1/10 AM 5:00 ごろ
電話で目が覚める。
体感1コールしないくらいで出た(多分)

破水したかも
という内容の電話だった、1時間くらいで出ると伝えて電話を切る。

少しぼーっとした頭で、モゾモゾと起きて
支度をする。

シャワーを浴びて、髪を乾かしながら、持ち物とかを考える。
写真撮るかも。
と思って、ミラーレス1眼にフィルムカメラをカバンに詰めた。
(もちろん分娩室には持ち込めずに、立派な重りとなった。)

家を出る際、
猫たちに「もう少しで生まれるよ」と伝えておいた。
報連相である。
キョトンとしていた。かわいい。アホだ。

(イメージ)


7時過ぎ、自転車を漕いで駐車場に向かう。
朝日が綺麗だった。久しぶりの早起き。

8時半ごろ、産婦人科に到着。
どうすればいいかよくわからなくて、とりあえず受付するかと思い
フロントで体調をかいた紙を渡し、体温を測ってもらう。
そしたら、「こちらからのお呼び出しは、まだですかね?」
と聞かれ、お呼びしたらいらしてくださいねとのこと。
紙を返却いただき退散。よく分かってなくてゴメンナサイ。

この時の僕は、誕生日は 1/11がいいと思ってたけど、1/10になっちゃったな
とか思ってた。
この時には知る由もないけど、これはものすごい油断である。

割とすぐ呼ばれるだろ、
とタカを括って、産婦人科の駐車場で待つ。

11時、妻がトイレに出るときに、連絡が来る。
少し電話して、切った瞬間に陣痛が来たっぽい。
助産師さんに早くなるかもね、と伝えられたみたい。

その後、何をするでもなく、ぼーっと待つ。
時々、持ってきたドローンのシュミレーターを練習したり、
ちょっとだけ車を適当に走らせてみたり。

余談だが、友達に、
破水きてこれから病院向かう
と伝えると
「無事に生まれますように!」とか「2人とも頑張ってね!」とか「サポート頑張ってね!」とかメッセージを送ってくれた。
すごく嬉しかったが、同時に複雑だった。
なぜなら、僕は病院に入れてもらえないのだ。
妻が苦しんでいても、隣でサポートできない。
ただただ待つことしかできない、マヌケな存在である。
でも、メッセージを送ってくれた友達に「俺は待つだけなんだよね」とか送ってもしょうがないので
とりあえず「ありがとう!頑張る」と返した。
本当に頑張っているのは妻なのに。ゴメンネ

2回目の連絡は、12時過ぎ。
陣痛が来たらきつい、とか、隣の外国人の妊婦さんがすごい叫んでる、とか
たわいもないやりとりをして、また戻っていった。
ちなみに、妻とLINEで連絡を取れたのはこれが最後。

この時僕は松屋の駐車場でぼーっとしていた。
陣痛と戦っている妻と、何をできるでもなく車の中で席を倒して、ただただ時間を潰す夫。
なんてマヌケな対比なんだろうと思った、ギャップがありすぎる。

15時半ごろ
待てど暮らせど連絡がこない。
流石に車で待つのに疲れてきて、車に積んであった折りたたみ自転車で気分転換に走ってみる。
この時、妻のお母さんから、うちで待ってもいいのよ、と連絡があった。
妻からも実家で待ってて、と言われていたが
自分は待つ時
かなりみっともない姿になるため、なんとなく車で待っていた。

疲れてきていたので、日が暮れたらお邪魔させてくださいとつたえた。
またまた余談だけど、何時に行きますって伝えるのが苦手。
時間に追われるのが嫌いだから、このくらいアバウトに伝えられるのがありがたい。
時間感覚、江戸時代かな?

このタイミングから、自分の心境を自撮りで動画に撮っておいた。
ちなみにこれは待つことしかできない状況に置かれたパパさんにかなりおすすめ、生まれた後に妻に見せたら喜んでくれました。
その時々の状況がわかっていいみたい。
(家出るタイミングから撮ればよかったな)

自転車を少し走らせたら、ブランコのある公園にたどり着いたので、ちょっとだけ揺られてみる。

全然集中できない。
すぐやめた。

また自転車を走らせたら、BOOKOFFがあったので入ってみる。
ぷらぷら歩いてみると、好きな小説『ツナグ』があったのでなんとなく購入。
気を紛らわせたいし読もうかな、と思った(結局読まなかった。)

その後車に戻って、お腹が空いたのでうどん屋さんを探した。
5分くらいのところにあったので、うどんを食べたら妻の実家で休ませてもらおうと思い車を走らせる。
今更ながら、YouTubeで出産の様子とかを調べた。
絶叫。阿鼻叫喚。怖い。
妻もこんな感じで叫ぶのかな。とか考えた。
今更すぎる。

うどん屋さんまで後1分といったところまできたところで産婦人科からの電話。
心臓が跳ねた。
路肩に車を停めて、電話に出る。

助産師さんが、20時くらいになりそうだから、心構えしておいてね
と伝えてくれた。
やっと目処がついたのが嬉しい。

とか思っていたら、
「奥さんに代わるね。

え!?今!???
この電話で話せるの???

