神経性無食欲症と診断され3年間IVHを施行されてきた食欲中枢を破壊したmicroprolacti | gcc01474のブログ

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神経性無食欲症と診断され3年間IVHを施行されてきた食欲中枢を破壊したmicroprolactinoma の一例*     

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【抄録】
 7年前より食思不振出現、神経性無食欲症と診断され、3年前より全く経口摂取不能となりIVH(intravenous hyperalimentation) を受けていたプロラクチン産生腺腫を見逃されていた一女性例を経験した。
 血漿プロラクチン 91ng/ml と軽度の上昇であり、プロラクチンを上昇させる薬剤は服用していなかった。症例のプロラクチン産生腺腫は極めて小さな腺腫であり、判読は困難を極めた。
 この症例はプロラクチン産生腺腫が外側視床下部の食欲中枢を破壊してゆき、そして経口摂取不能となったものと推測された。
 症例にドーパミンD2受容体作働薬であるterguride を投与開始。血漿プロラクチンは 27ng/ml と減少。しかし経口摂取不能は不変。プロラクチン産生腺腫がすでに外側視床下部の食欲中枢を破壊していたと推測された。
 乳汁濾出に早期に注目しterguride などドーパミンD2受容体作働薬を投与していたならば症例は食欲中枢を破壊されず、経口摂取可能になっていたと推測される。
 
【key words】Microprolactinoma、Feeding center、Anorexia nervosa、Galactorrhea、Intravenous Hyperalimentation     

【はじめに】
 下垂体腺腫は産生されるホルモンによって分類される。大きく、ホルモン非産生腺腫とホルモン産生腺腫に分類される。ホルモン産生腺腫にはプロラクチン産生腺腫、成長ホルモン産生腺腫、副腎皮質刺激ホルモン産生腺腫、甲状腺刺激ホルモン産生腺腫、黄体形成刺激ホルモン産生腺腫、卵胞刺激ホルモン産生腺腫、多種ホルモン産生腺腫などがある。全脳腫瘍の60%を占め、成人に好発し、成人の脳腫瘍では髄膜腫、神経膠腫に次いで多い腫瘍である。その頻度は一般にホルモン非産生腺腫が約40%、プロラクチン産生腺腫約40%、成長ホルモン産生腺腫約20%であり、他のホルモン産生腺腫は稀である3)。
 プロラクチン産生腺腫は女性が圧倒的に多く、統計的に男性の10倍近くを女性が占める。
 プロラクチンは乳腺に作用して乳蛋白の合成や乳汁の分泌を促進するのみでなくゴナドトロピンの分泌や性腺機能にも影響を与える。
 プロラクチン分泌過剰症の女性では一般に乳汁濾出と無月経を伴うため、乳汁濾出・無月経症候群とも呼ばれる。プロラクチンの存在が知られるようになる以前から、これらの症状が分娩後に引き続いて生じた場合はChiari-Frommel 症候群、下垂体腫瘍に依るものはForbes-Albright 症候群、いずれにも属さない場合はArgonz-del Castillo 症候群という名で呼ばれてきた。
 プロラクチン産生腺腫は一般に良性の腫瘍であり、悪性の場合は稀である。女性では不妊症の原因となり、男性では性欲低下・陰萎の原因となる。
 血漿プロラクチン値が 200ng/ml 以上の著しい高値を示す場合はプロラクチン産生腺腫の存在が示唆される。しかし微小腺腫すなわちmicroprolactinoma では 30~100ng/ml という軽度の上昇を示すことが多い。また 30~100ng/ml という軽度の上昇は薬剤性に起こることが非常に多い。
 腺腫の大きさとプロラクチン産生能は必ずしも比例せず、巨大腺腫の場合はプロラクチン非産生腺腫が多く見られる11)。プロラクチン産生腺腫は女性では約半数がトルコ鞍の拡大を伴わない微小腺腫(microadenoma)であるが、男性では90%以上が巨大腺腫(macroadenoma)である11)。
 プロラクチン産生腺腫によりうつ病性障害およびうつ状態が高頻度に起こることが最近知られてきた14)。
 
