笹倉明「詐欺師の誤算」(2023年、論創社)を読んだ。


私は本を借りる時、最初に奥書を見る。著者紹介に、作家・テーラワーダ僧とある。2016年、チェンマイの古寺にて出家し現在に至る、とある。


詐欺師に騙された話なのだが面白くて一気読みした。


主人公は松原あさ子。58歳。東京の山手線のとある駅からほど近い小料理店「いちりん」の女将さん。L字形のカウンターと奥に座敷があるだけの店である。値段は並よりちょっと高めだがデパ地下で仕入れる食材と女将の料理が上手いのとその人柄から上質の常連客がついている。


藤代芳明、詐欺師である。生命保険会社最大手の安住生命に勤めていると自称する。


この詐欺師の普通と変わっているところは藤代芳明は本名であること。「いちりん」に常連客と同じように通っていること。安住生命に勤めていると信用させるために妻を連れていったりしているのだ。


そして松原あさ子に貯蓄型保険の満期1千万円が入ったことを知り投資詐欺を働くのである。


藤代は阿曽艶子からも2千万円投資詐欺していた。


そして二人から返済を迫られると警察に自首するのだ。詐欺で自首するのは珍しいという。


そのあと、刑事裁判、民事裁判、など延々と描かれる。


投資詐欺した3千万円の金は遊興費やギャンブルで使ってしまったと供述するがどうもおかしい、裏がありそうだ。


本当のところはどうなのかサスペンスのような展開で次々に実態が明らかになる。


藤代が自首したとき、松原あさ子を始め常連客の誰もが信じられない、と言った。それほど皆に信用されていたのだ。


松原あさ子にとって幸いだったのは常連客たちがいたことであった。何かと相談にのり、裁判の弁護士を紹介したり、裁判の傍聴にいったりしている。ひとりでは潰れてしまい太刀打ち出来なかったであろう。


私は金がないので詐欺にかかりようがないのだが、それはそれで寂しいものだ。



笹倉明「詐欺師の誤算」論創社。上の写真は撮り間違いではない。装丁をわざと横向きにしているのだ。「誤算」というのは共犯者の内縁の妻、小笠原真紀に裏切られることを指すのだろう。