バイト先に来所される方の中には、医師や大学の先生もいらっしゃる。
なぜわかるのかというと、職員の方がそう言っているからで、
ファイルに職業のことが書いてあるわけじゃありません。
ファイルを見て把握しておくべきバックグラウンドとは、
病歴とか、家族構成、現在の介護度とかそういうことなので。
それらは、日中過ごしていただく上で、こちらが特に注意すべき点だったり、
何かあった時の連絡関係に必要だったりしますからね。
なので職業や前職などは、ご家族があえて開示されている、ということです。
それによって何かが違うということは、ないのですが。
Kさんは、そのような職業に就いていらしたひとりです。
国家資格を持ち、先生と呼ばれていた方。
今はほとんどお話されないし、話しかけても、頷くくらい。
たまに、私たちが出しているお茶が”まずい”とか、
脳トレの問題が”くだらない”とか、文句を言うことはあるけれど。
そのKさん、目を離した隙に、まだ配られていない、保温庫に入れておいた食事を
勝手に出して食べていたり、
お風呂の準備が出来ていないのに、着脱室のソファにつくねんと座っていたりしたことがあります。
これらは、職員の見守りが甘かったということに尽きますから、
あとで全員、管理職からお目玉を食らいましたが。
事故になったら大変ですからね。
それにしても、常時数人の職員がフロアにいる中でのこと。
Kさんは、決して小柄な方ではないのに。
気配を消すのが上手(?)なんです。
またKさんは、お風呂が大好きなのですが、
沢山お薬を処方されているため、湯舟で居眠りをしてしまう。
あまり長湯をすると、のぼせてしまうので、お声掛けして上がってもらうようにしますが、
”Kさん、そろそろ上がりませんか”
”まだ出ない”
”もう上がりましょう”
“出ない”
”上がってください”
“嫌だ”
Kさんが入浴されると、いつもこの問答が繰り広げられます。
この対応に、結構な時間がかかるので、
Kさんの入浴は、だいたい一番最後に設定されているんです。
そんなKさんに、一度だけ話しかけられたことがあります。
話、ではないな、手をパーに開いて、
”ばあー”
って言ったんです。面白かったので笑ったら、もう一度
”ばあー”
ってしてくれました。
ほっこりしたエピソード。