【症例】
症例:24歳、女性
家族歴:特記すべきものなし
既往歴:特記すべきものなし
現病歴:高校3年の始め、食思不振出現。同時に生理不順、月経停止、乳汁濾出が起こる。A総合病院にて精査するも原因は不明。心理的ストレスによるものとされ、精神科にて抗不安薬および抗うつ薬などを投与されてきた。この頃、失恋があり、その心的外傷によるものと精神科にて解釈され神経性無食欲症および身体表現性障害と診断されてきた。
 食思不振は次第に増悪。月経停止、乳汁濾出は継続。3年前より全く経口摂取不能となる。IVH(intravenous hyperalimentation) にて栄養摂取せざるを得なくなる。
 3年前、乳汁濾出よりプロラクチン産生腺腫をA総合病院の内科の医師より疑われ、トルコ鞍を中心とした造影MRIを受けたが放射線科より「特記すべきものなし」と読映された。このとき抗うつ薬の服用を中止して1ヶ月が経過したときに採血した血漿プロラクチン値は 86ng/ml と測定された。
 A総合病院までは遠く、当院が近くである故、IVHの3週間毎の最挿入目的にて紹介通院開始。来院時処方は(alprazolam 1.2mg/日、分3。rilmazafone 1mg/日、眠前。)であり、この処方が半年間続いていた。IVH挿入部の消毒は母親が元・看護婦であり前医にてもIVH挿入部の消毒は母親が毎日行っていた。
 紹介状には第一病名に神経性無食欲症、第二病名にうつ病性障害、第三病名に身体表現性障害(疑)と記載されていた。
 IVHの容器を提げるための移行器とともに来院していた。IVHは過去3年間、中止されたことはなかった。
 症例には、性格的歪みが全く認められなく、うつ的傾向は軽度であり、このうつ的傾向は高プロラクチン血症に依るもの14)と判断。以前、この症例と酷似した症例の経験があり、乳汁濾出よりプロラクチン産生腺腫と考え新しく開発された副作用が比較的少ないと言われるドーパミンD2受容体作働薬である terguride の投与を開始する。初来院時、採血し、血漿プロラクチン 91ng/ml と測定される。   
 初来院から21日後(来院2回目)、プロラクチン産生腺腫(疑)としてトルコ鞍を中心とした造影MRIを施行。トルコ鞍を中心とした造影MRI上、直径2mm 程の極めて小さな腺腫を認める。
 3年前に撮影したトルコ鞍を中心とした造影MRIをA総合病院より取り寄せ読映すると同部位に直径2mm 程の極めて小さな腺腫を認める。
 初来院から35日後(来院4回目)、症例は「テルロン(terguride)を1ヶ月以上服用していますが食欲は全く湧いて来ません。経口摂取は全く出来ません」と言う。ドーパミンD2受容体作働薬抵抗性腺腫を考えたが、すでに食欲中枢を破壊され、経口摂取不能になっていると判断し、放射線療法は行わず。血漿プロラクチン 27ng/ml と低下しておりドーパミンD2受容体作働薬抵抗性腺腫ではなかった。

