~徒然趣向~-スイカ夜話

『スイカ夜話/SUIKA』

01. スイカ夜話 with サイプレス上野
02. MUSIC JUNKIE
03. SKYFISH with STERUSS
04. ビートメイカー
05. Get On The Bus with Romancrew
06. スイカ夜話~Masterpiece
07. DRIP DROP
08. ミッドナイト、カラーバー with イルリメ
09. 孤独とダンス with リクオ
10. スイカ夜話~Body Movin'
11. 三つ目の恋
12. タマキハル with 降神
13. ほしずな with サト


冬を迎えようかという2010年11月にリリースされた、優しさに溢れた1枚。

SUIKAはキーボードやパーカッション、ポエトリー・リーディングなどを含む5人編成のユニットで、HIPHOPでは一般的とされる「MC+DJ」といった構成ではありません。
また、タイトルにもなっている『スイカ夜話』は、2004年から30回近くも開催されているという彼らの主催イベントの名前。アットホームな雰囲気が人気でリピーターも非常に多いのだとか。そこでの名物となっている、ジャンルを越えたアーティストとのセッションをパッケージ化したのが本作『スイカ夜話』。

冒頭に書いたとおり、アルバムを通しての印象は「優しい」。それこそ、生活の色んなシチュエーションにそっと寄り添うような楽曲が、多くのアーティストとともに作り上げられています。
非常にHIPHOPに精通していながら、その枠にはあえておさまらない雰囲気の楽曲は、時に先鋭性を感じさせてくれ、また時には懐かしさを感じさせてくれたりと、1枚通して聴いても飽きることはありません。
ファンキーな楽曲が飛び出したり、しっとりとした曲が続いたり、そんな風に油断していたら、「04. ビートメイカー」に代表されるような、HIPHOPマナーに則ったサンプリング・ビートが出てきたり。
トラック面では、1本筋が通っていながらも彩り豊かな印象。

また、「優しさ」を感じる要素としてぜひ挙げたいのがポエトリー・リーディング。
メロディーに乗るのとは違う、でもラップとは明らかに異なるそれは、その名の通り詩を読むかのような温かい印象を僕達リスナーに与えてくれます。

表現は非常に難しいですが、安心感が得られるような印象があります。そんなポエトリー・リーディングを担当するtotoとはある意味対照的な、タイトなラップをするタカツキとATOMのコントラスト、はたまた豪華なゲスト陣とのコントラストがとても魅力的だと感じます。

そんなtotoの数ある言葉の中でとても印象に残った一節を。

狂うことが恋というなら
わたしは世界中のものに恋をしている
あなたにつながるすべてに つながらないすべてに
        (09. 孤独とダンス with リクオ)

さてさて、ゲスト陣。
やっぱりHIPHOPアーティストが目立ちますが、それぞれが個性を残したままで、SUIKAの独創性と良い化学反応を起こしているように思います。サイプレス上野なんて1曲目の初っ端から「やりてぇなぁ」ですからね。

そんな多彩なゲストの中でも秀逸だったのが、STERUSSと降神。

STERUSSは、BELAMA2とCRIME 6の2MCの器用さが際立っているように感じます。本作中では珍しい部類に入るであろう疾走感あるトラックを見事に乗りこなしているにも関わらず、言葉のひとつひとつがしっかりと聞き取れます。素晴らしい働きだと思います。

そして降神。もはや、「降神」という名前でクレジットされているだけで興奮を覚えてしまうほどユニット名義でのリリースから遠ざかっている彼らが召還されたのは、まさにHIPHOP絵巻というべき、15分を越える超大作。
メンバーそれぞれが長めの小節をまたいで描くのは、それこそ1冊の小説のような物語。
それでも長さを感じさせないのは彼らのスタイルが全く異なり、個性に溢れ、無意識のうちに心ごと奪われているからではないでしょうか。

この作品『スイカ夜話』を手にしようとしているなら、どうか静かに歌詞カードを手にじっくり世界に浸ってほしいと願います。お気に入りは数曲かも知れないけれど、その数曲に出会えたとき、きっと優しく穏やかな気持ちの自分と出会えるはずです。


◆タマキハル with 降神(edited version)


◆SKYFISH with STERUSS(live version)