私はかなり後半になってからちゃぴちゃんファンになったおのぼりさんです。初めて宝塚を観たのは2010年の『カサブランカ』でその後も一定頻度でそこそこ楽しく観劇してはいました。
可能性としてはちゃぴちゃんの存在に気が付くチャンスがなくはなかったのです。という、残念というより後悔に近いかもしれない思いが今でもふとアタマをもたげます。愛希れいかというジェンヌがいるということ自体知らなかったのです。

2016年に帝国劇場『1789』を二度観て、この作品何とかまた観られないかなとそう思ったとき、前年に宝塚でもかかっていてDVDも出ていることに意識が向きました。
「しかたがない。いつか帝劇版の映像が出るまでそれで我慢しよう。」と思ったのが、このときの私の偽らざる本音でした。ともあれ勤務先の地の利を活かし、そう思った翌日の昼休みに有楽町宝塚アンに走り『1789』のDVDを購入したのでした。

それまでの私はオペラ至上主義。
極端に言えば歌は上手くて当たり前。問題はそれ以上の価値を創造できているかどうかが問われているのであって、歌自体に問題があるならそもそも評価の対象にもならないというスタンスでした(ただ好きなだけであって、音楽について何か専門的な素養があるといったことはまったくありません)。
帝劇版ミュージカルを観て感動したといっても所詮はその範囲の中でのおもしろさに過ぎない部分があり、特に宝塚に対しては、無意識のうちに一段下に見ていたところがあったと思います、いま思えば。

私がヅカ落ちしたのは段々にではありません。その所要時間わずか2分30秒。
ちゃぴちゃんアントワネットの「許されぬ愛」を初めて聴いたとき、私の中にあった演劇の評価基準みたいなものが、それこそ暴力的といってもよいほどの力で根こそぎ崩れ落ちた瞬間でした。
実際に舞台を観たわけでもないのに!です。

私を宝塚観劇に連れ出してくれていた師匠にそのことを伝えると、次から次にたくさんのDVDを貸してくださいました。
『アリスの恋人』。すばらしく楽しかった。何回か繰り返して観るまで、ちゃぴちゃんの歌が震え、ズレまくっていることにまったく気付きもしませんでした。そのとき娘役に転向したばかりであることは後で知りました。もう完全に彼女の魔法にかけられていたのだと思います。
そして『ロミオとジュリエット』。サヨナラショーでも歌ってくれた「いつか」がダメ押しになりました。

ミーマイのサリー、PUCKのハーミア、JINの咲・結命、自分が取りこぼしてしまった時間を埋め合わせようとでもするかのごとく一作一作DVDを観るごとに夢中になりました。
『NOBUNAGA』からは実際に舞台を見始め、相手が珠さまに変わるとまたまた彼女の進化が始まりました。
『グランドホテル』で見せた怖ろしいほどの演技力、『カルーセル輪舞曲』の幸せ感極致のデュエットダンス。それから今日まで、本当にあっという間でした。

今日のサヨナラショーでのちゃぴちゃんは、あいさつは短め、それほど小洒落て凝った内容ではなかったと思います。これほどの演技、ダンス、歌巧者にしても、たぶんあれ以上トークをすること自体耐えられなかったと思います。また、舞台のうえですべてを出し切ったちゃぴちゃんにあれ以上の言葉も必要なかったと思います。
トップ娘役の重さが取れた彼女は、本当の素のちゃぴちゃんに戻っていました。

ここまで未知の世界に誘ってくれたちゃぴちゃんに、心からお礼を言いたいと思います。
あなたがいなければ私は宝塚の楽しさは一生わからなかったと思います。
これからもずっと応援し続けます。どこまでも遠く高く、羽ばたいていってください。
いままで本当にありがとうございました!

おまけ
月組の『エリザベート』は、東京千穐楽に向けて信じられないほど進化しました。特に珠さまのキャラクターは際立ち、新たなトートの型が一つ出来上がったと思います。
全員の団結ですばらしい『エリザベート』を作り上げた月組のチームワークとプロ根性にも拍手!