微小脳基底核部梗塞と思われる「片手でベットを叩く動作」「強迫行為」に対しclonazepam と | gcc01474のブログ

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微小脳基底核部梗塞と思われる「片手でベットを叩く動作」「強迫行為」に対しclonazepam とpromethazine が著効した一例

                                    
【抄録】
 片手で物を打つような仕草に対しclonazepam とpromethazine が著効した症例を経験した。症例は61歳、女性。26歳発症とされる統合失調症の患者であり、精神症状は良好にコントロールされており退院も可能であったが、身寄りがないため本院長期入院となっていた。
 3ヶ月前に haloperidol 12mg/日から haloperidol 9mg/日に減量になっていた。しかし抗コリン薬の減量はなく trihexyphenidyl 6mg/日が続けられていた。
 clonazepam を投与。症状は劇的に改善した。

【症例】
70歳、女性
(family history)
 母親が50台で乳ガンのため亡くなっている。また、父親が胃癌にて69歳で死亡。その他に特記すべきことなし。
(present illness)
 5人兄弟の第3子である。20歳頃、発病。それ以来、精神病院入退院を繰り返す。結婚歴は無し。発病初期の頃(20歳時)、昏迷状態となり、それが20日から30日続いたことがある。
 今回の発症は3月17日頃と推定される。3月15日のカルテの記載には「下の旧病院では女性患者ばかりで何も心配すること無かった。新病院に移ってから男性患者と一緒になり男性患者さんは大声で怒鳴ったり側に近寄ってくれば怖ろしくて恐いです。」という発言有り。
 3月18日のカルテには、午後4時30分、同室患者より「苦しい」と言っている知らせ有り。体温37.2℃、pulse 113/min, sp02 98%, 血圧130/68 mmgh。
 午後7時には体温36.9 ℃、Pulse 84/min, 血圧128/74 mmgh。
「左手でベットを叩く動作が止まらない」と言うことで朝8時、呼び出しがある。駆け付けると、左手でベットを叩く動作を続けていた。「何故、叩いているのですか?」と問うと「手が勝手に動く」と答える。表情は険しくなく、精神状態は良好であった。左手を持ち動作を強制的に止めようとすると簡単に止まるが、制止していた手を離すと再び手で物を打つ動作を再開する。
 同室者に依ると、3日前より、夜間、手で枕元の何かを払いのける動作を繰り返していたという。また、1週間ほど前より、同室内で他患同士が喧嘩をし、それがストレスになっていたのではないか、という。
 朝食を食べていないため、朝食を食べたいと同患者は言う。「でも、これでは食べられないでしょうね。」とも言う。
 朝食の場所に連れてゆくと、右利きであり、物を打つ動作を行っているのは左手であるため、箸を握るのは可能と思われたが、右手に箸を持たせようとすると、今度は右手も物を打つ動作を行ない始める。朝食を無理矢理に食べさせようとすると精神的圧迫となり払いのける動作が激しくなるようであった。
 一旦、病室に戻すも「朝食を食べたい、お腹が減っている」という。再び、食堂に連れて行くも、前回と同じく払いのける動作が活発になる。涙を流すなど感情失禁は見られなく、精神状態は終始、比較的穏やかであった。しばらくして抱えるようにして食堂へ連れてゆく。しかし自分の配膳の分を取ることが出来ない。看護婦さんが代わりに症例の配膳の分を取ってきて症例の前に置いた。食べようとスプーンを動かすがスプーンががくがく震えて口元に持ってゆくのがやっとであった。
 朝食を無理矢理に食べさせようとすると精神的圧迫となり払いのける動作が激しくなるようであった。
 パーキンソンニズムを疑い、抗コリン薬の筋注を行うことも考えたが、てんかんの一種と考えclonazepam 経口1mg 投与。すると次第に手で払いのける動作が止んでくる。
 午後3時、再び訪問したときには、その動作は止んでおり、症例は筆者に感謝の言葉を繰り返し述べる。食事は全量摂取したと言う。ただ、足元がふらつくと言う。
 clonazepam の効果も10時間ほどしか効かない。翌日、再び激しく両手でベットを叩いている。至急にclonazepam 2mg/日(朝・夕分2)の投与を開始する。30分ほどすると手で払いのけるような動作は止む。 trihexyphenidyl を一日6mgより12mgへ増量する。
 clonazepam は主任さん管理とする。一日どうしてでも2錠飲ませないと落ち着かないという。微熱が2週間ほど前より続いていた。何に依る発熱かは解らなく、精査は行っていない。咽喉頭痛はない。
 微熱を止めるため、cabergoline 0.25mg/日を開始したが、ほとんど効果は見られなかった。筋肉の緊張による発熱と推測された。
  