「はい!」と返事した。

電話のむこうでは、想像もしていなかった壮絶な世界があった。
荒い呼吸の妻。時折、声が漏れている。

辛そうである。

昼過ぎに電話で話した時とあまりにも雰囲気が違いすぎて、頭が真っ白になった。

どう声をかければいいいの????
「頑張って」「痛いよね」「あ、もう頑張ってるよね、、」
とか
なんか質問もしたけど、よく覚えてない。
電話結構長いけど、負担じゃないかな、とかも思った。
テンパってる中、自分がなんの助けにもなってないことだけは、わかった。

必死に考えて考えた。
そして閃いた。
(お母さんだ!!お母さんの声を聴かせよう!)

「5分くらいで実家着くから、急いで帰るね。ちょっと待っててね
と伝え、車を走らせる。
その間もとっても辛そうな声が聞こえてくる。

テンパってた。

途中、
私の部屋に手紙があるから読んで
と伝えてくれた。

実家に着いて、お母さんに声を聞かせる。
そんなに痛かったかな、、って言ってた。辛そうだねとも。
しばらく妻に2人で声をかけていたけれど、途中でお母さんと話し込んでしまった。
そのタイミングで、妻から「切るね」との声。
頑張ってと伝えて電話が切れた。
こっちで話しちゃって申し訳ないなと思った。

電話が切れた瞬間、さっきまで見てたYouTubeの出産の絶叫が携帯から流れた。
ちょっと気まずかった。変な動画とか見てないですよ。
「これ、⚪︎⚪︎(妻の名前)じゃないよね?」
「はい。」
「あ、だよね(笑)」
って聞かれた。

その後お母さんも、妻の声を聞いて心配になってきたみたい。

僕は1Fに降りて妻の部屋に入って荷物を置いた。
妻が書いてくれた手紙を見つけて、ゆっくりと読んだ。(ドナルドダックのかわいい便箋だった。笑)
想像以上に分厚い手紙だった。
妊娠がわかってからの暮らし、僕への気持ち、感謝だったり、、、
すごく読みごたえのある手紙だった。
いろんな感情が伝わってきたし、こんなに色んなことを考えて感じてくれていたんだと思った。
ちょっと泣いた。
そして素敵な人と出会えてよかったなと思った。
そしてその大切な人が、僕との間に宿った命のために戦っているという事実に、込み上げてくるものを感じた。

お返事を書こうと思った。
生まれた後に読んでくれたらいいなと思って。

便箋を買いに行って、さっき行こうとしてたうどん屋さんに寄る。
手紙を書くのは久しぶりで、何から書いていいかわからず、
とりあえず下書き。つらつらと箇条書き。

うどんが到着した。ちょっと味が濃かった。でもえびがぷりぷりで美味しかった。

食べ終わって、妻の実家に帰宅。
17時ごろから、ずっと手紙を書いていた。
僕は字を書くのが苦手で、すごく、しょっちゅう間違える。
間違えた紙を重ねつつ、ずっと文字を書いた。
間違えた紙は21枚だった。(30枚くらいは間違えたと思った。)

もっと書きたいことがあったような気がするけど、
ひとまずまとまった。
書き終わった頃には20時近くになっていた。
そろそろ呼ばれる、という焦りもあって、字が雑になってしまった。
もっと事前に書いとけばよかった。

よし、間に合った。
後は呼ばれるのを待つだけだ。

20時40分
おかしい。

16時ごろに助産師さんから聞いた話では、
「20時ごろに生まれそうだから19時にはお呼びすると思います」
とのことだった。

心配が限界に達して、迷惑かなと思いつつ産婦人科へ電話する。
恐る恐る、どういう状況ですか、、?
と聞いてみる。
子宮口が4cmくらいしか開いていなくて、まだ目処が立っていないとのことだった。

