高齢者施設に車椅子で来所されているKさん。
おっとりした、ふくよかな奥様です。
認知症が進んでいるので、不安になると、声を掛けてきます。
”あのね、私、帰りたいんだけど”
帰宅願望というのは、めずらしいことではありません。
本人の意思で来ている方ばかりじゃ、ないですからね。
帰りたい、とストレートに言うこともあれば、
”ちょっと、下に行くにはどこから行けばいいの?”
”ここは一階なので、下はないんですよ”
”あら、そうなの。玄関はどこ?私、帰ろうと思って”
別のときには、
”私、勉強しに来たのに、何も教えてくれないから、帰るわ”
”お友達が来ていないから、帰るわ”
Kさんは、帰りたいんです。
帰りたいのですが、どうすれば帰れるのかわからなくて、
不安になってしまうことも、よくあります。
”私、どうやって帰るのか、わからないんだけど”
”Kさんのお家まで、ちゃんとお送りするので、大丈夫ですよ”
”家って、どこの家に?”
”Kさんのお家ですよ。”
”でも、鍵がかかってるんだけど”
”鍵がかかってても、ちゃんとお家の方に開けてもらいますから、大丈夫”
”家には、誰もいないけど”
”ちゃんと、お家の方に連絡してありますから、大丈夫”
”あら、そう…”
”だけど私、予約もなんにもしてないんだけど”
”予約の必要はないんですよ。ちゃんと順番にお家にお送りしますから”
”そう…”
”何時ごろ帰るの?”
”これから、お昼を食べて、少しゆっくりしてからですね”
”お昼を食べるの?”
”はい、Kさんのお昼はご用意してありますので、召し上がって行ってくださいね”
”あら、すみません。ありがとうございます。お世話になります。”
こんなやりとりをしていて、Kさんの育ちの良さがわかります。
帰りの時間、車椅子に乗り換えて、送迎の呼び出しを待ちます。
”あのね、私、これ置いていきたいんだけど”
”これは、Kさんの車椅子ですから、このままお車でお家に帰りますよ”
”あら、そうなの”
Kさんの名前が呼ばれるまで、しばし待ちます。
”あの、ちょっと”
”はい、Kさん、何でしょう”
”静岡まで行けるかしら?”
今、住んでいるお家までです、Kさん。
暑い
暑くて来所人数も減るかと思ったが
全然減らない
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