凪良ゆう「滅びの前のシャングリラ」(2020年、中央公論新社)を読んだ。
4つの短編から成る。一ケ月後に小惑星が地球に衝突する世界を描く。それぞれ違う話が繋がって最後に一つの物語になっていく。
「シャングリラ」
シャングリラとは理想郷。
江那友樹(えなゆうき)、17歳。デブ。上・中・下の階層の下に位置してパシリやいじめにあっている。藤森さんに恋している。藤森さんが広島から東京へLocoのライブへ行くのを守るために後を追う。同じクラスの三人のいじめ組が藤森さんを強姦しようとするのを命をはって助ける。
「パーフェクトワールド」
目力信士(めぢからしんじ)、40歳。
「父親は三百六十五日飲んだくれ、博打に負けたのなんだのと鬱憤晴らしに俺を殴り、そのたび庇ってくれた母親が代わりにどつかれ、近所も歩けない顔にされる。」(p102)
喧嘩はやたらめったら強いチンピラになりヤクザになった。左胸にSIZUKAとタトゥーをいれている。
「エルドラド」
エルドラドはスペイン語で黄金郷。
江那静香(えなしずか)、40歳。友樹の母。
元ヤンキー。中卒で働いて友樹を一人で育てている。
「あたしは親に殴られて育った。信士もそうだ。亀のように手足を引っ込めて丸まり、なぜ殴られるのかわからないまま、ごめんなさいと必死で謝り続けたことを一生忘れないだろう。その痛みを知っているのに、どうして信士は嫌悪する親と同じことをするんだろう。」(p174)
「いまわのきわ」
山田路子(やまだみちこ)、29歳。大阪生まれ。中学、高校とバンドを組んででかい声が特技のボーカル担当。上京し苦労の末、Locoと言う名前の歌姫になった。
東京ドームのライブは中止になったが小惑星が地球に衝突する最後の日に大阪で元のバンドメンバーとライブを開催する。
「イスパハン」スピンオフ作品。
イスパハンは、ペルシャの古都でその地が原産のバラの名前。フランボワーズとライチ、バラを使った、ピエール・エルメパリを代表するフレーバー。
藤森雪絵(ふじもりゆきえ)、17歳。
大病院の院長の長女であるが養女であった。のちに妹が生まれ真実子(真実の子)と名付られる。両親は分け隔てなく育ててくれているが、雪絵はわだかまり、心に葛藤を抱えていた。距離をおくため東京に向かったのだ。
友樹は信士と静香の子である。同棲していて妊娠したときに腹の子を守るために静香は逃げたのだ。愛しあっていたが信士は切れたときにどうしょうもなく暴力を振るうのだった。
読み進めるうちにピースがひとつづつはめられていく。緻密に構成された小説である。