小池百合子氏 日本会議“本流”から外れた愛国者 | 大和民族連合

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 タカ派的な発言は、駆け引きを有利に進める「カード」なのか。警察組織も掌握することになる小池氏の言動には一層注目が集まる。ジャーナリストの青木理氏に寄稿してもらった。

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 私の手元に、特殊な議員名簿がある。大半は衆参両院の自民党議員で占められ、記載数は合計281人。上部には「部外秘」と注意書きも記されている。昨年9月時点で作成された「日本会議国会議員懇談会」の加入議員リストである。

“日本最大の草の根右派組織”などと称される日本会議は、その主張を現実政治に反映させるため、一種の議員連盟である同懇談会を擁している。そういう点で日本会議は単なる市民団体でなく、政治ロビー団体ともいえるのだが、近年は同懇談会の加入議員を一切公表していない。ただ、50音順に並んだ名簿を繰ると、71番目に小池百合子氏の名は確かに刻まれている。

 ならば小池氏は、極度に復古的な日本会議の主張や政策に共鳴し、先頭に立ってその実現を目指しているはずなのだが、ことはそう単純でもない。加入議員の中には自民党でもハト派に分類される議員の名も数多く見受けられるからである。前幹事長の谷垣禎一、現外相の岸田文雄、元郵政相の野田聖子の各氏などは代表格であろう。

 これについて、筋金入りの右派として日本会議の活動にも関わる東京都議の古賀俊昭氏は、拙著『日本会議の正体』の取材時にこう指摘している。

「(日本会議の目標である)自主憲法制定は自民党の党是ですし、決して積極的な参加ではなくても、お賽銭を入れるような感じでおつきあいしておこうという人が多い」


 ましてや“安倍一強”と評される政治状況下、首相に近いとささやかれる組織に媚(こび)を売っておこうと付和雷同的に名を連ねている者もいるに違いない。

 

●日本会議との親和性

 では、小池氏はどうか。かつて同懇談会で副会長や副幹事長職の一人に名を連ねたことがある。また、過去の言動などを見ると、日本会議の主張との親和性の高さが目につく。中でも注目すべきは、日本会議が現在最も力を入れて運動に取り組む改憲問題であろう。

 たとえば小池氏は2000年11月、衆院憲法調査会で次のように述べている。当時の東京都知事・石原慎太郎氏が参考人として招かれ、現行憲法は破棄せよという持論をとうとうと開陳したのを受けた発言である。

「いろいろと御示唆いただきました。結論から申し上げれば、いったん、現行の憲法を停止する、廃止する、その上で新しいものをつくっていく、私はその方が、今のものをどのようにどの部分を変えるというような議論では、本来もう間に合わないのではないかというふうに思っておりますので、基本的に賛同するところでございます」(小池百合子 談)

 かなり明確な「現行憲法破棄論」であり、日本会議に集う一部の右派人士がいまなお唱える「明治憲法復元論」にすらつながるものともいえる。


●「お試し改憲」を提案

 しかし、小池氏にそれほど確固たる憲法観があるわけでもないらしい。11年に出版された『渡部昇一、「女子会」に挑む!』(ワック)なる本では、ゴリゴリの右派として知られる上智大学名誉教授・渡部昇一氏の憲法批判を受け、以前とは違う趣旨のことを口にしている。

「憲法論議をすると、すぐに『右翼』などとレッテルを張られます(略)。そこで、私は前回の参院選の時に挑戦してみたのです。自民党の広報担当だったので、ビラに『憲法83条を変えましょう』と掲載しました。83条は『国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない』とされていますが、そのあとに第2項として『財政の健全性は保たれなければならない』という一文を書き加えようというものです」

 

「9条を前面に出すとこの国はすぐ思考停止に陥り、右だ左だと言い合うばかりで何も進まない。(略)まずは誰が聞いても『いい』と言えるような憲法から改正して、『憲法は改正できるものだ』という意識を共有するところからはじめたほうが、結果的には早く憲法改正できるのではないかと思うんです」

 まさに“お試し改憲”であり、一時の安倍政権の振る舞いを彷彿させる。実際に小池氏は、15年2月の衆院予算委員会で、安倍首相にこんな質問も投げかけている。

●在特会系団体で講演

「私は以前から、八十三条、財政の条項からまずやってみたらどうかと(言ってきた)。一度も憲法改正に国民は投票したことも(ない)。いきなり全部のメニューを最初からというよりも、ひとつそのような形で進めるべきではないだろうか」(丸カッコ内は引用者の補充)

 これ以外にも、日本会議の幹部を前に日本の「核武装」を容認するかのような主張をした過去もある。保守系オピニオン誌「Voice」(PHP研究所)の03年3月号で、杏林大学教授(当時)の田久保忠衛氏らと鼎談した際、現在は日本会議の会長を務める田久保氏らにこう訴えた。

「軍事上、外交上の判断において、核武装の選択肢は十分ありうるのですが、それを明言した国会議員は、西村真悟氏だけです。わずかでも核武装のニュアンスが漂うような発言をしただけで、安倍晋三官房副長官も言論封殺に遭ってしまった。(略)現実的議論ができるような国会にしないといけません」(小池百合子 談)

 現行憲法破棄、“お試し改憲”積極論、そして核武装容認──。こうしてみると、小池氏の日本会議的なタカ派ぶりは際立つ。10年12月には「在特会(在日特権を許さない市民の会)」系の団体で講演し、問題視されたこともある。

 だが、少し前に日本会議を集中取材した私には若干の違和感も残る。日本会議の創設に関わった者を含め、かなりの数の関係者を訪ね歩く中、彼ら、彼女らの口から小池氏の名を聞いたことが一度もないからである。

 

●「機を見るに敏」な主張

 逆にしばしば話題にのぼったのは、安倍首相は別格として、たとえば次のような政治家の面々だった。平沼赳夫氏、中山恭子氏、稲田朋美氏、山谷えり子氏、有村治子氏、衛藤晟一氏……。平沼氏は同懇談会の会長を長く務め、中山氏は古くから復古派の筆頭格。稲田氏は安倍首相に続く“期待の星”ととらえられ、山谷氏や有村氏は日本会議を支える神社本庁が選挙を支援している。衛藤氏はもともと新興宗教団体・生長の家の活動家であり、日本会議の中枢を担う生長の家の元活動家らと深い関係を持つ。いわば日本会議直系の政治家である。

 こうした面々に比べれば、日本会議における小池氏の存在感はさほど大きくない。小池氏自身、都知事選後の会見で日本会議について「日本の国益、伝統、歴史は大切にするという点では賛成している」としつつ、「ここ数年は距離を置いている」とも述べている。

 おそらくはそのとおりなのだろう。つまり「賽銭を入れるような感じ」では決してないが、どっぷりと日本会議に漬かり、期待を寄せられているわけでもない。

 だが、都知事としてこれだけ注目される存在になった後、再び変化するのか。右に舵を切った方が得策だと判断すれば、利にさとい小池氏は切る可能性もある。(ジャーナリスト・青木理)

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