 3月19日早朝6時半、表情冴えない。行動も鈍い。体温37.2 ℃、pulse 88/min. respiration rate 20/min. 血圧110/66 mmgh。「何も出来ない、何も抱えることが出来ない。」というも同室の患者さんが代わりに布団を畳んでくれたと言い喜んでいるが、表情に微笑み無い。

 3月21日午前8時40分、自室前にて腰が痛いと腰を曲げ泣いている。「腰が痛いですか?」と問うと泣きながら「腰が痛いです。私はもう何も出来ません。みんなの役に立っていません。」と言う。
 午前10時、腰痛持続にて「腰痛訴え泣いている」と同室患者より知らせ有り。整形外科医師受診。「骨がポキポキして痛い」と訴えるがN病院への紹介に対しては拒否される。
 16時40分、自室ベット脇に立ち、身体を上下に揺らすようにして独語している。どうしたのですかと問うと「腰は痛くない。何がなんだか解りません」と繰り返し述べる。腰が痛いなら横になるよう促すも「何がなんだか解りません」と言う。
 19時30分、自室にてベット上、座床している。「腰はどうですか? 痛みますか?」と問うと「痛いです。何故かは知らないですど痛いです。」と述べる。

 3月22日午前7時、「腰はどうですか? 夜は眠れましたか?」と問うと「今は痛くなかです。夜も良く眠れました」という。
 同日15時00分、お風呂に入るよう準備しているにも、タンスの前で足踏みしている。「お風呂に入りましょうか?」と言うも拒否をする。表情暗く落ち込み気味である。
 同日17時30分、ベット上で何も被らず寝転んで寒そうにしている。気分問うも「何も解るんごとなったとですと小声で訴え、上腕を挙げたまま動かさない。
 同日、午後20時35分。「薬を変えてからこんなにおかしくなったとですよ。」と言われる。

 3月23日7時、「薬を変えられて、こんなにおかしくなったのですよ。」と言う。「今まで錠剤の入ってなかったのに、それが入ってから何も解らないようになった」「錠剤は前から入っていました。粉薬が減ったぐらいです。気にしすぎではないですか?」と言うも「薬を変えてからこんなにおかしくなったのですよ。」と言われる。
 17時、ベット上に正座している。体調・気分問うと「わからないですね。」と言って俯く。
 22時、「小水を漏らしました」と女子トイレより言われる。

 3月24日午前7時、昨日は自室にてラジオ体操をしている。「昨日の夜は小水を漏らしてしまいました」と薄笑いしながら話される。「昨日の夜は小水をしかぶってしまいました。」と苦笑いしながら話される。
 午前8時、左手を挙げ、上下に動かし続け、朝食を食べようとしない。「左手を動かすのは故意にではないか?」と言われ苦顔表情を見せる。結局、朝食は食べず。「御飯は食べることができません」「御飯は食べることができません」と繰り返し言われる。
 朝食拒否のためカロリアン200ml服用する。「おいしかったです。これはカロリアンでしょう。知っていますよ。」と話される。
 10時、筆者初診。ベット上で正座し、ベットを叩いたり両上肢を大きく動かしベットを叩いたり、両手挙上時、両上肢を大きく動かし腕を廻したりしている。clonazepam (1)1錠投与。コップを持って救湯器までお湯を汲みに行って「御飯を食べます」と言いナース室に来るも「やはり食べることができません」と言われる。
 12時、昼食全量摂取。「ふるえは止まりましたか?」「もう良くなりました」と笑顔を見せる。
 15時、廊下を歩行中、看護者に会うと、良くなったけれども、また手が勝手に動くようになりましたと言われ右手を降るグルグル廻す動作を見せるも、すぐに辞める。    

