『ヴィルヘルム・フルトヴェングラー指揮ウィーン・フィル他（１９４８-５４年録音/ＥＭＩ盤）　歴史上最高のベートーヴェン指揮者は疑いなくフルトヴェングラーですが、この全集は個々の録音を集めたもので、全てモノラル録音です。２番、８番の音質が劣悪で、７番、９番（有名なバイロイト）も良くはありません。しかし、それでも全集を語るときに決して外すわけには行きません。この全集を聴いたうえで、他のフルトヴェングラーの録音や様々な指揮者の演奏を聴いて頂きたいからです。晩年の演奏はテンポが遅くなり力強さに欠けるという指摘も有りますが、その代わりに音楽の深さは神々しいほどの境地に達しています』

僕はフルトヴェングラーのCDは1枚も持っていないが、かつて中学生のときにレコード店〈確か『北斗電気』〉でベートーヴェンの第7交響曲を見つけて、そのライナーノーツを読んだ衝撃〈ステレオ＝タイプな表現ごめんなさい。〉は計り知れなかった。

書いたのはあの宇野功芳さんで、レコードが手元にないのでライナーノーツの再現はできないが、家に帰りトランジスタのプリ・アンプと真空管5本のメイン・アンプで早速ベト7を聴くと、それは興奮と陶酔の世界であった。

そのカラクリは現在では、『アゴーギク』と『ディナーミク』であると解明されているが、当時の僕にはそのようなことは分からなかった。

しかしながら、その頃の日本人は今よりもまだまだ、

「表題付きの音楽」

が大好きであったし、変なタイトルの曲も多かった。

ヴィルヘルム・フルトヴェングラーはヨーロッパでは大指揮者の評価でも、日本人にはまだ出回っているレコードの種類も少なく価格も高く21世紀のこんにちほど評価も高くなくまた著名でもなかった。競馬場？とレコード店に行くのを生業としていた僕も他にはバイロイトの第九を聴くのが精一杯であった。〈しかしその後フルトヴェングラーに縁遠くなったのは言い訳の余地がない〉。

吉田秀和さんは言っている。〈柄谷行人風〉フルトヴェングラーのベートーヴェンは、『みんなすばらしいが、それらをきいていて、そこで圧倒されるような想いがするのは、演奏の不思議な生々しさである』。僕は『レコード芸術』誌に出てくるような評論家を知らないが、それでも僕がフルトヴェングラーの指揮から感じたのは、

『その演奏のリアルさ』

ではなかったのか？

ベートーヴェン交響曲第7番を『のだめカンタービレ』で知ったひとは最早少ないかと思うが、あの演奏でも我々は曲に興奮したのである。もちろん、かのカルロス・クライバーの指揮も魔術であり、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの指揮も魔術である。リヒャルト・ワーグナーが『舞踏の聖化』と呼んだこの『泣き・笑い・踊る』交響曲を僕は高校時代『吹奏楽局の三人衆』に、

『フルトヴェングラーの◯◯は凄い。』

と述べると彼等は、

「音が悪くて廃盤になった。」

と言い僕が、

「廃盤だけど名盤だよ。」

と言っても、ストラヴィンスキーの

「春の祭典」

の話ばかりして、僕の話には全然乗って来なかったのが想い出として残っている。〈以上・蛇足〉

今は、ワレリー・ゲルギエフ指揮・ロンドン交響楽団の、

『チャイコフスキー交響曲第3番ポーランド』

を聴いているが、

「春の祭典」

は意識してはほとんど聴かない。それならば僕は、キング・クリムゾンやピンク・フロイドを取り上げたい。

p.s 「吹奏楽局」と付いたハッシュタグを6件見つけたが、すべて北海道の学校の話であった。「吹奏楽局」が北海道ローカルとすると、これは何か恥ずかしい話か？

ヴィルヘルム・フルトヴェングラー〈1886〜1954〉