パール・バックの「大地」というお話、読んだことありますか?
世界の名作シリーズに入っているくらいなので今更わたしが言うのもおこがましいですが。
小学校6年の時に読んだと思います。誰かの感想文を読んで自分も読みたくなって図書室で借りたんです。
たぶん、アヘン戦争前の中国。貧しい小作人王龍(ワンルン)の波乱の生涯を描いています。
この「大地」、3部作なんですね。わたし、第一部しか読んでなくて。えらそうに紹介するのもお恥ずかしいですが。
忘れられない女(ひと)阿蘭(オーラン)の事が喋りたくて。笑。
阿蘭は美しくないです。まぁ、言ったらなんですが、かなりのぶす造りかと思います。だけど、それはそれでメリットがあります。金持ちのクソぼんの眼にとまらぬから処女でいられます。清い身体の女召使です。
王龍が嫁取りの年頃になり王龍の父親が大金持ちの黄家へ行って「一番醜い女をください」と阿蘭をもらい受けてきます。
美しい嫁を取ることを密かに憧れていた王龍は不満です。
父親に「醜い女だなんて・・。」と不平を言いますが父親に一喝されます。
「ばっきゃろー。美しい召使なんて黄家のお坊ちゃま方にとっくに手をつけられておるわ!醜い女なら間違いねーんだわ!」
小学生のわたしに手をつけられるのホントの意味がわかっていたかどうかは覚えておりませんが。とりあえず、なにがしかの理解はできていたと思います。
阿蘭は何故王龍親子に自分が選ばれたのかよくわかっていました。
けれど、王龍親子には阿蘭の類まれな本質は気づいていなかったんですねぇ。
王龍はほんとにめっけもんの嫁を貰ったのです。最後まで気づいたかどうか。
阿蘭は王龍父親と王龍に献身的に仕えます。食うや食わずの時乞食に身をやつして一家の糊口をしのぎます。寡黙で控えめですがいざというときは大胆で知恵が働きます。混乱の際に落ちぶれた黄家から金銀宝玉をどさくさに紛れて持って行こう!と王龍に勧めたのは阿蘭のほうでした。
王龍はそれをもとでに土地を買い、どんどん耕して金を貯め、また土地を買いどんどん金を貯め、また土地を買い。いつの間にかかつての黄家のような大金持ちになっていきました。
大金持ちの奥様と呼ばれるようになっても阿蘭は地味で控えめなまま変わりません。王龍が商売女に入れ込んで廓通いを始めても家で黙って息子3人と娘を育てています。貧しい時に生まれた娘は乳児の時に栄養が足りず障害が残ってしまい、その子を特に大事に慈しんでいました。
夜寝るときに良家の娘は纏足(てんそく)にするためにぎゅーぎゅーに縛ります。誰かにお世話させる身分であるという象徴の纏足は金持ちかつ美人の第一条件だからです。
阿蘭は愛しい娘の足を縛ります。
「痛いよ」と娘は泣きますが阿蘭は娘をなだめます。
「お父さんは纏足した女の子が好きなんだよ。」
そう言いながら自分の不格好な大きな足を見つめます。阿蘭の足が纏足であるはずはありません。もとは牛馬のように働かねばならない召使だったのですから。
王龍に女として愛されたことが無いと阿蘭は思っていたのではないでしょうか。
金持ちになるやいなや美しい女を買いにいく王龍を阿蘭は憎く思わなかったのでしょうか。
美しくなく纏足もしていない自分だから仕方ないと諦めていたのでしょうか。
阿蘭の容姿は醜いという設定ですが。わたしには紫水晶のような女性が浮かびます。
大地 第一部の真の主役は阿蘭じゃないかとわたしには思えます。
いや、大地とは阿蘭その人のことだったと思うのです。