 3月25日午前6時、ベットにて座床して折り紙を折っている。「気分はどうですか?」と質問すると「いえ、どうもありません」と答える。「何かありましたか?」と問うと「何もありません」と言い、折り紙を折り続ける。
 8時15分。トイレ横の廊下に立ち、両上肢をしきりに上下させている。「どうしたんですか?」と問うも「自然と手が動く」と言い、上肢上下させる。話し掛けると一時は止まるが再び同様の動作有り。朝食問うも「食べませんでした」と答える。
 10時10分。ベット上に座り、しきりに上肢を上下されている。「わざとしていないのですけど」と答える。「朝食は食べましたか?」「今朝も昨日の朝も食べなかった。手が動いて食べられないのですよ」と言い、もっぱら片手を上下させたり両上肢を上下させる。「こんなことは始めてですか?」「入院以来、始めてです」と言い、対応ははっきりしている。
 11時30分。両手を廻している。意識的に行っているのではないと言われる。「何も出来ません。川瀬さんが怖ろしい」と呟かれる。「私は304号に居ました。日向さんから追い出されたのです。ここの部屋が良いのです。何処にも行きません。川瀬さんは足が悪いのでモップの掃除しかできないと言います。」
「川瀬さんの言葉が強いときがあるので、そのようなときに怖ろしいと感じるのでしょうか?」「恐ろしいですよ。川瀬さんが。」と言われる。
 15時00分。自室ベットに臥床している。お風呂に入ったのか尋ねる。
「風呂に入って擦って貰いました。両手を上下に動かしベットをばたばたと叩いている。勝手に手が動くんです」と表情硬い。
 18時、夕食、全量摂取。
 自室でベットサイドに立ち気分はかなり良いようである。
 両手を上下に動かし、両大腿部内出血を認める。
 18時30分、自室でベットサイドに立ち気分は大変良いように見受ける。
 「体の調子はどうですか?」
 「だいぶん良いです。歩くときフラッとします。身体が勝手に動いたりするのですよ。」等と言い、有り難うございますと頭を下げられる。
 21時、「朝ご飯を食べられんやったからカロリアンを飲ませてください。夕食は食べたけど、お腹が空いた」と来詰。カロリアン1本飲用。

 3月26日、午前6時。「洗面をしようか」と言っても「できません」と身体を上下に動かし表情硬くして洗面器やコップを持ち出そうとすると怒ってしまう。
 8時。「食事食べ切れません」と言い、また身体を上下に動かし、摂取せず。
 9時30分。表情冴えず、自室ベットに座っている。「何も出来ません。手が動くのはわざとでは無いのですよ。」clonazepam (1mg)1錠摂取。
 11時。腹部チェックに訪室すると手を上下する運動はなく、「便はいっぱい出ました」と落ち着いて話されている。
 19時、自室にてベットに座床している。活気なし。「自分のことで精一杯で何も出来ません」と小声で言う。表情冴えず。

