Sさんは、よくしゃべる。

同席の来所者とも、常におしゃべりしているし、

職員が通りかかれば、ちょくちょく声をかけてきます。

 

それも、どう、元気?みたいなかんじではなくて、

テーブルでのおしゃべりの続きで、

”あれは〇〇〇〇だったよねえ?”

とか、こちらに振ってくる。

 

基本、人好き、お話し好きなのでしょう。

でもSさん、神経質なところもあり。

 

バイトを始めたばかりのころ、先輩から

”これはSさん専用の除菌スプレーだから、Sさんの席に置いて来てね”

と、「S様専用」と書かれたボトルを渡された。

 

各テーブルには、アクリル板の仕切りもあるし、小物を置くサイドテーブルには、

共用の除菌スプレーが数本、設置してあるのですけどね。

 

ある時、施設で将棋大会が開催されました。

月に一度くらいですが、ちょっとしたお楽しみに、イベントを開くのです。

トーナメント方式で対戦していって、優勝者にはささやかな賞品が出ます。

 

その日の優勝者には、小さな優勝カップと、綺麗に包装された小物が贈られました。

将棋をしないSさん、私に手招きして

”俺は前に、麻雀大会で優勝したけど、あんな優勝カップもらえなかったよ”

”百均のなんだかをもらっただけ”

 

”そうなんですか。でも、優勝したなんてすごいですね”

”だけど百均だよ?あんなカップなかったんだから”

 

”じゃあ、次の麻雀大会でがんばったら、今度は優勝カップもらえるかもしれないですよ”

”いいよもう、俺、来週からもう来ないんだから”

 

”え”

 

”ここ、面白くないから、もうやめるんだよ”

”そんな~”

 

それからもSさん、元気にご来所されています。

職員の間では、

”Sさん、もう来ないって言ってたのにね”

”あー、それ、いつも言ってるのよ”

 

先日もお帰りの際、Sさんが大きな声で言っているのが聞こえました。

”長い間、お世話になりました!”