 以降、来院無し。

【考察】
 この患者の食思不振は心的外傷に依るものと診断されていた。また、3年前から全く経口摂取不能となったのは神経性無食欲症あるいは身体表現性障害と診断されていた。
 この症例は三環形・四環形抗うつ薬を投与されていた。それ故に無月経、乳汁濾出が起こっていると判断されてきた。
 プロラクチン産生腺腫はドーパミンD2受容体作働薬投与にてほとんどの症例の血漿プロラクチン濃度を正常域まで低下させるだけでなく、腺腫容積を縮少させることができる15)。微小腺腫すなわちmicroprolactinoma では腺腫が消失することも報告されている15)。
 しかし大部分の場合、投与の中止により血漿プロラクチン値は再上昇し腫瘍増大が見られ完治には到らない4)。最近はterguride という新しいドーパミンD2受容体作働薬が開発され、 bromocriptine より副作用が少ない10)として頻用されている。
「ドーパミンD2受容体作働薬長期投与後の腫瘍は線維化を示し手術剔出が困難になることが多い。よって経蝶形洞下垂体腺腫摘出術など外科的手術を第一選択とする」意見4)が存在する。また「外科的手術は行わず生涯に亘りドーパミンD2受容体作働薬投与を行うことを第一選択とする」意見14)も存在する。
 Otten P12)は「ドーパミンD2受容体作働薬は血漿プロラクチン値を低下させ腫瘍縮少効果も著明で、手術適応と薬剤による治療と何れを選択するかは腫瘍の大きさで決定する。腫瘍が大きい場合、手術適応となる。手術後の5年生存率は96%を越えており手術は安全で、切除が確実ならば術後のドーパミンD2受容体作働薬維持療法は必要がない」と述べている。
 Mah PM11)は「外科療法に依る下垂体腺腫の長期治癒は微小腺腫(直径1cm 以内)で約60%、巨大腺腫で25%程度である。外科療法の適応は、1)terguride などの服用がその副作用10)のため出来ない、2)terguride などの服用で血清プロラクチンが充分に下がらない、3)terguride などの服用中に腫瘍が大きくなる、以上のときである。」と述べている。
 一般にMah PMの見解が最も多く支持されている13)。しかし未だ様々な見解が入り乱れており、施設によって治療方針が異なる現況である15)。
 血漿プロラクチン値は薬剤性にsulpiride を代表とするドーパミン拮抗剤投与に依って上昇する。症例は乳汁濾出を抗うつ薬の投与故と判断されてきた。症例はsulpiride は投与されておらず、三環形・四環形の抗うつ薬を投与されてきた。三環形・四環形の抗うつ薬に依っても血漿プロラクチン値は軽度ではあるが上昇する2)。
 腫瘍が大きく血漿プロラクチン値が高い場合は外科的術後にプロラクチン値が正常域まで低下することは少なく、術後にドーパミンD2受容体作働薬投与を行う。また、 ドーパミンD2受容体作働薬投与に反応しないプロラクチン産生腺腫は頻度は少ないが存在し、その場合は術後にγ-ナイフ などの放射線療法を行う12)。
 症例の血漿プロラクチンは3年前 86ng/ml であり、今回は 91ng/ml である。なお、血漿プロラクチンの正常値は 4~20ng/ml となっている。
 プロラクチン産生腺腫の症状として無月経・乳汁濾出・眼症状・肥満・脳神経症状・脳圧亢進症状・性欲低下・多毛などの記載6)は有るが、食思不振の記載6)は見られない。逆に、高プロラクチン血症を来す疾患として神経性無食欲症が挙げられている6)。しかし「神経性無食欲症がどういうメカニズムで高プロラクチン血症を来すか?」との説明は記載されていない。また、他の文献にもそのメカニズムを記載されているものは存在しない。Couldwell 4)は「血漿プロラクチン値の基礎値は神経性無食欲症のほとんどの例で正常であるが、時に高値を示すものがある」と述べている。この「時に高値を示すもの」が今まで気付かれないでいた「食欲中枢を破壊したプロラクチン産生腺腫」と推測される。   
「食欲中枢は外側視床下部に存在する。その部位を刺激すると意識ある動物は食欲行動を起こす。破壊すると食欲が消失し痩せ衰えて死ぬまで食欲しない。それに反して満腹中枢は腹内側視床下部に存在する。その部位を刺激すると食欲停止を引き起こし、破壊すると多食と肥満が生じる」とCouldwell 4)は述べている。
 また「ネコの食欲中枢を傷害するとネコは完全な食欲不振のため僅かの間に見る影もなく痩せてしまう。また満腹中枢を傷害するとネコの食欲が非常に亢進し急激に太ってくるとともにどう猛な性格に変わってしまう」ともCouldwell 4)は述べている。
 症例はドーパミンD2受容体作働薬であるterguride 投与に反応せず、他院へ転院していった。このプロラクチン産生腺腫は直径約2mm と極めて小さく、食欲中枢の外に発生し次第々々に食欲中枢を破壊していったとも、食欲中枢の中に発生し次第々々に食欲中枢を破壊していったとも考えることができる。
 乳汁濾出に早期に注目しドーパミンD2受容体作働薬投与を行っていたならば症例は食欲中枢を破壊されず、経口摂取可能になっていたと考えられる。