 3月27日、午前6時半。訪室するとベットの横に立ち両手を上下に動かしている。「布団を畳み切らんとですよ。何もできんです。」その後、両手の上下運動治まる。
 午前8時。「朝食食べきれない」と言うことで拒食される。
 午前8時20分、朝食拒食のためカロリアン1本飲用さす。
 午前10時、ベットに坐り、両手を上下に動かしている。本人は「勝手に手が動きます。わざとではないんです。」と表情冴えず、
 午前11時、訪室すると「お腹は塚添さんが見てくれました。」と微笑に言われるも次第に両手で両膝を突き出し「一生懸命しているんです」と流涙し出す。しばらくすると落ち着き、タオルで涙を拭いている。
 午前12時、身体を上下に動かしたり、両手を動かしたり、「食べたいけど食べれないのですよ。」と訴える。
 午後2時、自室ベットに臥床し「トイレに行きたいのですけど行けないのです。痛い。痛い。」と繰り返し起き上がろうとする。「背中が痛いですか?」「背中が痛い。背中が痛い。」と言い、そのまま床に寝転んでしまう。「わざとではないのです」と言う。
 午後3時、「痛い。背中が痛い。」と小声にて言っている。側臥位にて過ごしている。
 整形外科の先生に見て貰うも「シップで様子を見てください」と言われる。
 午後6時、「夕食は食べきれない」と食堂まで来るもすぐ自室へ戻る。食器が持てないと言われる。表情暗く、会話途中でときどき両手を上下に動かす行為がしばらく続くも治まる。
 夕食介助にて促す。「食べきれない」と拒否気味だったがスプーンで御飯を口近く持ってゆくと、すぐ開け食べる。途中より自分から「御飯を下さい」と要求され全量摂取される。
 腰が痛いと椅子よりずり落ちるように身体を持ってゆかれる。シップ交換する。「自分で立ってゆけない」と訴えるが、しばらくするとしっかりした足取りで自室に帰る。
 午後6時30分。体温37.1℃、pulse 90。腰が痛いと眉間にしわを寄せて言う。
 午後7時半。「布団が敷けません。布団を敷いてください。」布団を敷く。「ありがとうございます。もう何にもできないのですよ。」と言い、再三頭を下げる。

 3月28日、午前10時。「何処が痛いのですか?」「足ではないです。痛いです。わざとではありません。」と言うのみ。上下運動を繰り返し行う。体温37.8℃、pulse 96。熱感軽度有り。本人は「どうもないです」と答える。声かけると上下運動見られる。
 午前11時30分。P先生受診。咽頭が多少、炎症有り。本人は「何でもない」と言うため様子観察とする。
 午前11時40分。訪室すると部屋の中央に立ち、両腕をグルグル回している。「大西さんが私を叩くと言うんです。怖ろしい。大西さんは怖ろしい。」と流涙する。
 午前12時。「御飯は食べられません。」と自室より出てこようとせず、手を上下している。自室にて食事介助する。デザートのみ自力摂取される。
 午後2時。熱発。体温37.5℃。pulse 84/min. 体熱感軽度有り。頭痛無し。腰痛有り。「どうもないですけれど、大西さんが恐いんです」と言う。
「大西さんとは何かあったのですかね?」
「何もありません。でも、大西さんが恐いんです。」
「何もされてないんですけど、大西さんが恐いんです。」
「自分では食べられません。」
 デザートのみ自力摂取される。
 午後2時半。腰に湿布を貼ってくださいと来詰される。モーラスシップ塗布する。「有り難うございました」と普通の状態で帰室される。他動運動も見られず、温和である。
 午後7時。体温37.3℃、pulse 90. BP122/60mmhg
 夕食時、食べられず、自室より出てこようともされないが、説得して食堂へ連れてゆき、全量摂取される。
「食事、おいしかったです」と言う。また「頭も痛くない。どうもない。」と言われる。顔面紅潮気味。体熱感有り。
 午後8時、体温36.8℃、pulse 72, BP 122/60mmhg。

 3月29日午前6時、体温37.3℃、pulse 96, BP 132/80mmhg。他の患者に布団のシーツなどを外して貰っている。
 午前8時、「食べ られない、食べ られない」と言いながらも介助をしながら全量摂取。歯をぎしぎし言わせて両手の他動運動をしている。

 4月3日、この日の夕刻よりclonazepam 2mg/日(朝・夕)投与を行うこととする。3月下旬まではclonazepam 2mg/日(屯)が主任の判断により投与されていた。しかし4月1日より看護体制が移動となり、clonazepam の投与が行われていなかった。

 4月8日、一日clonazepam 2mg/日(朝・夕)投与は過量投与であったのか、終日、寝たきりとなっていたため、一日clonazepam 1mg/日(夕)投与と改める。

 4月11日、この日の夕刻よりdantrolene sodium 25mg/日を2日間行うことにする。しかし、ほとんど効果は認められず、2日間の投与にて中止。

 4月13日、amantadine 100mg/日(朝・夕)投与を開始する。一週間後、amantadine は200mg/日(朝・夕)投与に増量する予定であったが、効果が見られないため、一週間後、投与中止とする。

