こんばんは。
33回目、好きな本シリーズ「好きな一冊」第五弾!

しばらく、音楽、映画のご案内が続きましたので、久々に本のご紹介です。
このタイミングでなぜこの作家の、この作品なのか?と、自分でもよくわかりませんが、とりあえず、理屈抜きで好きな作品なのです。
太宰です。
太宰治です。


『パンドラの匣』であります。

新潮文庫の表紙も僕が読んでいた頃とは大きく変わってしまいました。
新潮文庫の太宰といえば僕ら世代には



こっちの方が馴染み深くありませんか?
僕が太宰を読み始めたのは、結構遅かったです。
確か、19か20歳頃……大学の2年生の頃だったと思います。
学校の近くのアパートに下宿していた友達(彼は実家が千葉の九十九里海岸の方だったので、通うのが大変だったため、大学の近くで一人暮らしをしていました)の部屋に遊びに行ったときに、本棚に『人間失格』が並んでいまして、僕はその超有名な昭和の大ロング・セラー小説を読んだことがなかったものですから、「これ、借りていい?」と、手に取ったのでした。確か、その小説の隣に並んでいたのは住井すゑの『橋のない川』だったと思います(この小説も後日借りて読んだ記憶があります)。
とりあえず、『人間失格』を読んだ僕は、よくあるパターンの“太宰マジック”にハマってしまったのでした。
一発で“太宰病”に罹患してしまったのです。

小学生の頃に、おそらく道徳か国語の教科書で『走れメロス』は読んだことがあったと思うのですが、『人間失格』の衝撃はとても大きく、それからしばらくはレコードを買う費用を太宰の小説に回していました。
いまでは文庫本も普通に700〜800円、少しページ数が多くなると1000円とかするけれど、当時は文庫と言えば300〜500円程度だったから、レコード(CD)1枚、2500〜2800円からすれば、安いモンでしたからね。
ひたすら新潮文庫で買い揃えていましたね。
どの作品も面白かったんだけれど、この『パンドラの匣』は、短編が得意な太宰にしては比較的長めの小説で、内容的にもある種の恋愛小説とも言える、青春時代の甘酸っぱさを感じさせるもので、自殺未遂だの、家庭の崩壊だの、そんなドロドロした世界ばかり読まされ続けていた側からすれば、とても、さわやかな気持ちで読むことのできる小説だったんですよねぇ。
僕はこの小説に出てくる竹さん(竹中静子/結核で入院する主人公・ひばりの世話をする療養所の看護師長)を理想の女性像として思っていた時期がありました。
もし、同じような環境にいたとしたなら、僕はマア坊でなく、断然、竹さんを選ぶなぁ……
竹さんがお嫁にゆくことになり、ひばりの許を離れてゆくシーンがせつなくて好いんですよねぇ。




同時収録されている『正義と微笑』。
こちらも、多感なティーン・エイジャーの微妙に揺れ動く心理の描写を上手に捉えた好編。

戦争の真っ只中に、こんなにもみずみずしい作品を書いていた太宰も、わずか2年後にはこの世とおさらばしてしまいました。

それにしても、これだけ、好き嫌いがハッキリと分かれる作家も珍しいでしょう。
三島由紀夫のような人間が出てくるのも何となくわかるような気がします。
僕も作品は好きだけど、彼の生き方を全面的に肯定することはできないし、そうゆう意味では、『人間失格』を読んだのが、ある程度の分別がつくようになっていた20歳頃で良かったと思いますね。
もっと若い頃(たとえば中学生の頃とか)に太宰と出会っていたら、もっと彼の影響を受けていて、複雑な性格の人間になっていたかも知れません。
いまでも好きな作家として名前を挙げるのを少し躊躇してしまう太宰治……
笑いたい時は短編集『きりぎりす』の中から「畜犬談」、『お伽草子』から「浦島さん」あたりをおススメします。

はい、ということで、本日はここまでです。
また、お会いできますように……