【原著】original article
サフランの抗精神作用*
**
サフランを不安障害、気分障害、そして統合失調症の患者へ応用した。そしてその効果は他の漢方薬との併用であったため断定こそできないが強い効果が結果として得られた。
サフランは澱んだ“気”の流れを円滑化する。しかしサフランは高価である。保険上許容されている最高量の一日1g服薬するとして薬価は560円になる。
女性の不安障害、気分障害にはその一日1mg と漢方製剤のみでも充分治療効果が認められる。女性の統合失調症に対してはその一日1mg と漢方製剤そして比較的少量の抗精神病薬で対処できる。
サフランと漢方製剤のみで対処すると場合、女性の統合失調症に対してはサフラン一日2mg 以上の投薬は絶対的に必要である。また男性に対しては女性の倍量の投薬が必要である。よってサフランの有効成分の抽出・同定・大量生産は急務と確信する。
以下に、抗精神病薬を頑なに拒む強い27歳の外来の統合失調症の女性患者に対し漢方製剤とサフランの増量のみで対処し劇的な結果を得た。その内容を記す。
【症例】
小学校4学年時、痙攣発作にて某神経内科受診。それより carbamazepine, aleviatine などの投薬を受けてきた。看護学校通校時、精神症状発現。 sulpiride 300mg/day の投薬も受け始める。看護学校は何とか卒業し正看護婦の資格を取ったが就職先が見つからずアルバイトを行っていた。筆者初診時の処方は carbamazepine 400mg/day(朝夕分2), aleviatine 300mg/day(朝昼夕分3), sulpiride 300mg/day(朝昼夕分3)、nitrarazepam 20mg/day(眠前)であった。この処方のみでは精神症状をコントロールすることが困難であった(時折見せる空笑、反�R的な態度、夜の家人への多弁などが有った)。脳波上、てんかん様異常波は認められず。carbamazepine および aleviatine を完全に抜く。しかし、てんかん発作は認められず。小学校4学年時の痙攣発作はヒステリーと思われる。
不眠を強く訴えるためflunitrazepam 4mg/day(眠前)をnitrazepam 20mg/day(眠前)の代わりに処方。これにより不眠は解消されたが、精神状態の軽度の不調は不変であった。また sulpiride は『太る』ということで服薬を拒否し始める。 risperidone 2mg/day に変薬するもこれも『眠くなる』と服薬を拒否する。haloperidol 3mg/day に変薬するもこれをも『私が飲むクスリではない』と服薬を拒否する。
患者の服薬拒否激しく、精神状態は悪化。空笑、反抗的な態度、夜の家人への多弁は激しくなり、精神病院入院を考えさせた。以前のクリニックのクスリを真面目に服薬していたことを言うと『あの頃は何も知らなかったのです。てんかん発作が怖くてそれで飲んでいたのです。』と答える。この時点での服薬内容は 苓桂朮甘湯 7.5mg/day 分3とflunitrazepam 4mg/day (眠前)のみであった。これ以上、服薬しようとしない。
よって上記の処方にサフラン1mg/day 分3を増量(サフランを飲むと肌がきれいになると言って服薬させた。また本人もそういうと喜んで服薬した。)。精神症状はやや改善傾向を見せた。以前の sulpiride と carbamazepine が入っていた時の状態と同じような精神状態になった。つまり軽度の精神状態の不調という状態に逆戻りといった感じになった。
サフランを一日2mg 分3に増量。精神状態は明らかに改善傾向を見せた。(空笑が消失し、反抗的な態度がほとんど消失し、従順になった。また家人への夜の多弁が消失した。)これはサフランの睡眠改善作用によるもの7)とも思われたが、睡眠はサフラン投与以前より flunitrazepam 投与によって良好に保たれていた。また本人も睡眠は不変であると言う。
(苓桂朮甘湯は『ツムラ』を用いた。サフランは『太鼓堂』を用いた。)
【考察1】
サフランが明らかに精神状態改善作用を見せたのは未だこの1例のみであるが、この他にもサフランが精神状態改善作用を見せたと思われるのは同じく女性例であるが2例ほど存在する。
未だ文献に見当たらないが、サフランは明らかに男性よりも女性の方に効果が強く現れる。同じ効果を得るのに男性では女性の2倍の量を必要とする。これは漢方薬についても同じである。これは男性が女性よりも2倍ほど多量の食事を摂取するという理由も成り立つと推測している。