 4月14日、この日の夕食後より biperiden 2mg/日(朝・夕)投与開始。この日、午後3時頃、廊下の端から端を全力で走り抜けることを行う。看護士の弁に依るとこのことを数日前より行っているとのこと。この病態はakathisia であることを認識する。

 4月16日、手が後ろへ行くという発作が無くなったという。しかし、ベット上、臥床状態であることに変わりはない。精神状態はやや“うつ的傾向”。
 明日より、 biperiden 4mg/日(朝・夕)に増量して様子を見る。clonazepam は1mg/日(夕)投与のまま。しかし、biperiden 4mg/日により口渇が起こるのではないかと心配する。

 4月18日、朝9時半ながら布団に寝ている。機嫌が悪い。精神状態は悪くない。朝御飯を食べて再びベットの中に潜り込んだらしい。明日よりclonazepam は2mg/日(朝・夕)投与に戻す。

 5月2日、この日よりbiperiden 4mg/日(朝・夕)をpromethazine 20mg/日(朝・夕)に代える。promethazine の持つ抗ヒスタミン作用に期待するためである。この日より、長く続いた筋肉の過緊張の依ると思われる微熱は減少。

 5月4日、promethazine は奏功している。昼間の眠気も訴えない。精神状態も良くなっている。昼間は起きて他患と雑談したり身の回りの整理をしたりしている。しかし未だ背部の筋肉の疼痛が存在する。promethazine 20mg/日(朝・夕)を 30mg/日(朝・夕)に増量。しかし昼間の眠気は出現せず。下肢(とくに下腿)のムズムズ感(restless leg syndrome?)も完全に消失している。長く続いた筋肉の過緊張の依ると思われる微熱は再出現している。

 5月16日、下腿が腫脹する。足の甲から下腿部にかけ腫脹し、pitting edma(+)。furosemide 投与も考えたが、湿布を貼り、様子観察とする。痛み(--)。筋肉の過緊張の依ると思われる微熱は続いている。

 5月17日、腫脹は下腿部のみになっている。今は廊下を走り回ることは出来ない。上体が前屈みになっている。パーキンソンニズムが明らかに起こっている。

 5月19日、下腿部の腫脹も消失。しかし筋肉の過緊張の依ると思われる微熱は続いている。

 5月20日、腰が痛いため、真っ直ぐに眠れないため、いつも横を向いて寝ているが、このとき唾液が枕元に垂れると言う。promethazine 30mg/日(朝・夕)を 40mg/日(朝・夕)に増量。

 5月22日、経過は良好である。昼間の眠気はない、唾液が垂れるのもほとんど無くなっている。

 5月25日、経過は良好である。昼間の眠気はない。このままpromethazine 40mg/日・clonazepam 2mg/日(朝・夕)の臨時処方を続ける。

 7月27日、promethazine 30mg/日・clonazepam 2mg/日(朝・夕)の臨時処方を続けている。経過は良好である。昼間の眠気はない。上級医がベットを叩き続けるなどの行為を強迫神経症と判断し promethazine を減らし、fluvoxamine を投与し始めていたが、効果は判然とせず。しかし fluvoxamine の投与を続ける。筋肉の過緊張の依ると思われる微熱は続いている。症例は元気であり、発熱のエピソードこそ減り病室にはほとんど居ず、ホールにて雑談をして毎日を送っている(自分の病室には人間関係上、居にくい為か?)。

 8月19日、promethazine 30mg/日・clonazepam 2mg/日(朝・夕)の臨時処方に加え、 fluvoxamine 100mg/日を加えているが、効果は判然とせず。筋肉の過緊張の依ると思われる微熱は続いている。症例は元気であり、発熱のエピソードこそ減り病室にはほとんど居ず、ホールにて雑談をして毎日を送っている。両手を後ろへ動かす動作が再発している。

