批評になっていません。それに対して、オーディオ評論家の若林氏は、その視点で録音を評価し、評価点も90点と高水準です。同じ冊子の同じ月での批評ですが、これだけ評価が違うことに唖然です。この録音、確かにオーマンディの再録で、最初は1956年に録音しています。それと比較しての批評でしょうが、56年録音はモノラルということでは音の違いが歴然としているはずですが、そう感じ取れていないのは不思議です。本当にこのレコードを聴いての批評なのかと目を疑ってしまいます。

 

 この頃のレコ芸は現代音楽がありません。もう少し後でコーナーが出来るのですが、この号では「私の音楽サロン」というコラムが連載されていて、秋山邦晴氏が「友情ある敵意」という一文を寄せています。ここでは、レコード批評のあり方を、これでいいのかということを問いかけています。ここでは冒頭の1ページを紹介します。

 

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 レコード批評家は、レコ芸などに批評を書くだけでなく、ジャケットの解説も書くということで、いわばレコード会社の提灯持ちのような側面もあるということをしっかり指摘し、そういう所でこそ「友情ある敵意」でもって、その商品としてのレコードを自己の判断で評価すべきとしています。

 

 いまでこそ、レコ芸は1ジャンルに2つの批評を載せるということで、読者に選択権を提示する方法をとっていますが、それも、秋山氏はこの時点でそれを説いています。