【おわりに】
 筆者は本症例とほぼ同じ症例を一例経験している。その症例も20代の女性であり、どのような治療も功を奏せず、経口摂取不能・乳汁濾出・無月経を呈しており、神経性無食欲症、プロラクチン産生腺腫(疑)、うつ病性障害(疑)として紹介されてきた。その症例の場合もトルコ鞍を中心とした造影MRIにて極めて微少なプロラクチン産生腺腫が映し出され血漿プロラクチン 80ng/ml であり、採血時、抗うつ薬など血漿プロラクチン値を上昇させる薬剤の服用を中止して1ヶ月以上を経過していた。本症例と同じく経口摂取不能となって数年を経ており、IVHを施行されていた。ドーパミンD2受容体作働薬であるterguride を約1ヶ月間投与したが経口摂取不能は不変であった。terguride を約1ヶ月間投与直後の採血にて血漿プロラクチン 24ng/ml と低下していた。そして入院主体の精神病院へと転院となった。その後の経過は不明。それ以来、筆者は神経性無食欲症の患者には乳汁濾出が存在しなくとも血漿プロラクチン値を必ず測定するようにしている。           
 また筆者は、神経性無食欲症の死亡例を1例経験している。その症例は神経性無食欲症、うつ病性障害と診断されていた。これも20代の女性例であった。この症例は極めて強い食思不振・乳汁濾出・無月経を呈しておりプロラクチン産生腺腫が食欲中枢を破壊する途上であったとして間違いなかった。しかし血漿プロラクチン値を測定することも、CTやMRIを施行することも、ドーパミンD2受容体作働薬を投与することも上級医の無理解に依り行えなかった。
 この症例のようにプロラクチン産生腺腫が外側視床下部の食欲中枢を破壊し神経性無食欲症に酷似した病態を示した症例は筆者には3例目の経験であり、この病態を示す患者は世界中に蔓延していると確信する。
       

----本症例および本症例とほぼ同じ症例のadenoma は直径1mm 程度の極めて小さなmicroadenoma であり、このようなmicroadenoma は例え高精度で印刷しても判読不可能である故、省略する。microadenoma の場合はdynamic MRI (造影剤を静注し30秒間隔ほどで撮影する)の施行が推奨されている13)。しかし造影MRIにて極めて判読困難ではあったが存在を確認できた。症例の経済的負担も考えdynamic MRI は施行せず。----


【文献】
1) Cho DY, Liau WR:Comparison of endoscopic surgery and sublabial microsurgery for prolactinomams.Surg Neurol 58:371-376、2002
2) Colao A, Annunziato L, Lombardi G:Treatment of prolactinomas.Ann Med 30:452-459、1998
3) Colao A, Di Sarno A, Marzullo P et al:New medical approaches in pituitary adenoma.Horm Res 53 (Suppl 3):76-87、2000
4) Couldwell WT, Rovit RL, Weiss MH:Role of surgery in the treatment of microprolactinoma.Neurosurg Clin N Am 14:89-92、2003
5) Di Sarno A, Landi ML, Marzullo P et al:The effect of quinagolide and cabergoline, two selective dopamine receptor type 2 agonists, in the treatment of prolactinomas.Clin Endocrinol 53:53-60、2000
6) Franks S:Prolactin, In Endcrine Disorders, A guide to diagnosis (edited by Richard A Donald).Mercel Dekker, Inc., Butterworths、London、1984
7) Giusti M, Fazzuoli L, Cavallero D et al:Circulating nitric oxide changes throughout the menstrual cycle in healthy women and women affected by pathological hyperprolactinemia on dopamine agonist therapy.Gynecol Endocrinol 16:407-412、2002
8) Groote Veldman R, van den Berg G, Pincus SM et al:Increased episodic release and disorderliness of prolactin in both micro- and macroprolactinoma.Eur J Endcrinol 140:192-200、1999
9) 石橋みゆき:プロラクチン異常症.ホルモンと臨床 42:417-422、1994
10) Levy MJ, Matharu MS, Goadsby PJ:Prolactinomas, dopamine agonists and headache: two case reports.Eur J Neurol 10:169-173、2003
11) Mah PM, Webster J:Hyperprolactinemia: etiology, diagnosis, and management.Semin Reprod Med 20:365-374、2002
12) Otten P, Rilliet B, Reverdin A et al:Pituitary adenoma secreting prolactin. results of their surgical treatment.Neurochirurgie 42:44-53、1996
13) Rosato F, Garofalo P:Hyperprolactinemia: from diagnosis to treatment.Minerva Pediatr 54:547-552、2002
14) Tsigos C, Chrousos GP:Hypothalamic-pituitary-adrenal axis, neuroendocrine factors and stress.J Psychosom Res 53(4):865-871、2002
15) Vance ML:Medical treatment of functional pituitary tumors.Neurosurg Clin N Am 14:81-87、2003
16) 山路徹:プロラクチノーマの臨床.ホルモンと臨床 37:1079-1088、1989
17) 山路徹:プロラクチノーマ.日内会誌 83:2069-2074、1994

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* A Case of Microprolactinoma, it was Grown in Feeding Center, and Treated with Intravenous Hyperalimentation for Three years

                 完


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