【考察】
 父親が胃癌で死亡したことから胃癌など悪性腫瘍の大脳基底核への転移が最も考えられたが、頭部MRI上、70歳の標準的なMRI像(写真1)であり、多発性脳梗塞は未だほとんど無かった。悪性腫瘍の転移は見当たらなかった。CEAは正常値を示した。悪性腫瘍の精査はCEAを測定した時点で終えている。  
 今後、高齢化社会になるに従い、本症例のようなケースは増加してくると思われる。
 clonazepam が奏功したが、他のベンゾジアゼピン系薬物でも同じような結果が得られたと思われる。
 CPKの軽度の上昇と37℃台の発熱、そして筋硬直より悪性症候群も考えられた。しかし最高で38.3℃であり、精神状態は抗精神病薬を半量ほどに減らしたが悪化はなかった。
 結局、これは大脳基底核の何かによる変性であったらしい。アカシジアと思われる。小さな脳梗塞が大脳基底核のある部分に起こったと考えるのが最も妥当と思われる。
 アカシジアは別名、正座不能症、着座不能症、とも呼ばれる。抗コリン薬、βブロッカー、ベンゾジアゼピン系薬物が処方される。(しかし、β-blocker は投与してもほとんど効果は見られず。抗コリン薬とベンゾジアゼピン系薬物が著効するのみである。)
 錐体外路症状としてはアカシジアのほかにジスキネジア、ジストニアなどが知られている。外科的治療法も含め治療方法は様々存在する。
 アカシジアは投薬して数日から数週間後に突発的にまたは進行性に起こることが多い。自覚症状が中心で他覚所見に乏しいため精神障害と間違われやすい。ところが下肢のムズムズ感はpromethazine 20mg/日(朝・夕)の投与とともに消失した。
 症例は抗精神病薬を服用し始めて35年後に起こっている。これを遅発性アカシジアとして良いのか微小脳基底核部梗塞あるいは強迫性障害として良いのか判断に苦しむ。

【文献】
1) 風祭元:遅発性ジスキネジア----諸外国における研究.精神医学 13: 840-855, 1971
2) Kazamatsuri H, Chien CP, Cole JO:Treatment of tartive dyskinesia Ⅰ:Short-term efficacy of dopamine-depleting agents tetrabenajin.Arch Gen Psychiatry 27:95-99, 1972
3) Kazamatsuri H, Chien CP, Cole JO:Treatment of tartive dyskinesia Ⅱ:Short-term efficacy of dopamine blocking agents haloperidol and thiopropazate.Arch Gen Psychiatry 27:100-103, 1972
4) Kazamatsuri H, Chien CP, Cole JO:Treatment of tartive dyskinesia Ⅲ:Clinical efficacy of a dopamine completing agents methyldopa.Arch Gen Psychiatry 27:824-827, 1972
5) 越野好文、山口成良、倉田孝一、他:神経遮断薬惹起性遅発性ジスキネジアに対するChproheptadin の効果の二重盲検法に依る検討.精神医学21:1243-1250, 1978
6) 越野好文、間所重樹、伊藤達彦、他:北陸地方の精神病院入院患者における遅発性ジスキネジア.臨床精神医学 20:615-626,1991
7) 高橋三郎、大野裕、染矢俊幸:DMS-Ⅳ-TR精神疾患の診断・統計マニュアル.神経遮断薬誘発性ジスキネジア.医学書院, pp767-769, 2002
8)八木剛平:錐体外路形副作用.精神科治療薬体系・第5巻 向精神薬の副作用とその対策:49-94:1997
9) 八木剛平 etc. アカシジアの診断と治療、精神治療学 6:13-26、1991
 
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微小脳基底核部梗塞と思われる「片手でベットを叩く動作」および「強迫行為」に対しclonazepam とpromethazine が著効した一例

A case of look like tartive dyskinejia or microcerebral infarction in the basal ganglion region or obsessive-compulsive disorders, a movement of one hand beat the bet,clonazepam and promethazine are very effective.

http://homepage2.nifty.com/mmm23232/2975.html



【key words】microcerebral infarction, extrapramidal-tract disorder, clonazepam、promethazine、akathisia、