そしてサフランは何故か老人には効果がないようである。しかし20代から60代前半の女性には劇的に奏功することが良くある。それは何故か? サフランは婦人科の病気に効くことが以前より強調されてきた。妊娠中の女性が服薬すると流産してしまうことで妊娠中の女性には禁違とされている。その年代の女性のサフランに対する感受性が非常に強いと推測される。
また駆悪血剤として最強のものとされている。老人に効かないのは悪血があまりに強すぎるからではないだろうか。
【考察2】
サフランを文献的に見ると『鬱を散らし結を開く、憂鬱病、胸苦しさ、吐血、熱病による発狂、恐怖恍惚、無月経、産後の鬱血による腹痛、打撲による腫れと痛みを治す。1)』『血を調える、胸郭をゆるやかにする、胃を開き飲食を進ませる、長く服用すると気分をさわやかにする。2)』
『傷寒発狂、恐怖し、恍惚たるには、サフランを水に一夜浸して服す。3)』『心憂鬱積、気悶して散ぜぬものに血を活かす。久しく服すれば精神状態を愉快にする。又、驚悸を治す。3)』
『心気憂鬱なるもの、結悶が散らないものを主り、血を活かして驚悸を治す。結を散らして血を行ぐらす。4)』
『傷寒発狂・驚悸恍惚を治す。5)』
『逆を下し気を順らせ、血を散じ汚を消す。6)』
また『子宮に対する興奮作用があり、少量投与では子宮に緊張性あるいは律動性収縮を起こさせ、大量投与では子宮の緊張性と興奮性を高め、自動収縮率を強め、甚だしいときは痙攣の程度にまで達し、懐妊した子宮はいっそう敏感である。1)』
『通経作用があるので、妊婦の服用は禁忌である。2)』
『更年期障害からくる不定愁訴や生理不順による血の道症の症状(気分がすぐれない、イライラする、のぼせ、肩こり、不眠、頭痛、めまい等)に1回量サフラン0.2~0.3gを湯飲みに入れ熱湯を注ぐと数分で美しい赤黄色の湯になり成分が浸出される。箸でそっと掻き回せば柱頭だけ�ェ下に沈むから浸出液だけを飲む。湯飲みに残った柱頭には再度湯を注いで1日2~3回服用することができる。この液は風邪にも効果がある。ふつうは1日量0.5g くらいが良い。2)』
『雌しべの柱頭の赤い部分のみを集めて乾燥したものをサフラン(Crocus, 蔵紅花)といい、古代エジプト、ギリシャの時代から婦人病薬として用いられ、鎮静、鎮痛、通経薬などとし、婦人病の家庭薬によく加えられる。民間薬的にもよく用いられ、1回に5~10本を湯呑みに入�黶A熱湯を注いで数分間置くと橙黄色の美しい色が出て来るが、これを茶のように常用すると、血の道症、月経不順、ヒステリー、更年期障害、子供の百日咳などに効果があるという。また、食品の香料、着色料としてもよく使われ、スパイスとしてはクロッカスの名で売られている。
成分は、柱頭にはもともと protocrocin と呼ぶカロチノイドの配糖体が含まれていると考えられ、これが順次酸化されて出来たと思われる crocin, crocetindimethylester, picrocrocin, safranal などが見出されている。crocin, croctin には橙黄色の色があり、 picrocrocin �ヘ苦みがあり、safranal には芳香がある。
生産のための標準的な栽培法を記すと、10月に球茎を浅い育苗箱のようなものにぎっしりと並べ、25~30cm 間隔の棚になるような架台を作って室内に置く。10月下旬に開花したら雌しべをつみ取って、花が終わると主芽だけを残して側芽はすべてかき落とし、路地に植え付�ッる。5)』
【終わりに】
上記の症例の他にもサフランが奏功していると思われる統合失調症の症例があるが、サフランは女性だけでなく男性にも充分に効果が見られる。これは精神科領域に限られるのか、それは不明である。
【文献】
1)中薬大事典 下巻、p.2671~2672, 上海科学技術出版社、1986.
2)薬用植物大事典、p.342~344, 広川書店、 1978.
3)『新註国訳本草綱目』第5冊、番紅花、p.87~p92, 春陽堂、1964.
4)本草綱目;李時珍
5)医林集要
6)本草正義
7)サフランの入眠効果について;松橋俊夫;p123~p125;新薬と臨床・第42巻、1995.
* **(文献を集めて下さった0000000氏に感謝の辞を表す。)***
http://homepage2.nifty.com/mmm23232/2975.html