そうなんですか、、
お忙しい中、電話してしまってすみません
と伝えて電話を切る。

とても忙しいと思うのだけれど、丁寧に説明してくれた。
でも、さっきは時間の目処を伝えてくれていたのに、目処がつかないという状況になっていた。
落ち着かない。

21時21分
産院から電話。とうとう生まれるのか、と思ったら違った。
妻が和痛分娩を希望している。
和痛分娩には麻酔を使用するが、承諾書に本人とパートナーのサインが必要なので、病院まで来て欲しいとの旨だった。
わけもわからず、とりあえず急いで向かう。
産院について、インターホンを押す。
すぐにバインダーを持った助産師さんが出てきて、ここにサインしてくださいと伝えられた。

ところで、契約書とかの書類って内容をちゃんと読んでからサインする必要があるじゃないですか。

だから、紙に書いてある内容を読もうとしたんだけど、もう全く頭に入ってきません。完全に脳みそがパニック。
30秒か1分くらい、書面と睨めっこしたけど、全くわからず、助産師さんに聞いた。
「これって、要約すると、、どういう内容ですか?」

すると助産師さんは丁寧に説明してくれた。
 ・長い陣痛で妻が消耗していること。
 ・陣痛で力んでしまって子宮口が一向に開かないこと。
 ・痛みが和らげば、一度休めるかもしれないこと。
 ・ただ、麻酔なので、何があるかわからないこと。
理屈はわかった。メリットも分かった。
でも4つ目が震えるほど怖かった。
もちろんそんなリスクの高いことを提案されているわけではないことは分かっている、けど万が一の時のための説明のなんだと。

そういえば、猫の避妊去勢の全身麻酔の時も同じ説明されたな。

ペンが動かなかった。
すでに妻本人の署名がそこに書いてあるというのに。
今辛い思いをしているから、一刻も早く署名して、助産師さんに向かってもらうのがベストなのは分かっているけど
それでも少し考えてしまった。
まあでも、拒否なんて選択肢はあるわけもなく、署名した。

助産師さんに丁寧に説明してくださったことへのお礼と、よろしくお願いしますと伝えた。

妻の実家に帰って、世のお母さんたちの平均出産時間を調べた。
長くても平均10−12時間と出てきて、さらに不安になる。
漠然と、お産が長引くのは母子ともにダメージが大きくなるというのはなんとなく知っていた。
もうすでに破水から15時間以上経っている。
だんだんと嫌な想像をしてしまう。
途端に怖くなった。泣きそうになった。

友達に伝えたら、一人が電話をかけてきてくれた。
ただ、お互いほぼ知識がないので不安はあんまり変わらなかった。
でも、僕が不安そうにしているのを察してかけてきてくれたのは嬉しかったし、さすがだなと思った。

もう一人、看護師を目指している友達に電話をかけた。
5時に破水したことを伝えていたので、まだ産まれてないことを伝えると、びっくりしていた。
この反応だけでもちょっとホッとした。出産を知っている人と話ができる。
でも、和痛分娩について聞いたら知らなかった。
教科書にも書いてないんだとか。最近の方法なんだな、と思った。

その後、電話を切っても落ち着かないので
スーパー銭湯に行った。
妻の実家のお風呂を借りるのは忍びないのと、ちょっと落ち着けなさそうだったから。
なんでも気にせず使ってね、と言ってくれているのに、申し訳ない気持ちでいっぱいです。

銭湯に到着、マナー違反だけど、ごめんなさいと
タオルに携帯を包んで
体を洗い、お風呂に浸かり、サウナに入る。
1分おきに携帯を見るけど、鳴ってない。
ゆっくりできるわけもなく、早々に上がる。

23時27分
麻酔をしてからなんの連絡もない。
不安で不安で、また、迷惑かなと思いつつ、スーパー銭湯のロビーから産院に電話をかけてしまった。
今どんな感じですか?と聞くと
麻酔が効いて、ちょっと休めています
とのことだった。
休めているというのは、寝れているということですか?と聞くと
そうです。
とのことで、ちょっと安心した。
と同時に、(これは長期戦になるぞ、朝の5時くらいかな)と思った。

コンビニに寄って帰ろうと思った。
コンビニの駐車場で、出産時間について調べまくっていると、36時間とか、3日間とかかかっても元気に赤ちゃんが産まれたという体験談も見つけて
少し安心した。
赤ちゃんの生命力ってすごいんだなと。

23時50分ごろ
妻の実家に帰宅。温存するために寝るか
と思っていると
23時58分に電話が鳴った。
もうすぐ産まれそうだから、産院の駐車場でいつでも来れるように待機しててください。と。


あ、誕生日が1/11のゾロ目になる

と思った。




明日に続く、、、